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覚悟のキス! 二人は婚約者なのだから

ミモリの誘いで鶴さんの家に。

「よく来たね。いらっしゃい」

ノックをする間もなく声がする。

庭の手入れでもしていたのだろう。


「おおよしよし。きゅうりとトマトをおあがり」

きゅうりには特製の味噌とピリッとした辛みが。トマトはシンプルに塩を。

「どうだい新鮮でおいしいだろう? どんどん食べな」

夏野菜で出迎える。

「ほれジュースもあるよ。喉が渇いたろう」

遠慮なく頂く。

「うわ! 酸っぱいですねこれ…… 」

「ははは…… これが夏にはいいんだよ。それであんたら誰だい? 」


「お忘れですか鶴さん? 」

「おおそうじゃった。ワシを罠から救ってくれた爺の…… 」

「ふざけないでください! ミモリです」

「ははは…… 冗談だよ。ミモリは相変わらずだね」

あのミモリがいいように遊ばれている。このお婆さんは相当だな。


鶴さんはふざけたかと思ったら真剣な表情で声を落とす。

「そうすると彼らが例の…… 」

「はい。例の…… 」

「一体何の話ですか? 」

二人がヒソヒソ話を始めたので遮る。

ここに来て秘密や隠しごとはなしにしてもらいたい。


「ちょっと海君。失礼だって。それに怒らせたらまずいよ」

冷静な希ちゃん。まだミモリを信用してないらしい。それは俺もそうだけど。

でも俺たちを異丹治の前に引き出すような真似はしないと思ってる。

これは勝手な想像だけど。ミモリも鶴さんもきっと俺たちを導いてくれるはず。


「おっと悪かったね。それであんたらは誰だい? 自己紹介してもらおうか」

希ちゃんがロックオンされる。どうやら俺のことは事前に伝えていたらしい。

「初めまして。私は海君とお付き合いさせてもらっている…… 」

そうだった。まだ希ちゃんは俺の婚約者を演じてくれている。

集落ではと言うか父さんの前ではどうにか辻褄を合わせようと無理のない設定に。

あれでも…… それは確かアイミで…… 希ちゃんはお姉さんだったよな?

心配でついて来たアイミのお姉さん。

いつの間に婚約者に? まあいいかどっちでも。

婚約者にお姉さん。そうすると陸は? 後をつけて来たペット?


「ワシは鶴。集落の歴史に詳しいだけのお婆さんだね。

今は離れてひっそりと暮らしてる」

自己紹介を済ませ本題へ入るつもりが話が逸れる。

「あんたんとこの爺さんとはよく…… 孫がこんなに大きくなるか。

そうかそうか。だからワシも年を取る訳だ。でもできるなら取りたくないね。

うん? 何の話だったかな? 」

一人で明後日な方向に。


「悪いな二人とも。鶴さんはたまにおかしくなるんだよ」

ミモリがそうふざけて笑うが年を考えればこれくらい当然で笑えない。

「おい青二才! 侮辱するんじゃないよ! 」

「ようやく復活したみたいだ。さあ聞くといい。

恐らく君たちが聞きたいすべてが詰まってるはずだから。

でも海よ。真実を知った時お前はその衝撃に耐えられるかな? 」

忠告をするミモリ。彼の気持ちがよく分からない。

俺たちに知ってもらいたいのか知られたくないのか。どうもあやふやなんだよな。


脅したからって俺が引き下がるはずがない。もう今年が五年目だ。

来年では遅い。少なくてもミライの言う祭りが始まる前には見つけたい。

いや見つけなければならない! そのためにこんな山奥の集落に来たのだから。

何も迷うことはない。諦めれて堪るか!


「どうぞ楽にしてね。狭くて汚くて悪いね。一人だとこんなもんさ。

それで何が聞きたい? 」

「チュウシンコウについて教えていただけませんか? 」

前置きなしで聞くことに。

「チュウシンコウ? ほうチュウシンコウね」

そう聞き返すと急に眼が鋭くなる。

「はい。どうしても知りたいんです。俺知りたいんだよ婆ちゃん! 」

強い気持ちをぶつけてみる。


「気持ちは分かるよ。しかし聞く覚悟はあるのかい? 本気の覚悟だよ?

きっと聞いたら後悔することになる。

お前のささやかな夢が打ち砕かれる。それでもいいのかい?

そうなればもう廃人同然になって彷徨うことになる。彼のようにね」

ミモリを見る。だが冷静なミモリはまたふざけてと相手にしない。

果たして鶴さんの悪ふざけなのか? ミモリの様子がおかしい。


鶴さんが長生きの秘訣とチュウシンコウについて語りだす。

「待って…… どうする希ちゃん? 」

「海君が決めて。私では判断できない」

「無理しないで希ちゃん。これは俺の問題だから」

これ以上の迷惑かけられない。だから希ちゃんには席をはずしてもらうことに。


「ちょっとお待ち! その前にキスをしな! 」

訳の分からないことを言いだす。やはりもうお年だから夏の暑さにやられた?

「今ですか? 私が海君と? 」

鶴さんが強要する。第一印象とは違ってらしくない怖い婆さんだ。

「そうだよ。早くしな! 婚約者なんだろ? 」

「私からですか? 海君に? 」

「ああそれがけじめだ! 」

訳の分からないことを言って希ちゃんを混乱させる。


「でも私…… 」

「そうかい。あんたが拒否するならこの鶴さんが代わりに口づけをするよ。

それでもまったく構わないんだがね」

もはや選択の余地はない。


希ちゃんは恥ずかしながらも言われるままキスを。

俺も受け入れる。

二人の前でキスするのは恥ずかしいし相当抵抗感がある。


「うんそれでいいよ。では行ってよし」

本気? 正気とは思えない。

へへへ…… 希ちゃんが俺に?

夢心地。ああ思ってもみないこと。

鶴さんも本当に人が悪い。

無理やりはいけない。互いの気持ちが大事だろう?


                続く

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