第八話 三日目 救世主
「ふわぁ、寝みぃ」
「ああそうだな……なにせ昨日よりも数十分早く起こされたもんな……」
俺達は大きく欠伸をする。その後俺達は、眠気覚ましをするために、拠点の端にある手洗い場に向かった。
中心部に戻る途中、ラバイズさんが昨日
「日が出たら魔物がくる。だからさっさと片付けろ」
と皆に言っていたのをふと思い出した。だから俺達は、片付けをしている騎士さん達の手伝いをしに向かった。
天幕や机、椅子などの片付けを終わらした頃、太陽の光が朧気ながらに光だした。また、北の方角から勇者達が、綺麗に整った装備でやって来たのを目撃する。
(くっそぉ……こいつらわぁ)
俺は、夜を建物の中でぬくぬくと過ごした彼らに対して、一方的な妬みを持っている。だから俺は、心の中で吐き捨てるように愚痴を言った。
そうとは言っても、俺はきちんと仕事はする。戦場に戻ってきた勇者達に俺は、昨日の会議で可決したことを伝える。
「なるほど、了解した」
「オーケー、任せとけ!」
と、各々が俺の伝言に対して返事をした。中には生意気な奴もいたが……。
彼らと雑談をしていた時、ラバイズさんが軍全体に向かって大声を出した。
「魔物が迫ってきた! 総員、陣を組め!!」
「「「はっ!!!」」」
かくしてラバイズさんの命令を受けた俺達は、昨日と同じ配置につく。つまり、俺とカズと桜遊凜は軍の西部だ。
「かかれぇぇぇ!!!」
全員が定位置についたのを確認したラバイズさんは、腰にかけている鞘から剣を抜き、天高く掲げた。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
彼の指揮に気持ちを高揚された騎士達は、攻めてきた魔族軍に向かって、勢いよく突撃する。俺は突進中、ふと後ろを見てみる。すると、騎士さん達の地面を蹴った足跡が無数に残っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
石に血がつき、赤石となっていく。草花は踏みにじれられ、萎れている。
刃物で斬られて、地に伏していく者達。爆発で体が弾け飛び、バラバラになった者達。
魔法を必死に発動させ、相手へと撃ち込む魔法使い。負けじと魔法を発動させ、こちら側の魔法を相殺する魔族軍の魔法使い。
各地で激しい戦いの音が聞こえてくる。特に東部、中央部、西部は、なかなかにまずいことになっているようだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
東部
「松末、危ない!」
松末の背後を鈍く光った刃が襲う。それを谷原が側面から攻撃して弾き返す。
谷原が相手の刃と体をぶっ飛ばした後、松末の元へと駆け寄る。
「大丈夫か松末!? 怪我はあるか?」
「ううん、大丈夫だよ。それよりあなたは?」
大丈夫と答えた松末は谷原に質問をし返した。
「私は大丈……」
彼女は大丈夫と答えようとしたが途中で言葉を切らした。なぜならその瞬間、相手の火魔法が二人めがけて飛んできたからだ。
「ッ、まずい避けられない!」
松末は避けきれないと判断し、目を瞑る。次の瞬間、目をつぶっていてもわかる程眩しくなったので、ふと瞼を開く。すると、青色の光が二人を包んでいた。その魔法は、相手の攻撃を打ち消した後、霧散していく。
光が消えた後、後方から怒鳴り声に近い声が聞こえてきた。
「ちょっと二人とも! 戦場でそんな隙を晒すな! 死ぬぞ!!」
どうやら今の防御魔法は白河のだったらしい。彼女は非常に怒っていた。
「白河……すまねぇ、助かった。」
「あ、ありかどう」
彼女の言葉に二人は素直に謝る。
「白河の言うとおりだ。もっと集中しろ!」
前方から千川原が短剣で相手を高速で斬りつけながら、白河の意見に賛同する。
「は、はい! ……キャァァァ!!」
「谷原どうし……」
突然叫びだした谷原にどうしのたか聞くと、松末の後ろを人差し指で震えながら指差す。彼女が指差した方向を見てみると、松末は目を見開いた。なんと、前方百八十度から魔物が大勢やって来ていたのだ。
「!! これは本格的にまずいな……突っ込むぞ! 三人とも!!」
「わ、わかった」
「「オッケー!」」
松末の言葉に応じる三人。
そうして松末が先頭に立って、やって来る魔物の群れへと向かって、突撃していった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
西部
数多の魔法が飛び交う中、俺は決死の覚悟で接近戦をしていた。カズは状況に応じて魔法と剣を使い分け、桜遊凜は騎士の人に守られながら皆を癒している。
そんな中、空を飛ぶ魔物が低空飛行で俺のそばを通り抜け、カズの方へ突進していく。
「おいカズ!! 鳥型の魔物がそっちに行った!! 任せる!!」
「おうっ、任せとけ!!」
カズは首を縦に振りながら答えると、意識を少し剣に集中させ、火を纏わせる。そのまま彼は、剣をおもいっきり振り下ろす。
「火鶴!!」
剣を勢いよく振り抜くことで生まれた力によって、纏っていた火が剣から分離。猛烈な勢いで、相手めがけて大きな鶴へと変形しながら突っ込んでいく。
「グァァァ!!」
「ピギャァァ!!」
前方にいた魔物達は絶叫を発しながら塵と化していった。ほっと一息をつく彼に、俺は声をかける。
「流石だカズ。次が来るぞ!」
「おう!」
カズが気合いを入れ直した時だった。俺達の目前に、高さ二~三メートルはあろうかというほどの巨大な魔物、ラージマンが現れた。
「で、でけぇ……」
その大きさを見て、カズは呆気にとられていた。そんな彼に向かって、俺は今出せる限界の大声で叫ぶ。
「おいっ!!! 魔物が攻撃してくるぞ!!!」
俺の言葉にハッと我にかえったカズだったが、気付いた時には時既に遅し。ラージマンの拳は既に、カズから僅か一メートルちょっと離れた場所にあったのだ。
「くッ、間に合わない!」
ラージマンの拳がカズの顔面めがけて一直線に進む。それをカズは、咄嗟に動くことで辛うじてもろに食らうことはなかった。しかし、それでも強烈な拳を完璧に避けることはできず、肩に当たり、彼の肩の骨は粉砕骨折した。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あまりの痛さで断末魔に近い声が辺りに響き渡る。
「カズぅぅ!!! おい桜遊凜、治癒を!!」
絶叫に気づいた騎士さんがこちらを向いてくる。がしかし、魔物の対応で手が埋まり、助けに行くことができないように見える。
それを見た俺は、大声で桜遊凜にカズの治癒を求めた。桜遊凜は、わかってる! と焦り混じりの声で出しながら、カズのもとへと走って近寄よる。
「任せて! 治癒!!」
彼女がそう言うと緑色の光がカズを包んだ。すると、見るも無惨だったカズの肩が元通りに治っていく。
「ありがとう桜遊凜。おかげで治った。おい真助!! 今の大振りであいつは隙だらけだ!! 一発ぶちかますのなら今だ!!」
カズは桜遊凜に素早くお礼をいった後、どうやら痛みは消えないらしく、顔を少々歪ませながら、俺に向かってそう言った。
「おうけい! 任せとけ!!」
俺は、彼の発言に応じつつ、足を踏ん張り、ラージマンの頭のてっぺんに達する高さまで勢いよく跳び跳ねた。
山で言うところの山頂に達した時、俺は頭の後ろに剣を両手で構え、勢いよく振り落ろす。
「岩斬!! おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺の一撃でラージマンの体は、切り目が多少粗かったものの真っ二つに割れ、大量の血を辺りにぶちまけながら地に伏していく。
ドスゥン!!! と大きな音がなる。
「はあはあはあ……真っ二つにしてやったぜこの野郎。」
跳躍と技を使ったせいで、俺の息はかなり上がっていた。息が荒いままそう言うと、俺は袖で顔についたラージマンの返り血を拭う。
「ああ凄いな。……おっと、次のお客さんだ!」
カズの言葉で俺は右に顔を向ける。そこには、フェルトドッグとラージマンが五体ずつ現れた。
「これは困ったな……だが、行くしかない」
カズが剣を構えようとした時、俺は彼の前に立った。
「カズ。お前、まだ火鶴のクールタイムがあるだろ? ここは俺に任せろ」
「お、お前……」
「いくぜぇ……ふん!!」
俺はおもいっきり地面を蹴った。地面には足跡がくっきりと残る。
「俺は風だぁぁぁ!!!」
カズは驚嘆した。これが速に極振りしたものの力なのか……と。真助は物凄い勢いで魔物を斬る。
その姿はまるで、獲物を追いかけるハイエナのようだった。
「まずは犬だ……くらえ!」
すると真助は、フェルトドッグを一匹、胴体を分断して倒す。だがしかし、彼に一息つく暇はない。前方から二匹、右と左から一匹ずつ、頭上からはラージマンの拳が襲う。
「真助ぇぇぇ!!」
その場に居たもの全てが青ざめた。文字通り、絶体絶命だからだ。
(もう……駄目なのか……)
カズが刹那に思ったコンマ零秒の間だった。なんと真助は、後ろに下がるどころか、その場にしゃがみこんだのだ。
真助の頭があった場所に、犬四匹と拳が一つ交わる。その瞬間を、彼は見逃さなかった。
「防げないなら攻める!! くらえぇぇ!! 力と速さに極振りしたぁ、この俺の剣をぉぉぉ!!!」
真助は、交わった集中点めがけて渾身の力で剣を振る。カズの頬にそよ風がかする。
「最大パワァァァ!! 岩、斬!!!!!」
次の瞬間、フェルトドッグ四匹とラージマン一体が消滅していた。その景色はまるで焦土そのもの。誰もそこには近づかない。近づけないのだ。
「す、すげぇ……凄すぎるぞ!! 真助!!」
カズは、そんな言葉しか出てこなかった。よろよろとふらつきながら立ち上がる彼の姿を見てしまったら。
「まだ……終わっていない……!」
真助が発言した時、彼の体と影が四つ重なった。その場に居たものすべてが再び凍りつく。真助の凄技のせいで完全に忘れていたことを、思い出したからだ。
カズの隣にいる桜遊凛が、震えながら呟く。
「ま、まだ……四体……い……る……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中央部
ここは、味方の戦力も敵の戦力も一極集中している場所だ。それが故に戦闘が一番激化している。
「くそ!! どんだけいるんだよ、ここはぁ!!」
寛大は魔物を素手で殴りながら、吐き捨てるように言う。
「仕方ないよ、寛大! 敵の勢力も味方の勢力もここに一極集中しているんだから!」
そんな寛大に、相手をズバズバと斬りつけながら正論を言う茜音。
「んなこたぁわかってる! だけど目の前にいる膨大な量の魔物を見ていたらつい思っちまうんだ!!」
寛大は周囲に広がる魔物の海を見ながら言った。
「茜音と寛大の意見はよくわかる! 佳純もそう思ってる!! だけどそんなことを言っててもこの状況は解決されない!! 勝たなきゃ解決しないの!! だから揉めずに頑張ろ!!」
佳純が二人に対してそう言った時だった。唐突に死角からすばしっこくて小さい犬型の魔物、フェルトドッグが襲ってきたのだ。
「佳純危ねぇ!!」
「え?」
寛大の叫びで左を向いた佳純は、目前に鋭く発達したギラッと光る牙があった。それを見た佳純は恐怖のあまり、思わず目を瞑る。
「炎弓!!」
フェルトドッグの犬歯が佳純の頭に突き刺さる寸前だった。後方から物凄い勢いで、声と共に炎を纏った弓がフェルトドッグの脳天を貫通していく。その声を聞いた佳純は恐る恐る目を開けてみる。するとそこには、数メートル程遠くに飛ばされ、勢いよく燃えているフェルトドッグがいた。
言葉を無くしていると、後方から真弓が佳純めがけて走って来た。
「大丈夫!? 佳純ちゃん!!」
佳純のもとについた真弓は、優しい口調で心配の声をかけてくれた。
「ま、真弓……助けてくれてありがとう」
そんな言葉に佳純は、真心が沢山詰まった声でお礼を言う。
「ど、どういたしまして」
その返答に真弓は顔を少し赤らめ、指を弄りながら言葉を返す。
その行動を見たすべての人が可愛いなぁと思ったのも束の間。前方から大量の魔物が押し寄せてきた。
「ちっ、おい寛大! 迎撃するぞ!!」
「了解だ! 剛!!」
それを見た寛大と剛は、お互いの意思を確認した後、前方の魔物達と対となるように、八の字の形でくっついた。そして、剛は斧を、寛大は拳を深く構えた。
魔物達との距離が十メートルを切った辺りで、寛大は構えた拳でおもいっきり空中を殴り、前方に風を起こす。剛は斧で、今持てる最大限の力を使って空中を斜めに斬り、斬撃を飛ばす。
「斜断!!」
「風拳!!」
相手は斜めに斬られたり、風圧で吹き飛ばされたりしてバラバラになってふっ飛んでいった。
「ふぅー。よし! どうだ!!」
「いいぞ剛! いい剣筋だ!」
「ありがとう寛大!」
なかなかの出来に二人はお互いを褒め合った。
すると後ろにいた桃神が、二人に対してなんとも言えない顔でもの申す。
「二人とも~。あのですね。喜んでいるところ悪いんだけど……なんか私達、囲まれちゃったみたい……」
「「え?」」
浮き上がっていた二人は、桃神にそう言われて周りを見てみると、確かに四方八方魔物に囲まれていた。
「く、くそぅ……どうすりゃいいんだ……」
剛がそんなことを言っていると、後ろにいる桃神が、スキルを使って手の中に光を集めていた。
「ここは私が!! 光矢、百本!!」
すると桃神は手の中に集めていた光を百本の光の矢にして、周囲の魔物を次々と倒していく。
「すゲェぞ桃神!!」
「うん、本当にそうだよ!」
皆は桃神の行動をよってたかって褒めまくる。
「ありがとう! でも倒したのは……」
桃神は皆にお礼を言った後言葉を続けたが、全てを言いかける前に、彼女が倒した魔物達の後ろにいた、別の魔物が彼らに迫ってくる。
「やっぱりこうなるか……」
そうだろうなって顔で桃神は、落ち着いた声で言う。そんな彼女に対して、茜音が切羽詰まった声で剣を構えたまま問いかける。
「桃神! 今すぐにあの技をもう一度使うことは出来ないの!?」
「無理! あれをするには時間がかかる!」
そんな茜音の問いに対して桃神は、たんたんと大きな声で現実を伝える。
「ッ……だとしたら本格的にまずいわね」
茜音はそう言った後、顎を少し引いた。
そうこうしている間に、魔物達は再び彼らの四方八方を塞ぐ。
「くっそぅ……」
寛大が悲痛な声で唸る。
彼らは魔物達によって、崖っぷちに立たされている。
そんな絶望的な状況下に陥っていた時だった。突然、自陣の後方部から、猛烈な勢いで声と共に、屍や凸凹した地形を踏み越えながら突進してくるものが現れた。その光景に、戦場にいたほぼ全ての人達がぎょっとする。
「「「「「マイ王女!!!???」」」」」
最後まで読んでくださりありがとうございます。ブックマークと評価をしていただけると幸いです。作者のモチベーションに繋がります。
↓