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真球理説  作者: root
虚章 次の貴方へ
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プロローグ 遠い記憶

今は遠い、遥か彼方にあった始まりの世界。


世界に人間という種が溢れかえっていた世界でそれは起こった。いつもと変わらない日常、何も変わらない安寧の日々が突如として崩壊してしまった始まりにして、人が認識してしまった残酷な世界の結末。


―――変わりなき日々においても誰にも分からない筈の未来をある人間は見てしまった。何かの勘違い、ただの白昼夢だと切り捨てたそれが翌日現実なってもただの偶然だと思い込み、三日が経つ。


猛烈な既視感に、覚えている筈の無い記憶が日が経つごとに増えていく。おかしいのは自分だけかと適当に作った捨て垢で呟くと、作ったばかりのアカウントにも関わらず多くの反応が届いた。


私も、僕も、俺もと。年齢、性別、地域はおろか国籍まで違うというのにその呟きに多くの共感、及び賛同者が集い、その中で比較的身近に住んでいる人達と翌日会うことになり、その人間はいつもより早く眠りにつく。


―――そうして、崩壊は始まっていく。


その日の夢はいつにも増してリアルで、普段は顔が靄がかかっているように霞んでいた知り合いの顔まで夢の中で再現されていた。どこまでも青く澄んでいた空が世界の終わりを告げるように赤く染まり、絶えず続く地響きと何かが焼ける匂いが充満したどこかの公園。


『逃げて、ここじゃないどこか遠く。終わりが来るその時まで貴方は生きていてね』


周りに転がる友人の死体に、仕事場の同僚に似た顔の、焼け爛れて苦悶の表情で絶命している死体。気の遠くなるほどの夥しい数の死体に囲まれても何も感じないのに、今は目の前の知らない人との別れに何故か私は泣いている。


何でこんなに悲しいのか今の私には分からない。ただ、悲しいのだ。友人との別れよりも、愚痴を溢しあう仲の同僚との死別よりも、今は目の前に居る人との別れだけがただただ悲しい。


―――顔が霞んでいる。声がノイズに塗れてよく聞こえない。周りの人間の死体は嫌なほど鮮明に映っているのに、貴方だけが霞んで見えて、声が上手く聞きとれない。


『嫌だ、嫌だ!!だって、ここで『   』と別れたら、―――もう会えないんだよ...?』


『大丈夫、ここじゃないどこかでまた会えるわ。そうね、二回、三回、どれだけ繰り返すか分からないけれど、きっとどこかの円の中できっと会えるから―――』


「それまで、お別れね」


最後の言葉だけが鮮明に聞こえると、その人間は目を覚ました。そして、頬を伝う涙を右手でなぞり、喧騒に塗れた朝を迎える。


それこそ、終わりにして始まりの世界。今まで世界が幾度も繰り返されてきた、と初めて人類が認識した世界線。


幾度も世界が繰り返され、次第にすり減っていく意思(希望)と共に僅かに残った記憶の欠片にして。

―――人類が真球の中心に至り、希望の終わりへと向かう為の物語の始まりだ。

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