「つなぐ」
そのカフェは、「つなぐ」というカフェで、私のアルバイト先でした。
どちらかというと、レストランといった方がいいでしょう。
6月に入り少しづつ雨が降り始め陰鬱な気分でしたが、職場の皆さんはとても親切で働きがいがありました。
普段はお客様もまばらですが、忙しくなるとスーツにネクタイをした学生やビジネスマンで混雑して忙しくなります。
食事時は、蕎麦やうどん、カレーなどのメニューを注文される方が多くコーヒーや紅茶を注文される方は少ないと思います。
「ゆかりちゃん、今日も暇だね。」
店長は私にそう語りかけると、厨房に入って行きました。
今日は近所の施設でイベントもなく、店長と留守番の様な感じで店内に流れる有線放送に耳を傾けながら、時折見える路面電車から降りる人を見ているといった感じです。
「店長はご家族でどこか行かれます?」
「まぁ、映画に時々行く程度かなぁ。あと動物園に行く位だよ。」
「旅行とかねだられませんか?」
「あるよ。でも、店があるからね。そういう訳にもいかなくてさ。曲変えてもいいかな?洋楽が聞きたいけど。」
「いいんじゃないですか?お客様いない時は、好きなチャンネル選んでも問題ないと思いますよ。」
「悪いね。ゆかりちゃんの趣味に合うかわからないけど。」
曲が変わりましたが、小さな音量に下げられどちらかと言えばもっと静かになりました。
お客様がいらしたので照明を少し上げました。
「いらっしゃいませ。」
私は、メニュー受け注文表にオーダーを記録するとお客様に笑顔で対応をしました。正直「すごく美味しい」とは言えませんが、この近辺で手軽に食事する場所は少なく、平日に来るお客様の中では顔馴染みになる方も多くなります。
「ゆかりさん、元気そうね。また梅雨になるけど大丈夫かしら?大雨にならなければいいけれど。」
「そうですね。いつも傘を持ち歩いてますが、水しぶきとかで洋服が濡れたり大変ですから。」
普段は、お客様との私語は禁止されていますが、こういった場合はOKです。お客様と会話を楽しむのもひとつのサービスですから。
「最近はこの辺りも物騒になったわよね。放火や殺傷事件もあるし。」
「まぁ、どこもそうらしいですよ。コロナ禍でフラストレーションが溜まっている様ですから。」
「最近は、どう?何か変わった事あった?」
「そうですね。何人かは有名人と会ったって人もいらっしゃいますが、まぁその辺は皆さん慣れてますので、騒ぐ人も少ないですから。」
「なんにもないのよね。話題がなくて。」
「まぁ、テレビで頑張っている人の話題くらいですよ。SNSで何やっているか分かんない人も芸能界にはたくさんいらっしゃいますから。」
「おすすめの番組はなあに?」
「『ガイアの夜明け』です。私変わってるでしょ。」
「そうなの?大抵の人は『情熱大陸』だけど。」
「結構面白いですよ。話題が違うだけで私の話、面白がられるし。」
「あ、ご注文の飲み物お持ちしますね。」
私はカウンターに戻ると注文の品をお持ちした。
「お時間ある様でしたら、ゆっくりしてくださいね。」
女性はアイスコーヒーの氷をカランとガラスコップの中で回すと微笑んでくれた。
「店長、私休憩に入りますので、しばらく外の空気を吸ってきます。」
「あぁ、ゆっくりしてきていいから。」