第29話:「かえでと、勝負パンケーキ作戦」
今回は、ちょっと乙女(?)なかえで回。
実は料理に苦手意識があるけど、見返したくて奮闘する姿がとっても健気です。
パンケーキって、地味に難しいんですよね……。
土曜日の午後。
かえでは、駅前のカフェで真剣なまなざしをしていた。
「今日こそ……完璧なパンケーキを焼いてみせる!」
向かいに座るみゆきとことはは、アイスティーを飲みながら静かに見守る。
「勝負って言ってるけど、誰と勝負するんだっけ?」
「……己だよ」
かえでの声はどこか遠く、そしてちょっとカッコつけていた。
■きっかけはクラスの会話
「かえでって意外と家庭科苦手だよね〜って、こないだ男子に言われてさ……」
「それで火がついたのか……」
みゆきは笑う。
「わかる。人はバカにされた時、パンケーキを焼きたくなるものです」
ことはの名言が飛び出す。が、よく考えるとまったく共感できない。
「いや、普通はならないと思うけど」
■かえで、特訓開始
買ってきたホットケーキミックス、牛乳、卵、バター。
そして――愛(?)。
「まずは粉をふるって……」
「ふるいがないなら手で振ればいいんだよ、ほら」
ことはが軽率に言う。
「それってただの粉遊びじゃ……?」
一回目:焦がした。
二回目:中が生焼け。
三回目:なぜかカチカチ。
「もう!なんでぇぇぇぇ!?」
かえでは悔し涙。
でも――
四回目のパンケーキは、ふわっとして、ほんのり甘い香り。
「これ……成功じゃん!」
「見た目も、味も合格!」
「それに何より、がんばった気持ちがちゃんと入ってるよ!」
■そして翌週
「おーい! この前のパンケーキ、めっちゃ上手かったぞ!」
例の男子が褒めてくれた。
「……べ、別にアンタのために練習したんじゃないんだからねっ!」
「誰もそんなこと言ってないけど!?」
かえでは耳まで真っ赤になりながら、廊下を逃げていった。
エピローグ:
日曜日の夕方。
かえでは、自分の部屋の机の上に、ラッピングした小さなタッパーをそっと置いた。
「明日、あの子にも……渡してみようかな……」
ミニサイズのパンケーキ。
ふんわり焼き上げて、メープルシロップは別添え。
手紙とかはまだ無理。でも――。
「おいしかったよ、って言ってくれたら、それでいいや」
かえでは頬を染めて、照れたように笑った。
……と、机の端に置いていた卵の殻が転げ落ちて床で割れる。
「うわああああああ!? 最後の最後でオチがぁぁあああ!!」
やっぱり彼女の日常は、ほんの少しだけドジで、すごくあったかいのだった。
友情あり、青春あり、パンケーキあり(?)の一話でした。
かえでの努力が実った瞬間、ちょっとジーンときた人もいたんじゃないでしょうか?
さて、次回はことはの不思議な才能が光る(?)話になるかも……?




