「つなぐ」の実態。
翌朝、私はまだ夜が明けない時間帯に目が覚めると、朝食を食べて顔を洗って準備しました。
「ここ最近、何をやっても誰かに振り回されている。」
出勤すると、私は店長に事情を問い質しました。
「どういうことですか。」
「いや、別に隠していたり、君をテストした訳ではなくてね。あのコロナ禍以来、このカフェは捜査関係者の拠点として場所を提供しているんだよ。只、この情報は一般のお客様や従業員に知られるといけないでしょ。
だから、ゆかりちゃんがこのチームに入っていいか観察させてもらってたんだ。」
「いつ頃から?」
「3年くらい前かな?」
外は雨足が強くなってきました。
周囲の紫陽花だけが鮮やかく道路を彩ります。
「いらっしゃいませ。」
「どうだった?初めての仮想空間体験。」
「あ、はい。事情は店長から伺いました。」
「名前は、夏美よ。ここの店長の啓介とは幼なじみなの。」
「まぁ。どうだった楽しかった?」
「事故の件も夏美さんと啓介さんが企てたんですか?」
「それは違う話よ。不思議な事ってあるのね。私も啓介から相談されて困ったけどまるで無関係な話だから。」
「いやぁ、凄い雨になったね。」
「あぁ、刑事さん。いい所に来たわ。今から打ち合わせする所だったの。」
「早めに頼むよ夏美。いくら協力すると言っても一般のお客様がいらっしゃるんだから。」
「わかってるわよ。あんたとゆかりちゃんはお店で仕事やってて。私たちも今まで通り静かに打ち合わせしてるから。」
「で、刑事さん。警察の方はどうなの?」
「それがですね…。」
私たちは何もなかった様に準備を進めます。
夏美さんは一般のお客様とは離れ、パーテーションの向こうにある専用室へと入っていきました。
「嫌になるよね、ゆかりちゃん。ああいう親族がいると厄介ごとばかり持ち込まれるんだよ。」
「テレビドラマではよく見ますが、どこまで捜査は進んでいるんです?」
「シンガポールのサーバー経由でシステムに潜入して口座番号の情報開示を要求してくるタイプ。中国マフィアや日本の暴力団も絡んでるって話だよ。」
「暴力団ってまだいるんですか?」
「いるらしいよ。知り合いいないからわかんないけどさ。」
「貧乏らしいですよ。生きていけないくらいに。」
「らしいね。前にニュースでやってた。」
「参ったな、この雨。こんにちは。」
「いらっしゃいませ。」
「アイスコーヒーください。」
こんな日は、有線放送をピアノ曲に変更します。
「お久しぶりですね。お客様。」
午後はこの施設でイベントがあり、昼食でハンバーグ定食やカレーライス、カツ丼などの注文が多く、いつも通り忙しい日常が帰ってきました。
「今夜は、仮想空間へ来るの?ゆかりちゃん。」
「そうですね。少し、勉強したい事があるので検索サイトと机を使って勉強です。」
「そう。じゃ、誰かに聞かれたらそう伝えておく。」
「すみません、店長。」
「いいよ、いいよ。夏美のお願い聞いてるとロクな事にならないから。今日は都合が悪いって伝えておくから。」