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鶴さんの魂の授業

現在。鶴さんの家。

鶴さんによる紅心中伝説はそれはそれは悲しいお話だった。

ジュリーとカーネルの二人は運命に翻弄され最悪の選択をしてしまう。


よくできた話。しかしそれが何だと言うんだろう?

俺には悪いけど無駄に思える。貴重な時間を割いてまでするお話なのか?

これなら昨日でもできたでしょう? あえて覚悟を見せる必要さえない。

それに少々長かった気もする。もう明日がタイムリミット。

のんびり聞いてる暇は今の俺にはない。

鶴さんにしろミモリにしろ俺もだがこんなところで暇をつぶしてる時間はない。

本来ならミライの手掛かりを探しに集落を回ってる頃。

出遅れては致命傷になる。それほど切羽詰まった状況。もはや冷静でいられない。


「これをどう解釈するかね? 感想を聞かせてくれないかそこの若いの? 」

「海です! 大変悲しい話でした。昔は本当時代のせいもあって大変だったなと」

あれおかしいぞ? 鶴さんから笑顔が消えた。なぜか歓迎されてない。

どう言うことだ? やはり俺は国語苦手だから。特に昔の話は眠くなるんだよね。

知らないうちに欠伸でもしていたか? 


「海よ。お前はこれを物語の一つと受け取ったのだな? 」

鶴さんはなぜか俺を試すように聞く。

「だって遥か昔のお話でしょう? 本当かどうかも分からない神話でしょう?

大体神話なんだからフィクションでしょう? 今の俺には関係ない」

「それでは一生お前はミライに会えんぞ! 」

再び脅しを掛ける鶴さん。

思い通り行かないからって八つ当たりしなくてもいいじゃないか。

俺は鶴さんにもミモリにも支配されない。自分を通すんだ。


「まさか俺にはその資格がないと? 」

「ああないね! まったくない。なぜ自分のことのように受け取らない? 」

鶴さんの魂の授業が続く。

情熱的な鶴さんはつい感情的になり暴走する。これでは陸と変わらない。

俺の言うことを聞かないだけ余計にタチが悪い。

この神話にも教訓はあるだろうが理解するにはもう少し大きくなってからでいい。


「冗談ですよね? 」

「冗談なものか! いい加減目を覚まして現実を見るんだよ! 」

「そんな…… 」

「泣き言を言うな! まず物語について総括すれば決して悲しい話ではない」

そうそうこうやって揚げ足を取る奴いるんだよなどこにでも。

まさかそれが鶴さんとは。一般的にはどう考えても悲劇的な終わり方じゃないか。

どうしてこれが悲しくないんだ? 別にそれはそれで構わないけど。


「ああもちろん喜劇でもないし決して楽しい物語でもないさ。

でも二人は少なくても何度かは会った。出会えたんだよ。

お互いの意思で最期を迎えられた。これはとても素晴らしいこと。違うかい? 」

うわその言い方はずるいとしか思えない。

「はい。まあそう言われれば確かに。悲しくありませんね」

つい合わせてしまう。学校でもこうだから俺は自分自身が情けなく思う時がある。

そんな時自分の意見を通すのが陸。相手が誰であろうと怯まない。

羨ましいが代わりたいかと言った違う。


「馬鹿! 自分の意見を曲げるんじゃないよ! 情けないねもう! 」

鶴さんの失望は相当なもの。大きなため息を何度も吐く。

それは聞き役としてはほぼ役立たずの俺だけどそれも俺の個性。

どっちつかずの優柔不断さは決して情けないのでも恥ずかしいのでもない。

鶴さんを思いやってのこと。それくらい分かって欲しい。


「済みません! 俺が間違ってました! 」

「それがいけないって言ってるんだよ!

男なら一度口にしたことは訂正せずに貫け! 」

どうやら意見や感想ではなく俺の煮え切らない態度が気に喰わないらしい。


「そしてこれはあんたの身にも降りかかることさ」

鶴さんの衝撃な一言で室内はシーンとなる。

俺だけじゃない。ミモリも似たような反応。

彼はどちらかと言うと後悔しているかのよう。


「どうしたんだいミモリ? 傷ついたか? 」

鶴さんはミモリに目を向ける。

てっきり俺に向けてだと思っていたがミモリも関係あるのか?

そもそもこの二人の関係は?

ミモリがあえて俺のために鶴さんを合わせてくれた。

これまで助けるだけでなく邪魔をしていたから分かり辛かった。

もしかすると彼もとんでもない隠しごとをしているのかもしれない。


「ミモリさん…… まさかあなたも? 」

「ははは! 海は余計なことを考えるな! 俺は関係ないだろう? 

余計なことに気を取られれば失うことになるぞ。

お前はただひたすらミライのことを考えてればいいんだ」

余裕を見せようと必死。それが引っ掛かる。


「ねえミモリさん? 」

つい追及してしまう。

本人の言うように彼が何者で過去がどうだろうと今の俺には関係ない。

それなのにどうしてもミモリが気になって仕方ない。

気になって気になって。


ある時は俺たちの前に立ちはだかる守護神。ラスボス的存在。

ある時は窮地に陥った俺たちを救出する救世主。

今朝だって冷静さを失った俺に寄り添うようにしてくれた。

厳しくも時は優しいそんなミモリと言う存在。

今ここで考えることでもないが。

イマイチ味方か敵か分からない奇妙な存在。

鶴さんによって本性が露になりつつある。


「鶴さん。私のことはいいですから先に進めましょう」

根負けしたミモリは口を挟む。あまりにらしくないミモリに違和感。

「そうだね。もう随分昔のことだからね。

そろそろ覚悟は決まったかい海? 」

「俺はまだよく分からない」

「ふう…… もう時間がないと言うのに当事者意識が薄すぎないかい? 」

「でも俺まだ子供だし」

「言い訳するな! チャンスを掴もうとしないのは若者の悪い癖だよ。

それが格好いいと思ってるのかい? 格好いいはずないだろう」

ズバズバ言う鶴さんは反論の機会を与えてくれない。

俺は正しいんだかも分からない主張に頷く。


「よし休憩だ。さあ寛いでな」

鶴さんは日課の水やりに庭へ。



                  続く

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