ヒマワリ畑
紅心中伝説。
鶴さんからの魂の授業を受ける。
どうもこれは俺だけでなくミモリに対しても伝えたかった話らしい。
鶴さんの話ぶりだと俺とミモリの境遇はよく似ているそう。
ひた隠しのミモリへの興味が余計に湧く。彼は一体何者なのか?
「よし休憩だ! さあ寛いでな」
鶴さんは日課の水やりに庭へ。
二人っきりなったところでミモリから話を聞く。
「おい休憩しろって! 俺に構うな! 」
「でもミモリさん何かご存じかと…… 」
俺からの追及をかわそうと逃げ隠れするミモリ。
もう今こそすべてを話す時のような気がする。
多少強引な手を使ってもミモリからきちんと話を聞きたい。
だがやはり何かあるのか頑なだ。
鶴さんに聞けばもしかしたら…… これもミライへ繋がるなら躊躇はしない。
「しつこいぞ海! 今はお前のことだけに集中しろ! 」
「そうなんですけど。ミモリさんも関係あるのかなと」
「余計な詮索はするな! 」
そう言ってトイレに逃げようとするのでついて行く。
この機会を逃せば口を閉ざしかねない。
ミモリが手を洗いうがいを済ませるとちょっと歩こうかと。
裏庭に回る。
広大な庭にはこれでもかと言うほどのヒマワリが咲き誇る。
そのまま庭と外との境界が曖昧になっている。
だからヒマワリ畑が広がっていても何ら不思議はない。
そう言えば電車から見えたヒマワリも凄かったな。絶景だったな。
俺もいつかヒマワリ畑でミライと……
ヒマワリは皆同じ方向に顔を向けている。
「うわ…… 暑そう…… 」
どうもヒマワリの夏のイメージにつられて暑さを感じてしまう。
色鮮やかでそれはそれは芸術的ではあるがそこまで花について興味がない。
食べられるか食べられないかぐらい。
ヒマワリの種は癖になる。ただ美味いかと言えば正直そうでもない。
「思い出さないか五年前を? 」
ミモリはふとおかしなことを呟く。
彼の視線ははるか遠く。なぜか優しそうで懐かしい匂いがする。
「そう言えば思い出したような気もする。
でもどうしてもミモリさんの存在が…… 」
「あの日お前をこのヒマワリ畑に案内した。どうだ? 」
ようやく具体的な話をする。
「まさか…… 兄ちゃん? 兄ちゃんなのか? 」
「お前名前を覚えてなかったのかよ? 」
「名前は覚えられないんだ俺。まさか一緒に秘密基地を作ったりした? 」
「おお覚えてるじゃないか! 集落を案内したと言ったろ? 」
ついに五年前の記憶が蘇ってきた。でもところどころ。鮮明ではない。
まだ曇っている。雲間から太陽を感じると言ったところ。
確かにあの時兄ちゃんはいた。一緒に秘密基地を作った仲間。
何だか悲しそうだった。まるで何かを失ったようなそんな顔をしていた。
今はどうだろう? 時折見せる優しさを重ね合わせる。
兄ちゃんか……
でもやっぱり兄ちゃんと呼んだのは一度だけだった気がする。
確かあだ名があったような気が。何だったかな? うーん。思い出せない。
ミモリがあの時の兄ちゃんに間違いない。
一緒に秘密基地を作り忙しい両親の代わりに遊んでくれた兄ちゃんだ。
そして俺が秘密基地作りに夢中になってる時に突然姿を消した。
その後一人ぼっちになり寂しくて探しにいった。
そこで…… 迷って例の場所にたどり着いたんだったよな。
「おい! 勝手に出歩かないでくれよ。探し回っただろう? 」
息を切らして腰のあたりをさする鶴さん。
「これは申し訳ありません。お体は? 」
「いいから戻るよ! 」
休憩を挟み再び紅心中を語る。
あれ…… ちっとも頭に入って来ない。
何だかぼうっとする。まるで夢の中にいるよう。
「おい! 起きろって! せっかく聞かせてもらってるんだぞ? おい…… 」
ミモリの声が遠ざかっていく。
どうしたんだろう俺…… おかしいな。眠い。何だかとても眠い。
「いいから寝かせておやり。これでいいのさ。
恐らく何者かの介在で意識を失ったんだろうね。
うんいい兆候だ。さあたっぷり寝るといいよ。そしていい夢を見るんだね」
「ミライ! ミライ! 」
厳格なお母様。少しでも余計なお喋りをすれば叱りつけます。
静かに怒りを。決して騒がず冷静に。
自身でどこが正しくて間違っているのかを自覚するまで許してくれません。
声を荒げない代わりに表情は険しい。疲れ? 後悔?
きっと私を生んだことを後悔してるのだと思います。
今日の分はもう済ませゆっくりお友だちとお喋りしていただけ。
そう言えばお母様が近づくとすぐに皆さんどこかへ。
一人取り残された気分。
足も遅く鈍感でおしゃべりに夢中なティアナ。
退路塞がれ隠れるのですがすぐに睨みつけられ下を向く。
お母様はお許しになられずにお宅の娘がたぶらかすと文句を言いに行ってしまう。
今日も捕まったティアナは許しを請うも引っ張られて連れて行かれる。
「ちょっと…… ミライ助けて! 」
ふふふ…… ダメ。どうしても笑ってしまう。
ティアナは親友で幼馴染。私と同い年だと言うのに落ち着かずふざけてばかり。
真実などほとんどない噂を真に受けて親切にも話して回る。
うんうんと聞いてあげるのだけどそのうち本人が分からなくなってしまって。
それで何だったっけと私に聞くのでそれはねと丁寧に教える。
ふふふ…… いつの間にか立場が逆転してしまっている。
そんなティアナはついに来年の夏にアバンシティーに引っ越すそう。
お姉さんの婚姻の準備だとか。ティアナもそこでお相手探しなさるそう。
「いいなあティアナは」
「何を言ってるの? あんたは国王と結婚するんでしょう? 」
そう私は五年前の夏に選ばれた。
あの時なぜ私が選ばれたのか? 未だに不明。
続く