◎Playing 0/4/13 : 『葉桜と舞う』 God:Yukimura
創世暦元年 4月13日
サイト:World View ターゲット:Yukimura スタイル:Classic B
惑星:Katyou Fuugetsu
降り立った世界は桃色と美しい。
花下での余興は先週に続き、まして今宵は月夜だ。一人酒も悪くはない。
桜の花には新緑が混ざりつつある。そろそろ夢から目覚める準備を始めねばなるまい。
仮想世界で夢から覚めたところでそこはまた夢の中なのだが、そんな事を考えている自身が酷く滑稽で創造主は桜に剣を掲げて自分自身を戒める。
現実と理想の折り合いは付いている心算だった。だが、理想の中でまた夢に堕ちているというならば、これは戒める必要がある。
理想世界での夢と現実とは、桜に現を抜かす余興とこの世界で毎日を生きる為の稼ぎと分かれ、それは極単純なものだった。生きる為に稼がなくてはいけない、これを理想世界でも強いられるとは何たる皮肉だろう。
ひらひらと落ちる花弁に夢を見る。だが新緑はまざまざと現実を見せ付ける。
「葉桜を見て一つ余興を思いついた」
冗談めいて創造主が腰元から引き抜いた鈍色が光る。
思い出の銅の長剣と別れてから新しく手にした新参者用にこしらわれた銀光を煌かす刃は当時は手に余る代物だった。だがそれも時間が解決する問題だった。
刃渡りに慣れた時、獲物との間合いを制する。右腕が描く曲線の先で刃は的確に急所を貫く事が出来る。
だが獲物を狩る訳ではない。最寄の狩場まで、ゴブリンの棲息する森まではここから歩いて十分とかからないが、だがこの場から離れては意味がない。
月明かりに銀光を返す短剣を片手に掲げ夜桜を見上げる。
狩るものが魔物である必要はない。たまには花弁を狩ってみたって、などと興じる自身の溺愛ぶりには笑いが込み上げる。それらの幼い陶酔も踏まえて全てをひっくるめた上で花弁を狩ってみたくなったのだ。
時間は一分でも構わない。何より酒に酔った身体がそれ以上はもたないだろう。
何枚狩れるだろうか。もしかしたら一枚も狩れないかもしれない。
だがそれでも意味はあるように思えた。あくまでその時はのことである。
大きく深呼吸をして吐く息と吸う息を整え始める。無論その間もひらりひらりと花弁は絶え間なく降り注いでいる。始まりの合図などない。心で願ったその時が開始、そして終わる時もまた同じこと。気が向くままに、疲れ果てて動けなくなるまでやればいい。余興を楽しむ事が出来るのも僅かに限られた時間なのだ。桜が散れば、容赦ない現実に追われるだけのこと。だから今は思う存分に楽しめば良い。
夜桜が咲き乱される視界を今一枚の花弁が舞い降りて行く。
掛け声も無しに抜いた刃を煌かせ、吐く息に重ねて花弁を斬りつける。
だが向けられた凶刃に対して、花弁は手馴れたものを扱うようにいとも簡単にすり抜けて行く。振るった腕が起こす風圧に捲し立てられて、ひらりと落ちていた花弁が一瞬ふわりと舞い上がり再び落ちて行く。
去って行くものに瞳を奪われていては、次の機会を逃す事になる。次々と目まぐるしく降り注ぐ花弁に対し、嵐のような剣戟を繰り出すものの花弁を捉える事は出来ない。どんなに力を込めたところで、また素早く振るったところでも花弁は美しい舞いを見せ付けるばかりだった。
夜桜をふと見上げれば新緑が現実はそんなに甘くはないよ、と言葉を返す。
癪に障る限りである。子供のように無邪気に短剣を振り続けた短い時は永遠のようにも感じられる。
余りにも馬鹿げた時間が、夢のように楽しい。新緑に見せ付けるように創造主は笑う。ああ、楽しい。なんて楽しいんだ。新緑よ、見てるか。お前が馬鹿にしている俺はこんなにも楽しんでいるぞ。現実なんて糞食らえだ。だけどな、お前の言う通りに現実でも一生懸命に生きてやろうじゃないか。余興に焦がれる人生も悪くはない。余興が真の意味で華を咲かせるのは現実に一生懸命に生きた時こそだ。そうだろう、どうだ参ったか。参ったならば花弁の一枚でも斬らせてみせろ。
新緑に向かって喚く創造主。無茶苦茶な要求にさすがの夜桜も嫌気が差したと見える。
舞い落ちる一枚の花弁が、突きつけられた刃を前にぴたりと吸い寄せられ、そして両断される。
「斬った、斬ったぞ。この勝負は勝ちだ」
月夜に酔った狂人の戯言に桜の花弁は降参だと言わんばかりにひらひらと舞い落ちる。
見上げれば、夜桜の新緑もさわさわと溜息交じりに祝福しているようだった。




