当時から五年後の現在のミライの姿
ミモリのコテージ。
希ちゃんは早朝に出て行くそう。その決心は固い。
俺にとって掛け替えのないパートナー。まさか見捨てないよな?
もう希ちゃんったら俺を試すようなことばかり。
ははは…… 冗談だよね? 冗談に決まってる。
「それからもう一つ。あなたの覚悟か知りたい」
覚悟覚悟と言うが鶴さんにしろ希ちゃんにしろ大げさなんだよな。
たかが人探しじゃないか。そんな覚悟って必要?
もちろん俺には大切な人物ではあるけれど。
「俺は希ちゃんを信じるよ」
「そう。もしあなたの言うミライさんが存在してなかったら? 」
おかしな質問をする希ちゃん。どう言う意味だ?
「それはあり得ない。俺は五年前に会ってるんだから」
「だったら何らかの事情で会えないとしたら? 」
「大丈夫。タイムリミットはまだだから。きっとどうにかなるさ」
楽観的だがそれでいいと思っている。これ以上迷いたくないから。
「バカ…… それでも」
「考えないことはないけど…… 俺にはやっぱり分からないよ」
「その時は帰って来てね」
希ちゃんはそれが言いたかったんだろうな。
「分かった。もし不都合なことが起きて出会えなかったら戻って来るよ」
「きっとだよ? 」
「ああきっと…… 」
こうして最後の挨拶を終え寝ることに。
一人は寂しいがこれも仕方ないこと。俺はミライ選んだのだからな。
翌朝。
ついに運命の日を迎える。
今日が過ぎればもうミライと会えない。そんな気がする。
起きて! 起きて!
なぜか朝なのにまだ室内は薄暗い。日の光はどこへ?
「もう少し寝てようよ。ミモリさんもまだだしさ」
起きて! 起きて!
もうそれしか言わなくなってしまったポンコツの希ちゃん?
彼女の気持ちは痛いほど分かる。俺がはっきりしないものだから。
まだ俺への未練があるんだろうな。
それを断ち切るためにもしっかり断るべきだったな。
「ねえ希ちゃん…… 」
あれ…… 違うぞ。誰だ? 俺は彼女を知らない。
「君は誰? 」
「酷い! 私のこと忘れたの? 」
まるでアイミのような口癖。
アイミの場合はしつこくてうんざりするけど冗談めかしてるからな。
ただ彼女はアイミじゃない。
自信満々で語りかける彼女。何だか遠く感じる。物凄く遠くに見える。
「君は一体誰なんだ? 」
俺は知らない。彼女を知らない。一度だって見たことも会ったこともない。
女友だちは限られている。希ちゃんでなければアイミ。それ以外思いつかない。
「そっか…… 陸は私を忘れちゃったんだね? 」
夢のくせに生意気だ。俺が忘れたら夢にならないだろう?
潜在意識が君を作ってるんであって。違うとでも言うのか?
ノンレグの賜物ではないのか? フロイトに聞くまでもない。
「だから覚えがないんだ」
「それは当然。これはあなたの夢に直接話しかけてるんだから。
夢でも過去でもない。現在の私。あなたがここまで来たなら私だって姿見せたい」
かなりぶっ飛んだ人だ。俺が来たから姿を見せるのが礼儀? 何だそれ?
「そうすると君はまさか…… 」
いやそれはおかしいだろ? 夢は過去であって未来などではない。
「もう焦らさないで。さあ私の存在を認めて」
笑っていた彼女はいつの間にか瞳に涙を溜めている。
俺が認識してくれないから悲しいのだろう。
それにしてもあまりに哲学的な夢を見るんだろうか?
俺が頭が良すぎるからこんな夢を見てしまうんだろうな?
これは大いに反省すべき点。
夢によってその人の潜在能力が測れる。即ち知能の高低が分かってしまう。
自分では意識していなかったがどうやら相当な知能の持ち主だと今分かった。
しかし夢ならそろそろ覚めるとは思うんだけどな。どうしてまだこの状態?
「お願い! 私を助けて! 」
訳も分からず助けを乞われてもこちらとしてもついて行けない。
「君はミライ…… ミライなのか? 俺の愛すべきミライ? 」
「ふふふ…… そうだよ。あなたの愛しのミライです」
自分から愛しのミライなどと言うかな? どうも怪しいんだよな。
今現在のミライを知らないものだから適当に演じられる。
でもそうか。俺の夢に直接侵入するような者はいない。
こんなことをするのは助けを求めているミライしかいないじゃないか。
全面的に信頼するのはどうかと思うがある程度は信じていいような気がする。
「だとすると君は五年後の君? 」
「ううん。現在の私」
ミライは夢にあらぬ理解力のなさ。
「だから出会った小学生の頃の五年後だろう? 」
「あなたからはそうなるんでしょうね。でも私は現在の私だから」
五年前にその存在を知りそれから一度も会えなかったミライ。
その彼女が現在の姿で夢に現れた。これは一体どう言うことだ?
俺は五年後の今の姿を知らなんだぞ。どうやってこうなった?
「どうしたの? 」
「悪い…… これって夢かな? 」
「違う! あなたの脳内に侵入したの。そう言ったでしょう? 」
「そうか。だったら正夢な訳だ? 」
まったく理解できない。ミライがおかしくなっている気がする。
「違うよ。でもそれが一番分かりやすいかな。お願い早く私の元に! 」
ミライは確かに存在した。それは俺の記憶が正しかったことになる。
陸に話してると自分でも違うのではと疑い始めていた。
もちろんまだ疑いが完全に晴れたのではない。
とにかく一刻も早くミライに会って話をしよう。
「ミライ! 待ってろ! 今すぐに行くからな! 」
ここに来て夢が現実になった。これはもう俺の脳では追いつかない。
補習ばかりの脳みそでは到底処理できないほどの情報量。エラーを起こしそう。
「ありがとう。再会することを楽しみにしてるよ」
いつの間にか姿を消すミライ。
こうして夢から覚め現実に戻される。
続く