第五話 一日目(襲撃側)
「なあなあお前。聞こえたか? あの、天幕越しでも聞こえるクラブヘアー様の声が」
「ああ勿論。恐らく、またあのお三方と揉めたんだろう」
「だよなぁ~」
進軍を続ける豚形の魔物が話をしていた。一体いつのことを話しているのか。それは、彼らがツイシン王国を攻める一週間程前のこと。
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ツイシン王国の南に位置する風化砂漠。そこのとある場所にて。
「はあ、退屈。暇暇暇暇暇暇暇暇!」
無数に穴が空いていたり所々切り裂かれた後があったりする荒れた部屋に声が響き渡る。
「暇暇うるせえ! この植物女! お前もそう思うだろぅ? デスフィルム」
リトルベアが部屋の隅っこで本を読んでいるデスフィルムに同意を求める。
「リトルベアの言う通りだ。言う通りだがもう少し穏やかに言えばいいのに……」
デスフィルムは読書中に大声で話しかけられたことがとても嫌だったらしい。リトルベアの発言に顔をしかめながら嫌々答えた。
「おっとすまんすまん。つい感情的になっちまった。いやぁほんとにこの尼五月蝿くて。」
デスフィルムは植物女と言われている人を見ながら煽り口調で言った。
「あぁ!? 誰が尼じゃこの糞餓鬼! 殺されてぇのか? あぁん!?」
その行為に怒った植物女と言われている人は自身の茎で部屋を壊しながら言う。
壊れた部屋の瓦礫が落ちてきてリトルベアに当たる。それに切れたリトルベアがまた怒鳴る。
「お前がその気ならやってやるよこの野郎!! 逆に殺してやるよぉ!!」
ぶちギレた二人がそれぞれ無数の茎といかにも固そうな爪を構えた。数秒の沈黙の後、二人は激しく衝突した。ただでさえぼろぼろで穴だらけの部屋が更に壊されていく。
その時、隅っこにいたデスフィルムは思った。このままじゃあ読書が出来ない……と。
二人が喧嘩しているので彼は困っていた。その時、ゆっくりと壊れかけの扉が金属音をならしながら開いた。すると体の大きな人が入ってきた。
「喧嘩をするなお前達。声が外まで響いているぞ。それにまた部屋を荒らしおって。反省が足らんな。戦いの準備で忙しいときだというのに……もう少し仲良くなれ。これでは部下に示しがつかん」
「「ク、クラブヘアー……すみません……」」
そんな廃れた空気の中だった。突如として誰かがどたばたと大急ぎで部屋に転がり込んできた。
「四強の皆様! たった今、諜報員の者から一報が届きました! 内容は王国の者が勇者なるものを召喚した、というものです!!」
その者は右膝をついて早口で報告した。
「……来たか。あの方の言う通りだったな。」
意味深長にゆっくりとそう言うとクラブヘアーは何もない所から道具を取り出した。そしてその道具に向かって大声をあげた。
「全戦闘員に告ぐ! 今すぐに準備をし、配列に着け! これより、この場所から北に位置するツイシン王国を攻める!!」
そう言った後、彼はその道具をまた何もない所にしまった。すると、それまで眼を飛ばし合っていた二人が喧嘩をやめた。かと思ったら今度は笑顔を張り付けながらクラブヘアーを褒めちぎり始めた。
「相変わらず張りのあるいい声だったよ、あんた」
「ほんとほんと。あははははは」
「ありがとう。さあ、お前達も準備に取りかかれ!!」
褒められた? クラブヘアーは礼を言った後この部屋にいる三人に戦の準備をするように命じた。
「「「はっ!!!」」」
その命令に頭を下げて応じる三人であった。
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時は戻りツイシン王国から南に離れた所にある即席拠点の天幕の中にて
「それでは作戦に移る。お前達三人は当然覚えているよな?」
クラブヘアーは三人が計画を覚えているかどうかを確認した。
「「「勿論! 正面突破でしょ?」」」
その質問に三人は一斉に元気よく誤答をした。その答えにクラブヘアーは呆れてしまい、思わず両手で目の前にあった机を叩いてしまった。
「違ーう!! 全然覚えてないじゃないか! はぁ……仕方ない、おさらいするぞ。
まず、部下達を使って相手の出方を探る。ある程度探った後、今度は相手の強さを測る。測った後は順当に攻める。王国が見えてきたら俺達の出番だ。一気に畳み掛ける。それまで俺達は待機、いいな?」
覚えていなかった三人のためにクラブヘアーは計画を丁寧に説明し直した。
「「「わかった、おっけーい」」」
「はぁ……心配だ。とりあえず兵のところへ行こう。気合いを入れに。」
そうして返ってきた三人の返答にクラブヘアーは不安を抱いてしまった。彼はそのまま戦場に行っては体が鈍ると思ったので、自分と兵士を鼓舞しに向かうために天幕を出た。空を見上げると太陽がさんさんと降り注いでいた。
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五万体の魔物達が整列をして、朝礼台の上で演説するクラブヘアーの話を聞いていた。
「皆のもの! この戦いは魔王直々の命令、つまり勅命である! だから全力で任を全うするように! この戦いで戦果を収めたものには報奨を用意することを誓おう!!」
その演説に兵士達は士気をあげた。
「ま、まじか……」
「ここで頑張れば俺の今後の人生に武勇伝が増える……やるぞぉ!」
「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」
兵士達の士気と興奮が最高潮に達したとき、彼は大声で兵士達へ号令をかけた。
「それでは総員、かかれぇ!!!」
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
勇ましく答えた兵士達はツイシン王国へと向かうべく軍を進め始めた。
そう、勇者達の心にも身体にも記憶にも王国の歴史にも残る戦へと……
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豚形の魔物二人組は、まだ話をしていた。
「まあでも。リトルベアー様達って、ああ見えてすごく頼りになるんだよなぁ~」
「確かになぁ~。おっと。敵さんのお出ましだよ」
「だな。」
二人が話をしていると、前方のものたちが王国軍を見つけた。そして、雄叫びをあげながら突っ込んでいった。
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