「外で一息」
私はチューインガムが鞄にあるのを確認して外に出ました。
小雨混じりの空気は湿り気のあるアスファルトの香りがします。
夕立ちの様な鮮やかさはありませんが、趣きがあり私は好きな感じです。私は一枚のチューインガムを取り出すと口の中に放り込み建物の裏口へと廻ります。小学生たちはランドセルを背負って何かのアニメのごっこ遊びに夢中になっていました。
「君たち、あまり遅くならない様にね。」
子供たちは、急に声をかけられ驚いた様子で駆けて行きました。
この建物はよく高校の吹奏楽部が練習していて時折トランペットやフルート、クラリネットなどの音楽を耳にします。今日は誰も演奏者はいない様で、はしゃぎながら遠ざかっていく姿を見送りながら、私は時計の針を覗き込みました。
「まだ、時間がこんなに。暇を持て余すんだよなぁ。近くのコンビニでアイスでも買って何処かで食べようかな。」
私は呟くと、ひとり最寄りのコンビニに立ち寄りました。その日は、コンビニで高校時代の同級生だった男子がシフトでアルバイトをしていました。
「いらっしゃいませ。あれ?今日シフトだったのか。」
「まぁね。いま休憩中だから時間潰しに立ち寄ってみたの。」
私は、地元情報誌にパラパラとめくり目を通すと行きもしないお店をチェックして元に戻しました。
「ねぇ、変わったアイス入荷してないの?」
「季節限定のアイスか?この苺味が出たけど、試しに喰ってみるか?」
「食べたことある?」
「ないけど。結構評判いいから、不味くはないと思う。」
「じゃ、一個買うわね。」
「相変わらず、顔色いいなぁ。高校卒業して、余裕が出たというか。寝てばかりだろ。」
「失礼ね、ちゃんと身体動かしているわよ。マラソンとかには出ないけど適当に走っているから。」
「そうそう、適当に走っている位がちょうど良いんだよ。この辺りのランナーに絡まれると直ぐチームに誘われるから。」
「わかった。わかった。あんたも運動しなさいよ。30過ぎたら太って頭も薄くなるんだから。」
「嫌なこと言うなよ。これお釣り。レシートいる?」
「いらない。また来るわね。」
私はレジ袋のアイスを受け取ると、また建物の裏口に戻りアイスを口にする。
周辺の紫陽花の葉には、カタツムリがいました。
「ただいま。店長、今戻りました。」
「あぁ、早かったね。もういいのかい?」
「雨、降りそうですよ。燕が低く飛んでいました。外で休んでいても服が濡れそうなので。」
「もうそんな時期か、ゆかり君は梅雨の時期どうするんだい?」
「好きな小説を読んでます。でも日本の純文学ばかりで。最近買ったのは三浦しをん著『舟を編む』ですね。」
「あぁ、今度ドラマになる小説だよなぁ。少し前映画になってなかったかい?」
「面白いの?」
「静かな内容ですが、主人公のキャラクターが個性的で観れますよ。」
「その本、買おうかな小説。」
「私は、映像化した作品をお勧めします。アニメだと映像で活字が動いたりしました。印象深くて。」
「私、DVD持っているんで差し上げますよ。」
「いやぁ、貰う訳にはいかないから。そのアニメDVDを借りて家族で楽しむよ。楽しみだなぁ。」
「明日でもお持ちしますね。」
「あ、そういやさっきのお客様ね。君に渡してくれってメモを預かっている。はいこれ。」
何だろう…。