1.はじまりの始まり
「ねぇ君。もしかして見えてる?」
「…え?」
後ろから不意に声をかけられた。
「あれ〜違ったかぁ〜。ごめんごめん」
「…」
俺は突然のことで声が出なかった。
確かに思い当たる節があるからだ。
道を歩いていると黒いモヤのような物が見えることがある。それが何なのか分からないが一応避けて歩いていたからだ。
「まぁ今じゃなくていいや!とりあえずまたね〜!」
「...あ...あの...」
俺はその声の持ち主に返答しようと振り返った。
「あれ?」
振り返った先にその声の持ち主であろう姿がなかった。
「...え」
「...なに」
「...今の...」
振り返った光景はいつもと変わらない登下校の風景。
そこにはスーツを着たサラリーマンであったり、登校途中であろう同じ年頃の高校生達の姿と、いつもと変わらない光景であった。
「...こわー」
「あ!やばい!このままだと遅刻だ!」
俺はスマホの画面で時刻を確認すると我に返り学校まで走り出した。
「カズトー。門閉めるぞー。」
「あー!すいませーん!!!」
校門の前に立っている先生に急かされる。
「明日はもう少し早く家を出ろよー」
先生が笑いながら答える。
「ホームルーム始まるぞー。いそげよー。」
「あ!おはようございます!ありがとうございます!」
ギリギリ間に合った。
厳密にいえば若干、門の閉まる時間を過ぎていたようだが。
俺は息を切らしながら教室に向かった。
なんともないいつもの毎日。
眠さに耐えながら授業を受ける1日。
体育になると急にやる気になる1日。
友達に会うために来てるだけなような1日。
いつもの日常だ。
キンコンカンコンキンコンカンコン
帰りのチャイムが鳴った。
「カズトまたなー」
「また明日ー」
いつものように門を出たところで友達と分かれた。
「ねぇ君。」
「わぁ!!!」
朝と同じように急に後ろから声をかけられた。
「わぁって!そんなにびっくりするようなこと私言った?」
朝に聞いた声と同じだ。
だが少し不機嫌そうだ。
「あっすいません...」
そこには、腕を組んで仁王立ちしている女子生徒がいた。
「ちょっとわたしに着いてきて」
「え!今から?」
「そう!つべこべ言ってないで早く!」
彼女は有無を言わせず二人は歩き出した。
「あのー...どこに...?」
「着けば分かるよ」
しばらく歩くと2人はある場所の前で立ち止まった。
「着いたよ!」
「...ここ?」
着いたと言われたが目の前にあるのは、奥に広がる雑木林と手前に生える藪だけだった。
「ん?」
ただよく見てみると藪の中に獣道のような道が見えた。
「もしかして...あの獣道みたいなとこ入っていく感じですか...?」
「お!正解!」
先程まで不機嫌そうだった彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「わたしも初めてきた時驚いたもん!」
「とりあえず入るよー!」
「はい...」
恐る恐る後ろを着いていく。
ただ意外と、その獣道のような道は幅広い。
藪を抜けるとすぐ道は二又に分かれていた。
そして片方の道の行き先には思ってもみなかった光景が広がっていた。
「!!!」