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誓いの言葉

ついにチュウシンコウの謎が解き明かされる。

希ちゃんに席を外してもらい改めて鶴さんの話を聞くことに。


どうやら二人は昨日も会っていたらしい。

ここに連れて来ることもあらかじめ決まっていた?

そうだとすれば何だか嫌な感じ。まるですべてコントロールされてるみたい。

しかもまだ疑いの目で見てくる。あれほどはっきり否定してもダメらしい。


「まあこの茶とせんべいで我慢しなとは言わない。でも財宝は諦めな。

二つを追えばすべてを失う。ホラこういう状況を何て言うんだっけ? 」

鶴さんが学校の先生みたいに迫る。

「えっと…… 分かりません」

学校ではいつもこんな感じで回避している。他生徒に任すか答えを言うまで待つ。

でも実際こうなっては誰も教えてくれない。自分に不利になるだけ。


「まったく最近の若い者はだらしないね! 」

小言を言われる始末。仕方なくミモリを見る。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」

大きくため息を吐くと代わりに答える。

「よろしい」


「お前国語できないだろう? 」

鶴さんは俺を舐め切ってる。まあそう思われるのも仕方ないか。

現代文も古文もダメだったからな。

「自慢ではないですけどまったく。だから希ちゃんが必要だったんでしょう? 」

「はて何のことだか? 見当もつかないよ」

「そうだぞ海。考え過ぎだぞ」


俺たちはミモリの提案を受け入れて陸とアイミとも別れた。

三人一緒だと目立つと言うが翌朝に一人で返す方が危険度はアップする。

恐らく俺だけでは上手く導けないと考え希ちゃんを残した。 

もちろんキスの件もあるのでそれだけではないのだろうが。


「改めて聞くよ。名前は? 」

「海です」

「海よ。あんたチュウシンコウって逆に読んだろう? 」

「いや…… その…… 」

「そのようですね鶴さん。ですがこいつも必死で」

ミモリが庇う。


「まあいいよ。だったら二度と財宝に手を出さないと約束しな! 」

「だから俺は知らなかったっての…… 」

「ブツブツ言ってないで誓いな! 」

機嫌を悪くした鶴さんはせんべいを力いっぱいかじる。

バリバリガミガミうるさい婆さんだ。

「ううん? 誰がうるさい婆さんだって? わたしゃあ地獄耳なんだよ。

心の声が漏れないようにその口をきつく縛っておきな! 」

うわ…… 怒らせたかな? でも俺のせいじゃないし。

ミモリを見る。

笑っている。どうやら大丈夫そうだ。もし本気ならミモリも大慌てのはず。


「ホラどうした? 誓いなって言ってるだろう」

「誓います! 誓います! この集落の宝に手を出さないと誓います! 」

しつこく迫るのでお望み通りに。もう子供相手に興奮するなよな。

俺にとって財宝などどうだっていい。億万長者になりたいのではない。

ただ彼女に。ミライに会いたいだけ。もう五年経つ。

タイムリミットがもうすぐそこに迫っている。


「よし信じよう。ではもう一つのチュウシンコウについて教えてやるよ」

ようやく本題に。これでようやく目的が達成できそうだ。

いくらなんでもミライに会うのにこれ以上時間を要しないよな?


「チュウシンコウ。それは神話から始まった悲劇。

そして現代でもチュウシンコウは受け継がれている。

おっと言い換えなきゃね。紅心中。実際は紅心中だ」

鶴さんの長い長い話が始まる。


時は不明。昔男が湖を歩いてるとそれは美しい天女が舞い降りたと。

男はこの村の有力者の息子で現在婚約中の身。

しかしその天から舞い降りた娘に一目ぼれ。婚姻を迫る。

当然男は妻として迎え入れるつもりだった。

しかし婚約者がいる手前反対され第二夫人として。

それを知った天女は男の愛を信じられなくなり一年後に天の世界へ旅立つ。

その後どこを探しても見つからないショックから寝込む。結局妻とも不仲に。

それから家には不幸が訪れるように。

男は体調が戻ることなくそのままミイラのようにやせ細って亡くなる。

争いは絶えずに一家離散。婚約者一家まで不幸に見舞われる。

これが紅心中の始まり。


鶴さんによるとこの物語が紅心中の始まり。

タイトルも作者も年代も不明なこの作品こそが始まりではないかと。


そしてついにはこれを舞台で披露するとたちまち人気に。

限られた地域だけでなくこの演目を目当てに他所から押し寄せる。

それこそ人で溢れかえるほど。小さな子供から杖を突いたお年寄りまで。

女性の割合が比較的多いがそれでも老若男女楽しめる演目とあって人気に。

年を追うごとに徐々にその人気は高まっていく。

ついには祭りに。当日は年に一度のビッグイベントに。

村人は大喜び。祭りでは常にこの演目が求められるようになった。

初期の頃とは随分と形を変えて紅心中が上演されるように。


鶴さんはここで一旦切る。


「なあこれ以上はまた明日にしないかい? 私も何かと忙しいんだよ。

それにあんたにはまだ覚悟があるようには思えない。本気度が足りてない。

女連れで仲間とワイワイするのはどうだろうね? 」

鶴さんは希ちゃんのことが気になるらしい。

しかし彼女は本来大人しい子で交渉はするが決して分からず屋ではない。

どちらかと言えばいて役に立つ貴重な存在。そんな希ちゃんを毛嫌いするなんて。


「明日にはすべてを話してくれるんですか? 

紅心中とチュウシンコウについて嘘偽りなく? 」

さすがにこれ以上モヤモヤしたくない。約束を取りつける。

「ああ儂が生きていたらな」

不穏な発言で混乱させようとする。

しかしその手には乗らない。

「分かりました。ではまた明日」

もったいぶってなのか本気で言ってるのか分からないが受け入れよう。


ミモリとお鶴さんが二言三言交わすと別れる。


                     続く

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