○序章
かつて、とある大陸には十二の国、子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥が存在していた。
だがそれも、今は昔の話。
幾許かの時を経て、今残っているのは、子、丑、未、申、酉、亥の六つのみ。
他の六つの国は全て丑に滅ぼされ、吸収されてしまったのだ。
結果として丑は、現在大陸で最大の大国となっている。
だが、国が大きくなるというのは、必ずしも全て良いことばかりではない。文化や人が入り混じれば、そこに軋轢も発生する。
丑は大国になった結果、細部にまで皇帝の威光や市政が届かず、不正が蔓延し、国が傾くのも時間の問題だと言われていた。
そしてその縮図と言われているのが、万の数を超す人数となった後宮である。
積極的に他国を攻め滅ぼしていた当時の皇帝は、英雄色を好むの典型であり、国を統合する度に宮女を引き抜き、多い時には一日数千人単位で後宮へと連れてきた。
それだけの大所帯なのだから、かつて策定していた四夫人、九嬪、二十七世婦、八十一御妻の制度は人数的な意味合いも含めて形骸化した。
現在は四夫人を上級妃、九嬪の位を中級妃、二十七世婦を下級妃、八十一御妻を女官と簡略化。
丑にある後宮の職官については内官を上級妃、中級妃、下級妃が、宮官を女官が、そして内侍省を宦官として運営されている。
これは、そんな滅びが見え始めた大国、丑の後宮で。
上司から無茶振りを受けて問題解決に奔走する宦官と。
そんな宦官から目をつけられた、とある事情で周りから距離を取られている女官が、出会って始まる物語。