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秘密

「ちょっと待ちな! 」

戻ろうと支度を始めたところで最後に一つだけと鶴さんが引き留める。

どうやらまだ帰したくないらしい。老人の一人暮らしだから寂しいのかもな。

普段はミモリがいるとは言え毎日会う訳じゃないし彼も特段お喋りな訳でもない。

大事な話をもったいぶって明日に延ばしたのもそれが理由だろう。

お年寄りの一人暮らしはどうしたって孤独で話し相手を求めてしまう。

大丈夫だよお婆ちゃん。俺たち暇だから。

ミライにさえ会えればそれでいいんだ。


「そうだ。もう祭りの準備は見学したかい? 」

どうも集落のお祭りについても何か知っているらしい。

「それが…… その暇もなく異丹治に捕まった次第です」

ある程度なら準備段階で祭りの雰囲気を感じ取ることもできる。

しかしはっきり言ってしまえばそれまで。

「よしだったらこれだけは今日中に教えようじゃないか。

出し惜しみしてるとは思われたくないからね」

「本当ですか? チュウシンコウあるいは紅心中と関係が? 」

もう鶴さんのありがたいお言葉を待つだけの人間になってしまった。

情けないがすべてはこの鶴さんに懸かっている。


「ミモリもいいね? 」

「はい。俺はそれで構いませんよ」

「そうだ。いっそのこと泊って行くかい? そうしたら早朝に聞けるよ」

鶴さんがどんどん話を先に進めてしまう。

希ちゃんの足もあるのでそれでも構わないが…… やっぱりダメだ。

「待って…… 明日は希ちゃんが帰るから…… 本来なら俺も」

でもここまで来て収穫なしでは何のためにこんな田舎に?

確かに父さんに会いに来たんだけどさ。

それでもこう何かはっきり分かるものがあれば来た意味もある。

「そうかい。だったら戻るといい」

鶴さんはもう終わったものだとばかりに別れの挨拶を。


「待ってください! 集落の祭りが何なんですか? 」

俺たちのためになると思って伝えようとしていたはずだ。

せめてこれだけでも聞いておきたい。

「あんた本当に親に聞いてないのかい? 」

面倒だから父さんに聞けばいいと言う。それはないよね。

ここまで来て教えないはないよな。約束は約束。

「もう今更戻れないですよ」

「だったらそのまま会わずに帰るのかい? 」

「仕方ないですよ。これも身の安全を守るため」

正論と言うか安全策。どこで異丹治の手下が待ち構えてるか分からない。


「うんうん。そうだったね。では話すとしようか。

あの演舞はさっき言った神話をアレンジすることなく忠実に再現。祭りの目玉に」

「まさか? 紅心中もチュウシンコウもあれを見れば? 」

俺たちが余計なことをせずに帰省した先でゆっくりしていたらよかった?

トラブルに巻き込まれることもなく辿りつけていた?

だがそれは結果論であって……

「チュウシンコウにしろ紅心中とは一切関係ない。単なる演目の一つでしかない。

あんたが探してるのはそんなまやかしではない。そうだろ? 

真実を知らずに目を瞑って帰るもよし。

覚悟を決めてすべての真実を聞くのもよし」

鶴さんは決心が揺らいでいると指摘する。


「いいかい。このことは集落の者は誰も知らない。

そうすることで守られてきた秘密であり真実。

おっと…… これではすべて話したくなってきてしまうよ」

俺はそれでいいと最初から言ってるんだけどな。

もったいぶって明日に回したのは鶴さんの方。

でもこの集落の者は知らない? それはおかしくないか?

少なくてもミモリはある程度知っているみたいだったぞ。

だからこそ鶴さんを紹介した訳で。


「ううん? それは疑いの目だね? どうしたはっきり言ったらどうだい? 」

鶴さんは変化に敏感。まるですべてを見透かしているかのように。

さっき初めて会ったばかりなのにここまで? 計り知れない人だ。

「あの…… ミモリさんは? 」

「ああ奴は部外者だから…… 違った。あんたと同じなのさ」

意味不明なことを言う。俺がミモリと同じ。

彼も昔俺と同じようなことをした過去がある? まさか本当なのか?


「ちょっと鶴さん。プライベートなことですよ」

不快感を表すミモリ。でもどうやら本気ではなさそう。

「悪い悪い。聞きたければ直接聞けばいいさ。でも儂以上に口が堅いよ」


「あの…… 」

希ちゃんが飽きて姿を見せる。

「ああもう終わったよ。今帰るところさ」

こうして三人は訪問を終えコテージに戻る。


帰り道は異様な雰囲気。疲れたせいもあるが静かだ。

希ちゃんは詳しい話を聞こうとはしなかった。

さすがは希ちゃんだ。俺を信頼してるらしい。

それはとてもありがたいがどうも悪い気がして作り笑いさえできない。

ミモリもミモリで沈黙を保つから余計に空気が悪くなる。


コテージに戻ったのは夕方。

それからは飯を食べて一日が過ぎようとしていた。

鶴さんの話が明日にはすべて分かる。

ここまで引き延ばしのだから相当な情報なのだろう。

ミライの居場所が分かるかもしれない。


「希ちゃん? ねえ希ちゃん? 」

「ああごめんなさい」

ボウっとする希ちゃん。どうも様子がおかしい。

鶴さんに邪険に扱われたのが堪えてるのかな?

足の影響で疲れて元気がないのか? それはミモリも似たようなもの。


                 続く

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