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第六話 一日目 開戦

 戦いの火蓋は、唐突に切っておとされた。


 王国軍は南に向かって凸凹した平原を進んでいた。すると王国軍は同じく王国に向かって進軍してくる魔族軍を発見した。相手の方もどうやら俺達を見つけたらしく、こちらを見るやいなや突進してきた。


 


 大気が揺れているのがわかる。物凄い地響きだ。俺はこの地響きのせいで足がもつれて転びそうになった。


「ついに攻めて来たか……皆のもの!! このラバイズに続けぇぇぇ!!!」


 攻めてきた魔族軍を見たラバイズさんは剣を勢いよく掲げて皆を鼓舞した。

 そしてラバイズさんは気迫の籠った号令を発する。その言葉に王国軍は雄叫びをあげた。


「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」


 そうして両軍は激しく激突した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 剣と剣がぶつかる音。攻撃魔法がぶつかり合う音などが聞こえてくる。

 ふと周りを見てみる。視界には腕、足といった体の部位や死体そのものが沢山入ってきた。その惨状を構成しているものに、人間も魔物も関係なかった。




「こ、これが戦争……う、吐きそう」


 そんな惨状を見た茜音は口を手で押さえた。


「茜音、吐いちゃ駄目だよ。ここは戦場なんだから……とは言っても佳純も吐きそう。」


 佳純は吐くなと注意しつつ、自分も手を口にあてて吐くのを堪えていた。


「日本ではなかったから体験したことなかったけど……これが死んでいった人達……世界では実際にこんなことが起きていた、のね」


 真弓は生まれたての小鹿のように両膝を震わせながら言った。


「そ、そうだな。ボクシングとかで流れる血とは訳が違う。これが、本物か……剛」


 寛大はすぐそこにいた剛に話しかけた。


「ああ。なあ寛大……人ってのはこんなに簡単に死ぬんだな……」


 剛は同意した後、低くて重い声で寛大に同じく話しかけた。


「……おう。」


 寛大は首を縦に振った。


 勇者達は会話をしていた。恐怖に押し潰されそうな心を少しでも拭いさるために……

 当然俺達も例外ではなかった。




「カズ……俺、今すぐ帰りたい」


 俺は目をキョロキョロとさせ、額から溢れでる汗を拭いながら言った。


「真助……奇遇だな、俺も今すぐに帰りたい」


 カズはそう答えた後震える身体を抑えるべく、頬と足を順に叩いた。


「「……うし、帰るか」」


 そう決意し二人同時に後ろを向いたときだった。そこには震えながら仁王立ちをし、真顔でこちらを見てくる桜遊凜の姿があった。


「駄目ぇぇ!! 帰るなぁぁ!! 桜遊凜も頑張るんだかrrぁ、君達も頑張ろ!!」


 桜遊凜はそう言って俺達のことを元気付けようとしてくれた。当の本人は、あまりの緊張や恐怖のせいで体が小刻みに震えていた。


「桜遊凜の言う通りです! この窮地を共に乗り越えましょう! ね?」


 すると桜遊凜に便乗するように桃神が言葉を発した。


「桃神……なんかお前、動じてないな?」


 こんな戦場にいるにも関わらず、彼女の顔からは、恐怖や狼狽といった感情が全くといっていい程感じとれなかった。なんなら震えてすらいなかった。そんな彼女に対して冷や汗をかいた俺は、気になったので聞いてみた。


「!? そそそそんなことないよ! ほ、ほら! 今だってこんなに震えてるし!」


 桃神はそうやって今震えだした腕をぐいぐいと俺の体に押し付けてきた。


「や、やっぱりそうだよな。……よし! 三週間の特訓の成果、発揮しようかね!」


 桃神の腕を押し返した後、俺は拳を握りしめながら言った。


「「「おう!!!

   はい!!!」」」


 そうやって皆で互いを鼓舞し合っているとラバイズさんの大声が聞こえてきた。


「勇者達よ!! あなた達は、それぞれ必ず三人以上の集団となって行動してくれ!! 宜しく頼む!!

 それでは、行動開始!!」


「「「はいっ!!!」」」


 俺達はラバイズさんの指示に大人しく従った。そして、各自三人以上の集団になり、散らばっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺はかずと桜遊凜と一緒に行動することにした。なぜ治癒士の彼女が戦場きいるのかと言うと、それはずばり彼女の我儘だ。




戦いが始まる十数分前。南門にて。



「ラバイズさん! 私、前線に出ます!」


 桜遊凜は唐突にラバイズさんに向かって進言した。


「!? なにを言っているんだあなたは。君は治癒士だろう」


 その言葉に驚いたラバイズさんは少し突き放し気味に言った。


「だからです! 戦闘中の皆の傷を治癒したいんです! 万が一、戦闘になってもなんとかなります! 皆が……仲間がいるから!!」


 ラバイズさんの言葉に臆することなく桜遊凜は言葉を続ける。


「……いやしかしねぇ、」


 それに戸惑うラバイズさん。


「お願いします!!!」


 熱意を頼りにラバイズさんを説得する桜遊凜。


「……仕方ない。君のそこまでの勇気と覚悟があるのなら……

責任は私が持つ。行ってこい!」


 その熱意に根負けしたラバイズさんは、頭を抱えながら承諾した。


「ッ……ありがとうございます!!!」


 ラバイズさんに向かって桜遊凛は深々と礼をした。その時の彼女の目には決死の覚悟が見えた。







「あのときの桜遊凜は、とてもかっこよかった……」


 俺はその時の光景を思い出していた。そして、気づいたら口から勝手に言葉が漏れてしまっていた。


「……真助、何か言ったか?」


 その呟きを聞き逃さなかった桜遊凜は、虎のような眼光で俺を睨み付けた。


「う、ううんううん! なんでもない。それじゃあ俺達も担当場所へ行きますかね。」


 そうして桜遊凜の言葉をはぐらかした後、俺達は魔族軍の西部へと全力疾走で向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 魔族軍の中央部にて


「しゃぁぁ! 行くぞ野郎共ぉ!! 作戦通りに軍の中央へ行くぞぉぉ!!」


 寛大が満更にもなく皆を率いる。


「うっしゃぁ任せとけ! この剛城様が相手を叩き切ってやるわぁ!!」


 やかましく応える剛。


「私達も行くよ! 佳純、真弓!」


 二人を行くように促す茜音。


「任せとき!」


「が、頑張ります!」


 その誘いに乗り、茜音達と一緒に行くことを決めた佳純と真弓。


 そうして彼らは魔族軍の中央部へと向かった。


 因みに他のクラスメイトは東部に四人。残りの人達は中央部へと集中していた。



「やっぱり遠くから見るのと近くで見るのとでは迫力が違うね……」


 佳純は隣にいる茜音に語りかけるように言った。


「うん……。だけど、私達は戦う。前に進む!!」


 佳純のその言葉に、茜音は決意を改めて固めた。それと同時に、遠くで行われている戦いをその目に焼き付けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同時刻。魔族軍の東部にて。


「はぁはぁはぁ。まずい……」


 息を切らしながら白河が言う。


「確かに。圧が凄いね……ここまでとは」


 白河の意見に賛同し、周囲からの圧に押し潰されかけながら谷原が言う。


「でも。そんなことも言ってられない……戦うのよ!」


 二人を鼓舞するように短剣を横方向に振りながら言う千川原。


「その通り……今こそ、根性を張るとき! さあ行くよ!!」


 千川原に賛同し遠くを見ながら言う松末。


「白河様、谷原様、千川原様、松末様、行きますよ!!」


 手には武器、胴体には防具、足には皮の靴を身に着けた四人組。そんな彼らを、戦場に行くよう促す一言を兵士の一人が言った。


「「「はいっ!!!」」」


 勇者達にとって、上司みたいな存在である騎士の言葉に、勢いよく答えた彼、彼女らは、戦場へと身を投じていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 開戦して半日が経過した。各々がしのぎを削り、死体の量も益々増えていった頃。ふと周りを見てみると気付けば日も沈みかけていた。そんな中、肝心の俺達はというと、ラバイズさんの指示で日が沈み始めた辺りで撤退をした。

 だから、現在、王城内にいる。





 王城の二階にある、とある一室で、俺達は反省会みたいなことをしていた。




「……凄かったね」


 茜音は隣にいる佳純に重い口調で話す。


「そうだね……佳純も驚愕した、よ。あれが……」


 茜音の言葉に佳純は少し言葉を詰まらせながら答えた。


「俺はまだ、あの血生臭い匂いが体にこびりついて離れねぇ」


 剛は腕を鼻に近づけ、くんくんと嗅ぎながら言った。


「俺もだ。この世界で生きていく以上、早く馴れねえとな……相手の無惨な姿に……」


 寛大がその発言をした後、一瞬の沈黙が勇者達を襲った。


 そんな重苦しい雰囲気を変えようと、真弓が口を開いた。


「ま、まあ、これから馴れていこうよ。くよくよせずに……。今、前線で必死に戦っている騎士さん達のためにも、早く起きて加勢しに行こうよ!」


「真弓……。そうだね……騎士さん達の、ひいてはこの国のためにも! 早く起きて加勢しに行こう! ね? 皆!!」


 真弓の発言に感銘を受けた茜音は、跳び跳ねるように立ち上がった。そして、彼女の言葉に便乗した。


「ああ!!」

「うんっ!」

「よーしっ!」

「やったるぜぇぇ!」


 真弓と茜音の言葉に感化された皆が、次々と決意を固める。そんな光景を見ながら、俺はぼやいていた。


「熱いな~あいつら。……俺らは寝るか? カズ」


「そうだな真助。寝よう」

 

 俺とカズは眠くなってきたので、立ち上がって扉へと向かった。


 扉を半分ちょっと程開けた瞬間だった。俺は重要なことを思い出したので、まだ話をしている皆の方を向いた。


「お休み……皆……」


 そうやって、小さな声で、囁くように俺は寝る前の挨拶をした。その後、俺は再び前を向き、扉をめいいっぱい開けた。そして、カズと共に敷居を越えた。


 部屋に戻った俺は、明日からも続く戦いに備えるべく、ベットに横たわり、眠りついたのであった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。ブックマークと評価をしていただけると幸いです。作者のモチベーションに繋がります。


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