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第七話 二日目 魔物の共通の性質

 俺達は日が昇る前に目が覚めた。その後、大急ぎで朝御飯や着替えなどをし、南門をくぐって戦場へと駆け出した。日は既に顔を出している。


 凸凹した平原を風を切るように突き進み、転がっている死体を避けながら現場に向かっていった。戦場につくと既に血で血を洗う争いが繰り広げられている。


 戦場についた時、茜音が開口一番に、指揮をとっていたラバイズさんに向かって言葉を発する。その声は、音波が肌にめり込むかと思う位の大声だった。


 (いきなり叫ぶなよぉ~)


「ラバイズさん!! 今加勢します!!」


 その声に気付いたラバイズさんは瞬時にこちらを向き、同様に大声を出した。


「おおぉ茜音達!!」


 ラバイズさんがそう言った瞬間だった。横から犬形の魔物が、彼の頭をめがけて牙を光らす。だが、ラバイズさんは蚊を払うかのように、いとも簡単に倒す。


 (は、速すぎて見えねぇ……)


 斬られた魔物はそのまま地面に黒い血を流しながら倒れる。その血は、遠くにいてもわかる程の悪臭である。俺は思わず、鼻をつまみそうになった。

 魔物を倒したラバイズさんは、直ぐにまた鼓膜が破けそうになるほどの大声を出す。


「早速だが加勢してくれ!!」


「「「はいっ!!!」」」


 ラバイズさんの加勢を求めるその声に、俺達は張りのある声で返事を返す。

 そうして俺達は、持ち場に向かって勢いよく走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 戦場には、そこらじゅうに量り切れない程の量の血や死体が落ちている。蒼かった草原は、悪臭立ちこめる赤色と黒色の海となって、俺達を襲う。おそらく今後も、こういうことは続いていくだろう。この戦いが終わるまでは……





「早く夜になんねぇかなぁ~」


「? 突然どうしたんですか?」


 戦いの最中、急に変なことを言い出した騎士さんに対して、俺はすかさず突っ込む。


「いや~な。実は夜になると、一部を除いたすべての魔物の活動が衰えるんだよ。まあ、朝になるともと通りになるが」


「え?」


 俺はその答えに心底驚愕した。なんで夜になると魔物って衰えるんだ!? え? え?

 あまりの衝撃に、俺の剣筋がぶれた。


「まあなんだ。これがこの世界の常識だから、慣れていってくれ」


 騎士さんは襲いかかってくる魔物を斬りつけ、払った後、戸惑う俺を落ち着かせるように言った。斬られた魔物の血が返り血となって俺達にかかりながら。


(……だから昨夜の王都は静かだったのか……)


 騎士さんの言葉で冷静を取り戻した俺は、即座にそう思った。


「真助さん! 呆けていないで戦うぞ!」


 騎士さんは体をそのままに、ボーっとしている俺に向かって切羽詰まった声で言葉を発する。


「は、はいっ!!」


 俺は騎士さんの言葉にあわてて応じた後、この三週間の中で会得した技を繰り出した。

 岩をも切り裂くような斬撃で相手を斬りつけた後、地を這いながら周囲に衝撃波を起こす、その技の名は


 

岩斬(がんざん)!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 日が沈みだし、辺りの色はだんだんと赤褐色から黒色へと変わっていく。それに伴って魔物達の動きも鈍くなり、一定の距離まで下がっていった。


「本当に魔物の勢いが衰えた……」


 俺はそう呟き、その光景に呆気をとられていた。沈みかけの太陽の光が目に入る。

 その間にも、騎士さん達はせっせと働いていた。そして、あっという間に、料理ができていた。

 出来立ての料理の匂いを嗅ぐべく、俺は鼻を近づけた。するとそこには、思わず涎が出てしまう程の匂い(楽園)が広がっていた。

 その後俺は、体を回して周囲を見た。すると、数々の天幕が設置されていたので、中に入ってみる。中には、簡易ながらもフカフカの寝床が五つほど、規則正しく並べられている。すげぇ……

 そして俺は、夕食を食べるために、焚き火へと向かった。





 俺達は今日、魔物達の共通の性質を知った。これを部下から聞いたラバイズさんは、「王城に戻らずに戦場で夜を過ごしてみないか?」 という提案をしてきた。また同時に、過ごさなくてもいいと言ってきた。


 その提案に賛成し、戦場で夜を過ごすことにしたのは、俺とカズだけだった。残らなかった者達の言い分は、その殆どが風呂に入りたいから。というものである。呆れてくる。


(……ちょっとは我慢しろよ。)


 心の中で文句をいった後、俺達はボーッとしていた。すると突然、俺達は肩を軽く叩かれながら大きな声をかけられた。


「よっ! 元気かぁお前達~。私は元気だぞ~」


 すぐに俺達は後ろを振り向いた。振り向くとそこには、水色と白色の水玉が刺繍されたマントをたなびかせた、ウエストがキュッとした女性が立っていた。


「!? もぉ~驚かさないでくださいよ~ブライフさん」


 俺は自分の心臓の音に言葉を遮られそうになりながらも、なんとか言葉を返した。


「ほんとですよぉ。一瞬、心臓が飛び出るかと思いましたよ」


 カズは手に取るようにわかるほど驚いていた。次の瞬間、カズは深呼吸をした後、揉み上げをかきながら言う。


「おっと、これは失敬。……とは思っていない」


 彼女は両手を腰に当て、鼻で笑いながら言う。


「「ちょっとぉ!!」」


 その反応に、俺とカズはすかさず少々大きな声で突っ込んだ。


「冗談だよ冗談。いい感じに緊張がほぐれたかな?」


 彼女は、柔らかな顔と声で言った。その姿はまるで仏様のようで、輝いてみえる。


「……は、はい。ほぐれました……」


「俺も……」


 心配を和らげまいとするブライフさんの心気遣いを知った俺達は、彼女の顔を直視することができなかった。だから、少し目線を下げて言った。


「それは良かった。じゃあ焚き火の前に集合してくれ。これから代表者を集めて軍事会議を開くから」


「「了解」」


 彼女の指示に俺達は素直に従った。そして、十弾の五人とツイシン団の代表者数名が集まる、焚き火前に向かってゆったりとした歩調で足を進めた。


 今さらだが、彼女の名前はブライフさん。十弾の内の一人で、いつも笑顔を絶やさない皆のムードメーカーだ。しかし、いざ戦場に立ち、魔物を蹴散らし始めると、その笑顔は意味を変える。魔物側から見ると悪魔の笑顔。人間側から見ると天使の笑顔に……。

 そして彼女は、俺達に魔法を教えてくれた恩師でもある。


 焚き火を囲むように丸太に腰を掛けた俺達はかくして、十弾の五人と騎士の代表者数名と俺とカズによる軍事会議が始まった。焚き火の炎が複数の揺れる影を作りながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それではこれより軍事会議を始める。議長はこの私、スタバールである。宜しく頼む。」


 静かな雰囲気の中、ゆっくりと話し始めた彼の名前はスタバールさん。十弾の内の一人で、十弾の中で一番情報整理力がある人だ。しかし、性格が頑固で生真面目なせいで、皆からは玉に瑕だと言われている。


「それでは早速内容に移っていく。まず始めに今の戦局についてだ。

 五万対二万五千で始まったこの戦いは現在、四万二千対二万二千となっている。劣勢だ。このまま行くと例え相手を全滅させたとしても、こちらの被害も尋常ではないものとなる。だから、何か打開策を考えなければならない」


 そう言ったスタバールさんは、焚き火の薪を見ながら考え込んだ。そんな彼に対して、ラバイズが手をあげて進言した。


「では、地形を利用するのはどうでしょうか。兵達を見た限り、地形をあまり利用できていないと感じたので」


「……そうだな。俺も同じことを考えていた。今のところはこれしか思い付かない……。よし! では、明日からは地形を有効活用していこう」


 ラバイズさんのその提案に、スタバールさんは賛成した。そして、一瞬だけ腕を組んで少し考えた後、俺達二人の方を向いて質問をしてきた。


「そなたたちよ。王国周辺の地形はわかるか?」


「いえ、わかりません。まだ習っていないので」


 彼の質問に、カズは首を横に振りながら素直に答える。


「そうか、わかった。それでは今から、ここの地形について 説明をするからよく聞いておくように。また、明日勇者達がきたときに同じことを伝えておいてくれ」


「「わかりました」」


 俺達は、勢いのある伸びよい声で答える。


 少し間を置いた後、スタバールさんは、俺達のために説明をし始めた。


「よし、それでは説明に入る。

 まず、王国の地形の特徴として真っ先に上がるのは、国土の半分以上が山に囲まれているということだ。勿論天然だ。

 この天然の要塞により、普通の魔物は山を越えることすらできない。飛べる魔物も、登りきる前に疲れはてて中腹辺りでダウンする」


「あの。それだと人間も同じようになりますが、そこはどうするのですか?」


 スタバールさんの矛盾した発現が気になった俺は、手をあげて質問をする。


「それはだな、山の下をくぐり抜けるように造られた人工の通路が国境付近にあるのだ。商人や他国へ旅行に行く人なんかがよく使っている通路だ。そこを皆使っている」


「なるほど。よくわかりました」


 スタバールさんの言葉に首を縦に振った俺は、再び聞くことに集中した。ふと隣を見てみるとカズも納得していたらしく、同じく首を縦に振っている。


「うむ。つまり、この天然の要塞によってある程度の魔物は入ってこない、という理論となる。なるんだが……今回はどうしてだ?」


「今その話をしても意味ないよスタバール。その話はこの戦いが終わってからにしよう」


 顎に手を当て、考え込もうとしたスタバールさんをブライフさんが少しきつめの声で止めた。

 ブライフさんの忠告を受けたスタバールさんは、考え込むのを止め、王国周辺の地形について再び話し始める。


「では次に、平原の地形についてだ。

 ここの平原は、落石や土砂崩れなどにより、凸凹したところ、巨大な岩石があるところが殆どだ。今回に関してはこの岩だらけの平原を利用することを私は考えている。なあレプュラ、この考えについてどう思う?」


 スタバールさんは地形利用作戦が現実的かどうかを、隣にいるレプュラに聞いた。


「そうだなぁ。なかなか合理的な作戦だから僕はいいと思うよ~」


 やんわりとした口調で答えた彼の名前はレプュラ。十弾の内の一人だ。彼は地形戦のスペシャリストで、ブライフには及ばないものの、魔法の扱いが飛び抜けている。だけど運動はあまり得意ではないらしい。

 そう、彼は長所と短所がはっきりとしているのだ。


「君がそう言うのならば問題はないな」


 スタバールさんは、レプュラの返答で自信をつけ、先程の案を実際に明日から使用することを決めた。そして、全員にはっきりと聞こえる位の声量で話し始める。

 正直に言うと、こんな至近距離で大声を出されると、うるさくてたまらん。


「それでは! 明日からは、地形を利用して魔族軍を迎え撃つという迎撃方針に切り替える!

 以上で、今日の軍事会議を終わる! 各自で英気を養うように!

 それでは解散!!」


「「「はっ!!!」」」


 かくしてスタバールさんの命を受けた俺達は、英気を養うために、各々の就寝場所へと散らばっていった。


「おし! じゃあ俺達も休むとしますかね」


「そうだな、寝るか。」


 就寝するために寝る準備をしようとしていたときだった。俺達がいる場所から少し離れた所にある、一本杉から俺達を呼ぶ声が聞こえた。

 唐突に大声で呼ばれた俺達は、一瞬だけ肩が上がった。


(びびったぁ~)


「おーい、真助と和穂ー! すまんがちょっと来てくれー! 確認したいことがあるんだー!」


「ッ、フレキシルさん。わかりましたー! 直ぐに行きまーす! よしカズ、行くぞ」


「りょーかい。」


 俺達を大声で呼んだ彼の名前はフレキシル。柔術のスペシャリストだ。その柔らかな身体を使った変幻自在な攻撃は、彼の十八番の一つだ。


 かくしてフレキシルに呼ばれた俺達は、一本杉の下へと提灯を持って闇の中を進む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「寝ようとしていたところすまないね」


 一本杉の下についた俺達を見た瞬間。彼は、開口一番に謝罪をし、頭を下げる。


「頭を上げてください。俺たち大丈夫ですよ。それより用っていうのは?」


「ああ。実はな、俺は君達にこの辺りに何があるのかを教えていないことに気付いたんだ。だから、今から教えよう! と思ったから呼んだんだ」


 彼は頭を掻きながら言う。


「確かに……そういえば何も聞かされてなかったな……なあ真助」


「そうだな、カズ。フレキシルさん、是非教えてください」


 フレキシルさんの言葉に「あ、確かに」と思った俺達は、今後の生活のためにも知っておいた方がいい。と思ったので、彼の提案を受け入れた。


「ああいいとも。では、今回はツイシン王国を中心に説明したいと思う。

 まず、魔族軍が攻めてくる方角が南だ。この国の南には風化砂漠という広大な砂漠が存在する。なんでも、五百年前に起きた大戦争によってできたらしい。

 また、国境を越えた後、西側に歩いていくと、サイプルという街がある。そこは漁業が盛んで、市場が沢山あるんだ。

 歯切れが悪いけど、説明は以上だ。どうだ。ある程度わかったか?」


「はい、わかりました」


「俺も」


 俺とカズは、同時に首を縦に振った。


「ならよかった。よし! では寝ようか。引き留めてしまって悪かったね。では、お休みなさい」


「「お休みなさい。」」


 フレキシルさんに頭を下げた後、俺達はもといた天幕へと戻った。

 天幕に戻った俺は、提灯を机の上に置き、ベッドに飛び込んだ。そして、中に藁をつめたフカフカの大袋を枕にして、瞼を閉じていく。





 ガタガタ


 俺は意識が途切れる寸前に、天幕の外で、木箱が揺れる音がした。気になったので確認をしに行こうとしたが、疲れが溜まっていたのだろう。俺は、眠気には勝てず、体を起こすことができなかった。だから、そのまま気にせず眠りにつくことにした。

最後まで読んでくださりありがとうございます。ブックマークと評価をしていただけると幸いです。作者のモチベーションに繋がります。


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