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紅心中伝説

鶴さんからチュウシンコウに関する話を伺う。

「よし。お茶を淹れ直そうね。せんべいぐらいしかないけどいいかい? 」

呑気にお茶の話。お茶菓子などこの際何だって構わない。

そんなことより早く話してくれよな。俺は暇じゃないんだ。


「それで何の話をしてたんだっけか? 」

「そのネタはもういいっすよ。早くお願いします」

「おおそうじゃった。紅心中だったの。近頃物忘れが激しくて。

さっきまで話してたことが急に思い出せなくてな」

どうやら本気らしい。そう言えば婆ちゃんもたまにそうなる時がある。

これはボケとかではなく勘違い。あるいは物忘れだそう。

初期症状にも似てるが確実にそうだとは言えず年を取れば普通のことらしい。


「ここはどこ? 」

ただの物忘れだとは思うが質問から始めるから怖い。

「日本」

「そう。だが世界は広いな? すべての国と首都が言えるか? 」

突然訳の分からない話で煙に巻く作戦? 言えるはずないだろう?

「俺は地理が苦手で…… 」

「言えなくていい。とある国では親の決めた相手以外認めないと言う厳しい掟が。

親の言うことさえ聞いていれば幸せになれる。すべて親任せ。家任せ。村任せ。

だが当然反発する者も中には出て来る。その一人がジュリー」


鶴さんがポツポツと語りだす。


悲劇のヒロインのジュリーは何不自由なく暮らしてきた村でも評判の娘。

彼女は幼き頃より婚約者が決められていた。相手は村で有力者の跡取り。

スタイルもよく頭もいい。憧れの対象。

決して誰もがお相手になれるような方ではなく美男美女の羨むべきものだった。


大きく育ったジュリーはある日村外れの川辺で意識を失った男を発見。

貧相な身なりをしたガリガリの男であった。

三日三晩懸命に介抱したかいもあって無事に回復。

彼はぜひこの家の力になりたいとやる気満々。

しかしそれは受け入れられないと断ったことから悲劇が。


「お父様? それはあまりに可哀想では? お客様を無下に扱ってはいけません」

「黙れ! そ奴はお前を狙っておる。決して近づくでないぞ! 分かったな? 」

そう言って二人を無理やり引き裂いた。

「お父様何を…… 」

ジュリーのお父様は頑固で主張を曲げるのが大嫌いなお方。

「ここには置いてけない! 自分の立場を弁えるんだジュリー! 

いいかお前? 明日までに国を離れろ! うろうろしていれば叩き切るぞ! 」


翌日。

「ごめんなさい…… 」

村の外れで最後の挨拶を済ました二人は互いに愛を囁き合う。

いつの間にか二人は惹かれ合っていた。

一年後の再開を約束し男は村を去る。

これで一旦は収まった男を巡るトラブル。

ただ一度入った親子のひびは容易には取り除けない。

ことあるごとに反発するようになってしまう。


一年後。

男のことを忘れられずジュリーはいつものようにため息ばかり。

案じた父は婚姻の時期を早める暴挙に出る。

それは家の為。村の為。最終的には娘の為になると信じて。

「お父様! 私はまだ嫁ぐつもりはありません。

あの方と一緒になるつもりもありません。どうかお許しを! 」

つい反抗的態度を取ってしまうジュリー。

僅か一年とは言え会えないことで蓄積した思いがどこまでも高まっていく。

しかし逆にそれが逆鱗に触れることに。


「黙れ! 黙れ! 何を抜かす! 我が娘ながら情けない。何と情けないことか!

やはりあの男か? しかしもう会うこともないはずだ。忘れるのだ! 」

ジュリーの我がままが許せずにより一層厳しく接してしまう。

その結果ますますジュリーの反発を招き関係は最悪に。

「いや! お父様の言う通りにはしませんから! 」

ジュリ―はついに歯向かってしまう。決定的な亀裂が生じる。


「我がままを言うんじゃないジュリー! 大体あいつはもう帰って来んわ! 」

「来ます! もう明日にでも! 」

つい勢い余って再会の約束を漏らしてしまう。

「ははは…… 分かった。奴が来たらもう一度考えよう。それでいいな? 」

こうしてどうにか親子の対立は収まったように見えた。


夜。

「おい! 」

「お呼びでしょうか旦那様? 」

「ジュリーの後をつけろ。奴を見つけたら捕らえて村から追い出せ」

「しかしよろしいのですか? お嬢様が悲しまれますが…… 」

「お前は余計なことを考えずに命令に従えばよいのだ。分かったな? 」

「はは! お任せください! 」

こうして事態は急展開を迎える。


翌朝。

村外れの森。

「ジュリー! 」

「カーネル! 」

時の流れは残酷なものでやせ細っていたカーネルもブクブクに。

屈強な体で引き締まったと言うよりもただの美食家。

「どうしたんですその体は? 随分お太りになられましたね」

心配になって追及するもただ笑って返すカーネル。

「あなた本当にカーネルなの? 」

「おお! このカーネルを忘れたと言うのですか? 」

どうやら本物で当時のように痩せ細ってガリガリからふっくら肥えたよう。

ああこれがあのカーネルなのね? 恋が一遍に冷めてしまいそう。


「ははは…… 心配するな。ご挨拶までには腹のたるみを解消して見せる」

「それは楽しみですね。ではまた明日にでも」

こうして村の外れの森の中で密会を終える。



                  続く

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