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第158話 超重圧破壊(中央軍・セルフィートSide)

 ドリル戦車はこれまでひたすら西方へと進んでいたが、突然停車し、ゆっくりと車両の向きを変えた。


 ドリルの先端が向いた先にあるのは、ウィルド王城だった。


「おい、急げ!」


「わかっている!」


 北のドリル戦車に追いついたセルフィートとウォルグはドリル戦車の上に飛び乗った。


 そしてセルフィートがレーザー・ランスの穂を青く光らせ、それを装甲につき立てる。


 装甲が赤く輝きはじめ、槍の穂先がじわじわと沈む。


 だが突如として青い光が消えた。


「まだ亀裂は小さいぞ。なんでここでやめた?」


「いや、レーザー・ランスが反応しない。熱で壊れたのかもしれん」


 セルフィートは何度もレーザー起動スイッチを押してみるが、レーザー・ランスはうんともすんとも言わない。


 見かねたウォルグが彼女を押しのけるようにして小さな亀裂の前に立ち、グラビティー・ハンマーを置いた。

 そしてスイッチを入れる。


 しかし、中央のドリル戦車のときみたいな金属の悲鳴が聞こえてこない。


「どうした? やっぱり亀裂が小さかったか?」


「いや、これは……」


 グラビティー・ハンマーはドリル戦車のスピードを抑えることすらできていなかった。


 ウォルグがボタンを押したままハンマーを持ち上げると、すんなり上がった。


「エネルギー切れだ。こいつももう使えん……」


 中央のドリル戦車を遅くさせるためにエネルギーを使いすぎたのだ。


 セルフィートの手には刃を失った槍、ウォルグの手には大きさのわりに軽い(つち)


 もはやまともな武器はなく、打つ手もない。


「くそっ! こうなったら……」


「何をする気だ、ウォルグ……おい、早まるな!」


 ウォルグがドリルの付け根に手を突っ込もうとしたので、セルフィートがすぐさまその腕にすがりついて引きとめた。


 圧倒的に力の強いウォルグの手が止まっているのは、彼がセルフィートを巻き添えにしないためでしかない。


「離せ。こうすれば俺の毛や血肉がドリルの駆動部に挟まって止まるかもしれんだろ」


「よせ、どう見ても届かん。何か策を考えるべきだ」


 ドリルと車両の隙間は狭く、せいぜいウォルグの指が入る程度だった。

 ドリルで指が千切れたところで外に弾き飛ばされることは想像に難くない。


「これが俺の策だ。それに、もう時間がない」


 ドリルはウィルド王城の城壁に差し迫っていた。


 もしレーザー・ランスとグラビティー・ハンマーが無事だったとしても、いまからでは間に合わない。


 もはや猶予はない。


 そのとき、「ガオオオオンッ!」という強烈な咆哮が(とどろ)いた。


「何だ!?」


 セルフィートが音の聞こえた方向に視線を向けると、巨大な獣が猛スピードで走ってきていた。


「ウォルグ、ここを離れるぞ!」


 耳のいいウォルグは咆哮に怯んでいたが、セルフィートがほおを叩くとすぐに反応し、ドリル戦車から飛び降りた。


 それと入れ替わりで巨大な獣がドリル戦車の車両部分に飛び乗った。


 黄色に黒の縦縞が入ったたくましいボディ。


 直接見たことはないが、聞いたことはある。


「これがアムールトラのコンロボか」


 太く鋭い牙が車両の角を挟み、バリバリと噛み千切った。そこに太い前足を突き入れ、引っ掻いて装甲を剥がす。


 その部分に狙いを定め、高くジャンプしてから全体重を落とす。


 ――ガゴゴゴンッ!


 ドリル戦車の車両部分がほとんど潰れてドリルだけが残った。


 その光景を呆然と見つめるセルフィートのフォンに通信が入った。

 しかも強制的に受話させられた。


 普通の勇士が持つフォンにそんなことをする機能は付いていない。


「ベントか?」


「残念ながら俺はフォルマンだ。南のドリル戦車も撃破しておいた」


「おまえかよ!」


 ウォルグが叫んだ。フォンはウォルグにもつながっていた。


 彼は眉間にしわを寄せて怒鳴った。


「いきなり突っ込んできたら危ねぇじゃねーか!」


 アムールトラはドリル戦車の残骸を離れてウォルグの正面に立った。


 フォルマンは降りてはこなかった。


「だから警告として吠えただろ。先にフォンで『離れろ』と言っても俺の言葉だと聞きそうにないからそうしたんだ」


「なんだと!」


 ウォルグが拳を振り上げるが、セルフィートがその肩に手を置いた。


「よせ。彼の言うとおりだ。ここは情報屋がタダで情報をくれたと思って感謝しておこう」


 一度は拳を下ろしたウォルグだったが、その言葉を聞いてセルフィートの手を振り払った。


「同じ戦場にいるんだから報告や連絡をするのは当たり前だ」


「おまえはドリルを止めるために命を捨てようとしていたじゃないか。そのおまえが危ないなどと言うのか?」


 それもそうだと思いなおしたのか、ウォルグはそれ以上は何も言わず、腕を組んでそっぽを向いた。


「おーい、姉さーん!」


 その声はフォンからではなかった。


 声のした方からタッタッタッと足音が聞こえてくる。妹のマイネがセルフィートに用があって走ってきていた。


「マイネ、どうした?」


「フォンが通話中になっていて姉さんにつながらなかったから、直接会いに来たんだよ!」


 マイネは両手を膝について肩で息をしていた。


「それは予想がつくが、用件は何なんだ?」


「そう、それ。ちょっとヤバそうなの。最初のロボットたちは全部撃破したけど、新手のロボットが来たんだよ。たぶん今度も100くらい。さすがにみんな疲れてきてるから、これを相手にするのは厳しいよ」


 セルフィートはウォルグの方を見た。その視線には、休んでもらっていた前衛部隊と交代させていいかという問いが含まれていた。


 それを察したらしいウォルグがうなずいて無言の返事をした。


「マイネ、後衛部隊を退()かせて前衛部隊と交代させろ」


「わかった。あ、前衛部隊の指揮はギレスに任せていいんだよね?」


 マイネの問いにセルフィートが返事をするまえに、重量感のある咳払いが挟まれた。


 ウォルグが腕を組んだままマイネの前に来た。


「前衛部隊の指揮は俺が()る」


「あ、うん……了解」


 そこにふたたび咳払い。


 今度はさっきよりも軽い、フォルマンの咳払いだった。


「俺が数を減らしておいてやろう。お得意様へのサービスだ」


 フォルマンはよくウォルグに情報を高く売りつけている。


 ウォルグがしょっちゅう愚痴っているため、それはピオニール内では有名な話だった。


「何がサービスだ! 同じ戦場で戦う仲間なら恩着せがましくするな!」


「いや、俺には最優先の任務があるんだ。その俺が中央軍の敵を相手にするのはお得意様へのサービスでしかない」


「だったらせめて同胞のよしみと言え!」


 ウォルグの叫びに対し、フォルマンからの返事はなかった。


 すでに通信が切れていた。面倒になったのかもしれない。


 アムールトラはさっそうと東へ駆けていった。

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