「煙」
その日は、施設内でちょっとした騒ぎがありました。
施設内で火災訓練が行われる日だったのですが、それを知らない来場者がパニックを起こし、救急隊員が駆けつけ対応します。幸い命に別状は無かったのですが、こういう事で病院に搬送される場合もあるのだと施設内は一時ざわつき騒然としました。
「ねぇ、あなた。紅茶のお代わりいいかしら?」
私はご注文の品をテーブルにお持ちしました。
「あなたに頼みたい事があるのだけど。個人的に。怪しい事ではなくて、どちらかというと警察のお手伝いみたいなことだから…。お時間ある?」
「まぁ…。内容次第ですけど、危険なお手伝いでなければ…。」
「良かったぁー。もちろんお金は入るから安心して。ちょっと待ってね。」
急に馴染みやすくなった人柄に少々戸惑いましたが、それが演技ではなく本来の彼女の性格だったのでしょう。鞄の中には漫画本やキャンディ可愛いシステム手帳があり性格の一部が垣間見れたからです。
「はい、これ。パンフレット。」
『仮想空間内でのシステム体験と警備』
「これ読んで、考えてみてね。」
「はい。え、何ですかこの可愛いイラスト。この格好で?」
「そうそう、今では常識よ。って事はないけど、あなたこういう格好は苦手って顔してるわね。」
「一晩考えてみます。ではお預かりしますね。私仕事がありますので。」
私は職場の隅に資料を置かせてもらい後で読む事にしました。
やがて若いスーツの男性が店内にいらっしゃって先程の女性に何か報告をしている様子でした。」
「そう…では、また逃げて。まぁ、いいわ。こちらで目印つけたから。」
小さく対話が聞こえましたが、プライベートな会話なので私は有線放送のボリュームを少し上げる事にしました。