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希ちゃんの気持ち

鶴さん訪問から希ちゃんの様子がおかしい。

それはミモリも同様だがただ彼の場合は鶴さんのせい。

不用意に余計なことばかり語るから気まずくなったのだろう。

希ちゃんは鶴さんの話を聞いた訳でもないのにどこか迷いがあるような感じ。


「ぼーっとしてどうしたの? 」 

「あのね海君。帰ろうと思うんだ」

「ああ明日だろ? だったら鶴さんの話を聞いてから…… 」

「ごめんなさい。夜が明けたらすぐに帰ろうと思うの」

「でも俺…… 」

まさか諦めろと? もう少しで手掛かりがつかめそうなのにそれは無理。

大体一日やそこらで違いなどないだろう? なぜ俺を困らせるようなことをする?


ミモリはもう寝てしまって二人っきり。

部屋は別々で寝るつもりだがそれは希ちゃん次第。

「分かってる。私一人で帰る。お邪魔だと思うから先に帰るね。

明日お別れが言えないだろうからここで」

希ちゃんは何かを悟ったらしい。

俺がまさか希ちゃんを捨てると思ってるのか?

それは確かにそう考えた時もあった。でももう立派な相棒だ。

地下牢の脱出だって希ちゃんの交渉術があってこそ。

俺たちだけではとてもとても無理だった。明日だって力を貸してもらいたい。


「まるで永久の別れじゃないか。大げさだな」

笑ってごまかすが自分でさえもそんな気がしていた。

そもそも俺は声高に宣言していた。

愛も夢も希望もすべて捨ててただミライの為だけに生きると。

ただの覚悟でしかないがそれでも希ちゃんが悟るのに十分だろう。

希ちゃんもいろいろ嗅ぎ取ってこんな提案をしたのだろう。

彼女にそうさせた以上中途半端はいけない。


「海君。残念だけどたぶんこれでお別れ。

あなたが幸せになるならもう会うこともないでしょう」

突き放した言い方。凄く寂しく感じる。まるで遠くにいるような錯覚を起こす。

「それはどういう意味? だって俺…… 」

五年前の約束を果たすために俺たちはこんな山奥の辺鄙な集落までやって来た。

とっくの昔に縁が切れたと思っていた父さんや爺ちゃんに婆ちゃんに会いに。

それは明らかについでで。俺には密かな目的があった。


ミライと五年ぶりの再会を果たす。

そのためにはあらゆる犠牲を払うつもりだ。

ミライのためにすべてを捨てていいと思っている。

学校も家族も友達も。愛も夢も希望も。

でもいざ決断となると迷いが生じる。

本当にそれでいいのか? 正しいのか? 

もはやミライだけのためにすべてを捧げていいのか?

ミライは本気で今も俺の助けを求めてるのか?

あの頃と今では…… 五年前と現在では感覚が違うのでは?

俺がそうなのだからミライだってきっと迷いが……

もう忘れてるよな。だがそれも確定じゃない。

俺たちがそうだったように囚われていたら? そう思うと気が気じゃない。


「もう気づいてるんでしょう? どちらかを選ぶ段階だって」

希ちゃんは笑うが何だか悲しそう。

決して具体的には言わないが希ちゃんとミライを今すぐ選べと言うことらしい。

「俺は希ちゃんが好きだしいいパートナーだと思う」

「でも? 」

一言だって言ってないのに続けさせようとする。

「でも俺にはミライがいる。だからその…… 」

「ほらしっかり。怒らないから」

励ます。まったくどこまでお人よしなんだろう?

そんな希ちゃんを見ると余計に非情な決断ができない。

どちらかを選ぶなどできるはずがない。

でも選ばないと希ちゃんは納得しないんだろうな。


「ごめん。俺はミライを選ぶよ。そしてできれば早朝に一人で帰ってくれないか」

どれだけ傷つけるようなことを言うんだ俺は?

最低じゃないか? これまで協力してくれた希ちゃんを切り捨てた。

たとえ本人が望んでいた答えだとしてもそれでも言ってはいけないこと。


「うん? もう一度? 」

強い人だ。なぜ俺にそこまでしてくれるんだ。仲間だから? 恋人だから?

そもそもこんな訳の分からない誘いを受けた時からどう考えてもおかしんだよな。

「お願いだ! 一人で帰ってくれ! 」

非情な別れを告げる。

陸ともアイミとも突然別れた。でも希ちゃんとだけは中途半端はいけない。

ここで白黒はっきりさせるのが彼女のため。それを彼女も望んでいる。

だって無理矢理言わせてる訳だし。


「分かった」

「希ちゃん? 」

「でも最後に一つだけ聞かせて」

「うん…… 」

おいおい何を聞く気だ? まずいぞ。普通最後は別れのキスで済ますのが定番。

いやいや別れようとしてる男女がそれはあり得ないか。俺は一体何を期待してる?

未だに希ちゃんに甘えてキープした気でいるらしい。

これでは俺はただのどうしようもなくだらしない奴じゃないか。

保護者同伴で来た王子様ってところだ。

つい調子に乗って格好をつけいいイメージで終わらせようとしてしまう。


「もし私があなたが求めてるのミライだったらどうする? 」

とんでもないことを言いだす。考えもしなかったこと。

いやそれなら何もこんな壮大な旅に出る必要ないと思うが。

「ミライ? ミライ! ミライなのか! 希ちゃんがミライ? 」

「冗談! 今はもしもの話。私はあなたのミライではなくあなたの希です」

はっきりそう否定してくれてモヤモヤがとれる。一分かそこらのモヤモヤだけど。


まさかミライが希ちゃんのはずない。逆か。希ちゃんがミライのはずない。

その設定は恐らく尺がなくなった場合か。いい加減に終わらせた場合のみ。

しかもこれはそれらのフィクションなどではなくリアル。現実なのだから。

そんなことあり得ない。


                  続く

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