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ミモリの謎

夢から覚め現実に戻される。

コテージには誰もいない。希ちゃんもミモリもいない。

どうやら俺が寝てる間に行ってしまったのだろう。

昨日陸とアイミがそして今朝希ちゃんが。

これで俺は一人だ。一人ぼっちだ。

そう思うだけで物凄く怖くなる。

仲間を失って自分を見失いつつある。

平常心ではいられない。物音がすれば怯えて隠れてしまう。

それほど精神的に参っている。やはり仲間の存在は大きい。


ミモリが何者か鶴さんだってよく分かってない。

猜疑心から幻覚が見えつつある。

俺はきっと…… 捕らえられて八つ裂きにされるんだ。

この集落の奴は皆狂っている。俺はこの集落に一人っきり取り残された。


はあはあ

はあはあ

もう誰も守ってはくれない。ここは皆俺の敵だ。

たとえ父さんであろうと爺ちゃん婆ちゃんであろうと。

俺は一人。それでも戦う。戦うには武器が必要だ。


キッチンに行って新品の果物ナイフを手に取る。

殺傷力は低いがこれで脅せば誰も近づかないし従わせることもできる。

ふふふ…… もう大丈夫。俺はこの危機を乗り切って見せるぜ。

孤独でも一人でも関係ない。俺は生き残るんだ。


「ただいま。おい戻って来たぞ! 早くしろ! 」

男の声が聞こえる。どうやらミモリが……

「うわ! 何をする? 海? 」

無防備なミモリに襲い掛かるが一撃目をかわされるともうダメ。


ハアハア

ハアハア

恐怖のあまり固まってしまう。そして呼吸が浅くなる。

「何をしてる海? 正気を取り戻せ! 俺は敵じゃない! 」

「うるさい! お前はすべて話せばいいんだ! 隠しごとばかりしやがって! 」

「おいどうしちまったんだよ海? 本当に海か? 」

「俺に逆らう気か? だったらお見舞いしてやる! 」

果物ナイフを振り回して突っ込む。

「馬鹿はよせ! 俺が一体何をした? 

感謝されることがあっても恨まれるようなことは何も…… 」


うおおお!

足を引っかけられて果物ナイフを落とす。

「おい海! どうしたんだ海? 」

そう言いながらも体を強い力で押さえつける。抵抗されないように必死。

「痛いよ! 痛いよ」

「ほら大人しく。気を確かに持て海! 」


「お前は味方なのか? 」

「当たり前だろう? 俺だって鶴さんだって…… 」

こうして徐々に正気を取り戻す。

「怖くなったか? 」

ミモリはほんの少し笑う。それが逆にイラっとさせる。

我慢できずに笑いどうにか堪えようとする。

要するに俺を無意識に蔑んでいる。そうに違いないんだ。


床に転がった果物ナイフが目に留まる。

「おいしっかりしろ! これ以上は庇いきれないぞ」

ミモリはついに感情を露にした。いつも冷静でどこか遠くを見てる感じ。

俺をまるで見てない。それが俺を益々不安にさせる。

どうしてこいつはいつもこうなんだ。

俺だけでなく仲間にもそのような態度を取っていた。

冷たいと言うレベルではない。もう感情がないか無理に抑え込んでいるよう。


「どうした海? 詳しく話してみろ。なぜこんな愚かな真似を? 」

ミモリが優しい眼差しを向ける。おかしいそんな温かい人間であるはずがない。

彼は確かに俺たちを助けた救世主。だけど隠した。

真実に近づいてなお隠そうとしている。

それは鶴さんも同じに見える。昨日だってもったいぶって。


「俺一人になって急に恐ろしくなったんだよ」

正直に白状する。もうここまで来れば隠す意味も余裕もない。

「それは俺のせいか? 」

「あんたのせいだ。真実に近づこうとする俺たちに邪魔しただろう?

だから信用できない。そうなるともう仲間もいなくなり頼る者がいなくなる。

あんたがもう少しサポートしてくれればな」

つい文句を吐く。でもこれも自分を守るため。


「甘えるな! お前と俺は友だちか? 家族か? クラスメイトか? 

違うだろ? だったら現実を受け入れろ。怖いからって泣くな喚くな狂うな! 」

ミモリは初めて声を大にして叱ってくれた。

あれ? 俺は今まで何をしていたんだろう?


「ごめん。俺…… やっぱり怖いんだ。凄く怖いんだ。

この集落に閉じ込められるのもあんたに裏切られるのも…… 」

「真実を知るのも。ミライを失うのも…… そうだろ海? 」

補足するミモリ。


おかしい。彼にはチュウシンコウについてのみ話した。なぜミライを知っている?

俺は一度たりとも話してない。それは確かに信頼する仲間には話したさ。

でも父さんにも母さんにも婆ちゃんにもミライについて語ってない。

知る由がない。それなのにミモリはミライを知っている。

そして俺が約束の場所でミライと再会しようとしてることも知っている。

俺のことはすべてお見通しだと言うのか? 預言者か何かか?


何て奴だ? 物凄い恐怖が。それとともに嬉しさが込み上げる。

あれ? これはどちらの感情が正しいんだ? 

俺は今この男にすべて打ち明けようとしている。


「なあミモリさん。何であんたミライを知ってるんだ? 」

もう引き返せない。ミモリが不用意に発したミライと言う言葉に噛みつく。

これは聞き間違いじゃない。彼は意図して発言している。

俺をコントロールしようとしている。支配するつもりか?

一人になって狂った俺の弱さを見て操れると思ったのか?

もしそうならそれは大きな間違いだぜ。


「おいおい怖い顔するなよ。もちろん寝言…… 」

確かにミライの夢を見ていた。そしてずっとミライと叫び続けていた。

本来なら嘘くさいことでも自覚がある以上その説明にもある程度納得する。

「何だ。俺が叫んでたって話ね。驚かせるなよ。人が悪いぜミモリさんも」

「済まん。今はそれしか…… 」


今ミモリと直接対決。彼は俺を必死に抑えようとしている。

もう朝も過ぎ昼になろうとしてるのにこんなことをしてていいのか?

時間がないぞ。俺の残された時間はもうさほどない。


              続く

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