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第159話 コンロボ遊撃隊

 ベントはモニターで全体の戦況を確認しつつ、厳しい局面を迎えそうな軍勢にはコンロボ遊撃隊を向かわせて手助けをしていた。


 コンロボ遊撃隊とは、戦況に応じて戦場を自由に移動し、搭乗型コンバットロボットで味方を支援する部隊である。


 オウギワシで空の敵を蹴散らすアルチェ・ウィンドル、アムールトラで地上の難敵を攻略するフォルマン・ニット、シャチで海からの侵攻を警戒するクレム・エディオの3人で構成されている。


 特に中央軍の敵戦力はかなり大きかったため、アルチェの出番は早かった。


 中央軍の敵勢力はロボット100機に加えて10機の爆撃機が侵攻していたため、ベントは先んじてアルチェに爆撃機を掃討してもらった。


 北軍と南軍でも爆撃機が攻めていたが、北軍は爆弾矢を持つエルフ隊が間に合いそうだったので、アルチェには南軍の対処に向かうよう指示を出した。


 それから南軍のカリナーリの気色悪い食事をたしなめつつ、中央軍がドリル戦車に押されてウィルド王城にまで迫っていたため、フォルマンに急ぎ対処してもらった。


 アムールトラは地上を走る都合上、到着に時間がかかったものの、どうにか間に合った。


「ベント殿、ドリル戦車を2両とも撃破した。このあと合流地点のウィルド関所前に移動するが、行きがけに中央軍の敵ロボットをいくらか狩っていく」


「了解しました」


 フォルマンはアムールトラを完璧に乗りこなしていた。


 ベントが3人にコンロボの操作をレクチャーしたとき、フォルマンは情報屋だけあって覚えるのがいちばん早かった。


「ベント殿、ちょっと気になったんだが、遊撃隊のことは各軍に伝えていなかったのか? 俺が操縦していると言ったら驚かれたぞ」


「ええ、言っていませんよ。各軍が遊撃隊の存在をあてにして手を抜かないよう秘密にしていました。遊撃隊は空、地上、海にひとりずつしかいないので、複数の軍で同時に必要になったら困るのです」


「なるほどな」


 フォルマンは乾いた笑いをこぼしていた。


「それでは引き続きよろしくお願いします。一旦通信を切りますが、問題が生じたら連絡をください。私のフォンが通話中でも、コンロボは管制システムを通じて連絡が取れます」


「了解!」


 広大なウィルド平野を東に走っていくアムールトラ。


 それをモニター越しに見送り、ベントはモニターと通信相手を切り替えた。


「クレム君、聞こえますか? そちらの様子はどうですか?」


「あ、はい。こちらは特に問題ありません。凶獣シャルクが襲ってきましたが、シャチの自動防衛システムが勝手に退治してくれました」


 ベントはモニターにシャチの視界映像を映し出した。

 さらに各種情報を複窓で開く。


「クレム君、ちょっとエコーロケーションサーチをしてみてください。凶獣シャルクは警戒心が強いので、まだどこかに隠れて隙をうかがっているかもしれません」


「わかりました」


 エコーロケーションサーチは超音波を発してその反響を受け取ることで、超音波が当たった場所に存在する物体の方向や距離、その大きさなどを知ることができる能力である。


 シャチのコンロボはその能力を全方位に対して行使できる。


「ベントさん、結果が出ます!」


 サーチ結果画面を映すウィンドウに、海底の地形や海中の物体が立体的に表示された。


 マウスで画面を動かせば観察角度を変えることができる。


「少し離れた岩の陰に海底から離れた物体があるようです。その正体を確認してもらえますか?」


 海底から離れているということは、地形ではなく漂流物か生物ということになるが、岩陰でピタリと静止しているということは、その物体にはそこに留まるという明確な意思があることになる。


「あ、これですね。すぐに向かいます」


 シャチが目的の岩に近づいていく。すると、そこに隠れていたものが出てきた。

 ピカリと光ったあと、方向転換してそのまま東へ進んでいく。


「あれはシエンス共和国の偵察潜水艇です。追ってください」


「わかりました。偵察情報を持ち帰るまえに撃破すればいいんですね?」


 クレムの声はどこか弾んでいた。いままで自動操縦で退屈していたのだろう。


「いえ、追跡して敵の海中拠点を見つけましょう。拠点近くには敵戦力が待ち伏せている可能性があるので、警戒は怠らないようにお願いします」


「了解です!」


 やはり声が弾んでいた。


 ベントがクレムにシャチの操縦を教えたとき、クレムは楽しそうだった。


 海中での訓練は最初こそ怖がっていたものの、操縦の飲み込みは早く、最終的には生身で戦うより自分に向いていると言いだした。


「それではよろしくお願いしますね」


 ベントはクレムとの通信を切り、今度はアルチェとの回線を開いた。

 モニターも地上を映す衛星映像に切り替える。


「アルチェさん、状況はどうですか?」


「南軍を襲っていた爆撃機は10機とも撃墜したよぉ」


 オウギワシはウィルド平野の中央に向かって北上していた。


 その東方には新たな敵影が確認できる。


「了解です。中央軍に戦闘機が向かっているようなので、ウィルド平野の中央から東に向かってください」


「はーい」


 アルチェの操縦するオウギワシは、生きた鳥のように優雅で自由だった。

 おそらくベントよりも(たく)みに乗りこなしている。


「アルチェさん、戦闘機は爆撃機と違って空の敵に対しても攻撃してきます。気をつけてください」


「大丈夫。あたしは負けないよ。風があたしの味方をしてくれるから」


 ついに戦闘機とオウギワシの座標が重なった。

 ただしそれは平面座標に限ったことであり、オウギワシは戦闘機の遥か上方にいた。


 そのオウギワシが急降下し、鋭い鉤爪が戦闘機の両翼を鷲づかみにする。

 そうやって戦闘機を急降下のブレーキに利用してから、つかんだ両翼を紙のごとく握り潰した。


 そこで初めてほかの戦闘機がオウギワシに反応した。

 ひたすら西に飛行していた戦闘機たちが敵を捕捉しようと旋回を始める。


 だがオウギワシの機動力は圧倒的で、青いレーザーをまとった翼が次々と戦闘機たちを切り裂いていく。


 2本の青い光の軌跡は、まるで2羽の小鳥が空を飛びながら戯れているようだった。


「お見事です。10機の戦闘機すべての撃墜を確認しました」


「さいっこう! もう風になった気分だよぉ。敵が無人機だから気兼ねなく墜とせるしねぇ」


「あ、戦闘機は有人ですよ」


「えっ……!?」


 隣のリゼが目を丸くしてベントを見た。

 きっとアルチェも同じ顔をしていることだろう。


 ベントはかすかに表情を崩した。


「……冗談です」


「もう!」


 風に乗り空を舞う巨鳥は、そのまま東に向かって飛んでいった。

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