◎Playing 0/1/20 : 『ハローワールド』 God:Prius
創世暦元年 1月20日
サイト:World View ターゲット:Prius スタイル:Standard
惑星:BLUE PLANET
海岸線にその異質は存在した。真白な星砂に不気味と断言できる容貌を携えたグリーンゴブリンチャイルド。照りのある緑色の肌には、筋肉が隆々としその大きさは人間の子供と比べると一回りは大きい。手には樫を削った身体に見合わぬサイズの棍棒を握り締め左右に身体を揺さぶりながら辺りを徘徊する姿は野蛮ながらもどこか憎めない。その姿をプリウスは遠目から観察していた。
世界に配置するモンスターには円状に予め設計された行動範囲が存在する。
グリーンゴブリンチャイルドの行動範囲は半径三メートル。配置したポイントを中心に広がる円範囲の外には足を踏み出す事は無い。
与えた情報の反映を確認する為には、自らが近付く必要があった。
「ちゃんと反映されてるかな。なんかドキドキするな」
近付く過程で高鳴る胸の鼓動。だがその行動には重大な盲点がある事など微塵も気付かない。
プリウスの頭の中ではモンスターが指定した言葉を話してくれるだろうか、その一点に収束していた。後から考えれば初期設定に含まれていた二種類のモンスターがその油断の引き金と為ってしまったのかもしれない。
微笑みながら歩み寄るプリウスに対してグリーンゴブリン・チャイルドはただ諸手を下げてじっと見つめていた。両者の距離が次第に狭まりその距離が三メートルを切ったところでふと足が止まる。
「ハローワールド。ボク、ゴブリン」
まるでヘリウムガスに犯されたかのような奇妙な声。だが確かに設定した言葉が発声された。どうやら成功したようだ。
入力した内容が反映される、それは当たり前の事実でありながらも実際の結果には少なからずの喜びが伴ってくる。
純粋な感動に包まれて発声したモンスターの頭を撫でてやろうとプリウスが笑顔で踏み出したその時、唐突に事件は起こった。
それは創造主にとって想定されていない設定外の出来事。
突如として棍棒を振り上げたグリーンゴブリン・チャイルドがプリウスへと襲い掛かったのだ。
「ハローワールド。ボク、ゴブリン」
振り下ろされた棍棒が空を切る。頬下を掠めた風圧にプリウスの表情が青褪める。
事態が呑みこめない。だが状況の把握の可否に関わらずその局面を切り抜ける必要がある。
「何で、ちょっと待って。悪かった。僕が悪かった。だからちょっとその武器下ろして。って危な!」
暴力的に振り回される縦横無尽の棍棒の軌跡から逃げ回り砂地に転げ回る。
「ハローワールド。ボク、ゴブリン」
淡々と繰り返される文言が不気味さを醸し出している。完全にリピート設定が裏目に出ていた。
砂塗れになりながら、プリウスはある一つの結論に思い当る。
「そうか、こいつアクティブなのか」
世界のモンスターは一つの観点から二種に大別する事が出来る。
それがノンアクティブ≪非自発的行動型≫とアクティブ≪自発的行動型≫という概念である。
ノンアクティブとは気質の穏やかなモンスターの総称で、自発的に行動を仕掛ける事は無い。対してアクティブのモンスターは非常に獰猛で、好戦的に攻撃を仕掛けてくる。
この概念に照らし合わせるならばラヴィやシャメロットは前者のノンアクティブに相当する。この事実がプリウスのこの上ない油断を招いた。
「ハローワールド。ボク、ゴブリン」
「五月蝿いなお前は。今考えてるんだよ、って喋らせたのは僕なんだけど。アクティブって……まずい、どうする戦うか。勝てるのか。やっぱり逃げようか」
追われながら腰元のブロンズナイフに手を掛ける。
狩りの動機を求めていたプリウスにとっては思わぬ機会に恵まれた。
「動機なんて大層なもの必要なかったじゃないか。自分の身が危ないから守る。理由なんてそれで充分だ」
身を翻して振り向き様に切りつける。
緑色の皮膚を抉ると同時にヘリウム音声の悲鳴と共に蒼白の光芒が立ち昇る。
「ハローワールド。ボク、ゴブリン」
苦痛に表情を歪めながらも滑稽なまでに与えられた文言を繰り返す。
完全な泥仕合の中で互いの攻め手に揉まれながら振り上げられた棍棒を紙一重でかわしたプリウスは止めの一撃を加える。胸に深々と突き刺したブロンズナイフが大量の光芒を立ち昇らせるとグリーンゴブリンチャイルドは光として消えて行った。
戦いを終えたプリウスはその場にへたり込む。
「冗談じゃないよ。襲い掛かってくるなんて聞いてないよ」
創造の段階としては、まだ赤子が指をしゃぶっているに過ぎない。
だがきっとハローワールドから得た教訓は創造主を次の段階へと成長させる事だろう。




