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三人同時

「お前…… 俺のことを気にしないでさ…… 」

奴はもう限界なのか顔面蒼白で足元もフラフラ。

どんなにポジティブでも立ち直るにはそれ相応の時間が掛かる。

俺だったら夏休みすべてを費やしても無理だろう。

二学期に復活するぐらい。それをどうにか克服しようとしている。


「おい陸! 陸ってば! 」

「いいんだって。俺のことは放って置いてくれ」

奴が気を遣うのだから笑ってしまう。

これはかなり重症だな。落ち込んで元気がない。

何だか久しぶりに可哀想に思えてくる。


「おい気を落とすなって! これは予行練習だったんだろ?

いくら玉砕したからってそんなに落ち込むなよ。目標は希ちゃんだろう? 」

どうにか元気づける。こんな俺の励ましは逆効果な気もするが。

それでもとにかく落ち着かせる。

誤解なんだよ…… どう説明したら奴に分かってもらえるのか?

俺だってこんな展開になるとは夢にも思わなかった。

だからって奴を無視して浮かれる訳にもいかない。


「ああ…… 俺は大丈夫だ」

ただそう述べるだけ。昨日までの元気がない。振られたのが相当堪えたらしい。

それもそうだよな。目の前の男に搔っ攫われたのだから。

気持ちは痛い程分かる。でもって俺はどうとも思ってない。

「ほら明日から夏休み。ゆっくりできるぞ」

「ああ…… そうだな…… 」

もう何を言ってもそうとしか言わなくなった。

いくら呼び掛けたところでそれ以上返ってくることはない。

何も言わずに別れることに。


こうして三日間に及ぶ補習を無事に終える。

果たして本当に無事に終えたかは微妙ではあるが。

これで俺たちはようやく夏休みに突入する。

解放されたんだ。足かせのように俺たちを縛り付けていた補習はもうない。

全国で一番を争うほどの遅い夏休み入り。

これもすべてテストの点が悪かったのが原因。

それでも彼女から告白を受けて悪い気はしない。

今までは奴が居たから抑えていたけどもういいだろう。

大声を張り上げて喜びの雄たけびを上げる。

これでいい。これでいいのだと思う。

告白を受けて迷惑だと思うはずがない。逆に思いが募る。

でもそれは奴を裏切るだけでなく希ちゃんをも。

そして五年前に再会を誓った少女にも悪い。

三人同時に付き合えるほど器用ではない。だから悪いが彼女には我慢してもらう。


「お帰り。どうだった学校は? 楽しかったかい? 」

婆ちゃんの何気ない一言についドキっとしてしまう。

いやいや知っているはずがない。まさかあり得ない。

あんなこと知られたら恥ずかしくて恥ずかしくて生きて行けない。

もちろん大げさだなとは思うけど。

実は告白するのもされるのも初めての経験。

それは確かに小さい頃に何度かあったけどさ。

でもその頃と今では価値も感覚も何もかもが違う。

緊張度合いも恥ずかしさもだ。


「どうしたんだい? ぼうっとしちゃって? 学校で何かあったのかい? 」

そうやって笑って見せる。ただふざけたのだろう。

「ははは…… ある訳ない。だから可もなく不可もなく。まあまあかな」

いつもこんな風に答えている。


ただ日々何か変化がある訳でも楽しいことがある訳でもない。

平凡な毎日が繰り返されていく。

そんな中で夏休みとは言えただの補習で学校に行っただけだから普通は何も……

だが今日だけは違った。幸せな出来事があった。

「まあまあかい。それはいいね。悪いことがないならそれは幸せさ」

極論を言えばそうだけど悪いことと言うのはそうそう起きない。

どれくらいを悪いと定義するかにもよるが居眠りを注意されただけではね。

テストが悪くても気にしない。普通のことだ。

そんな風に考えてるから悪いことと言ったらそれはもう……

最悪のことしかない。それはとても言葉にはできないこと。

それが俺にではなく奴に起きている。


「いいことがあれば必ず悪いことが起きるものさ」

意味深なことを言う。まるで予言してるかのよう。

そうすると俺は告白されたから相当いいよな? 浮かれるほど素晴らしいこと。

いいことと同じぐらい悪いことが起きるならそれは相当なことだろう。

どうであれ覚悟が必要になってくるな。


「もう婆ちゃん! いい加減なこと言わないでってば! 」

「あれあれ怒られたね。これが悪いことかい? 」

ふざけてるところを見るとやはり本気ではないらしい。

俺だって別に気にしてないけど。

でも告白されたのだから有頂天にもなるさ。

いいことには違いないんだ。


「それで母さんはまだ帰って来ないの? 」

「ははは…… またあの話かい? それよりも婆ちゃんの田舎に行こうよ」

お茶を飲みゲラゲラと笑う婆ちゃんは本気で俺のこと考えてるのかな?

それはさ確かに今年でなくてもいいよ。来年も再来年だってチャンスはある訳だ。

父さんが失踪でもしない限り行く機会はある。焦る必要は無い。

それは分かり切ってるんだけど。

ただ実際はそうでないから困ってる。

俺には今年の夏に行かなければならない事情がある。

彼女との約束があるんだ。期限もある。


「ねえ婆ちゃん…… 」

「何だよあんたはしつこいね。あの子みたいになるよ」

そう言って親友の名前を出す。

いくら何でも失礼だろう? 確かに奴はしつこいしうるさいがそれが奴の個性。

それで付き合いをやめることはない。

このままでは夏が終わってしまう。そうなれば約束だって……

ああどうしたらいいんだろう? 


「ははは! 面白いねこの番組はさ」

ダメだ。もう俺のことは気にしてない。もちろん振りだろうが。

いくら面倒臭いかってその扱いはないよな。


                続く

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