「もう一通の手紙」
「店長、今日もあまりお客様が来ませんね。」
「そうだね。最近は節約思考の方が多いからね。昔の様にここを使って打ち合わせをする人も少なくなったし。」
「何か面白いニュースでもない?」
私は最近行った美術館の話、近所の温泉で聴いたお客さんとの会話を話しました。
「そうか、景気のいい話はないか。グループタレント系の話題も冷めているしなぁ。まぁ、ああいうの芸能界の醜聞て騒いでるってどうなの?」
「私的には、ニュースが無いから暇な人が騒いでいるだけだと思います。友達に話したところで、それより美味しいお店知らない?って感じだし。」
私は店長から意外な話題を投げられたことに驚きを隠せませんでした。生真面目な店長はいつも経済面や得意先の話と家族の話ばかりで、学生の話題なんて今まで私に尋ねたことなどなかったからです。
「最近、新型ゲーム機を買ってみたんだよ。マリオカートで遊びたいからって息子にプレゼントしたんだけど。ちょっと困った事になってね。」
「たかし君でしたっけ。どうかしたんですか?」
「通信してゲームから離れなくなったんだよ。どうも悪い友達が沢山できたらしくてね。全然勉強が捗どらなくてね。子供は影響されやすいから買うんじゃなかったかなって。」
雨足が強くなってきたので、私は傘立てを入り口に出す事になりました。
「あっ、お待たせしました。開店いたしますのでどうぞ中にお入り下さい。」
この時期には珍しくサングラス姿にマスク姿の女性は小さなラップトップパソコンを持ち込み静かにキーボードをタイピングし始めました。
「お客様、ここはコンセントの電源も使えますので、延長ケーブルをお持ちいたしますね。」
「ありがとう、助かるわ。今からシステムを再構築して潜らないといけないから…。」
小さな声でそう呟くと紅茶をご注文されました。
「どうぞ、こちらになります。」
「ありがとう。この席をお借りして、作業したいのだけれどいいかしら?」
「えぇ、他のお客様のご迷惑にならなければ、お仕事されて大丈夫ですよ。雨宿りもかねてゆっくりなさってください。難しいお仕事されてますね。」
「そうでしょう。プログラム言語を使っているとよく言われるわ。」
そのお客様は、私に画面を見せて苦笑いをしました。
「ご用があれば、いつでもお呼びください。」
私は、カウンターに戻りました。
「あれ、珍しいな。」
「店長何かありました?」
「君宛に手紙が届いてるよ。差出人が書かれて無いけど。はい。」
「本当ですね、店長にお手数をお掛けした様です。ありがとうございます。」
私は、店内の照明を明るくしてルーチンワークを始めました。その時の手紙が後になって大変な出来事になるとはその時は思いもしませんでした。