第四話 王国防衛戦 一日目(迎撃側)
俺達がこの世界に召喚されて三週間が経った。時間の流れというものは速いものだ。
あの後俺達はただひたすらに強くなるための特訓をした。具体的にどんなことをしているかというと以下の通りだ。
腕立て伏せや持久走、スクワットなどといった体力作り。
素振りや踏み込みなどといった剣術の練習。
瞑想や射撃力強化といった魔法関係の練習など。
「今日で三週間経つのかぁ……ここの生活には慣れてきたか? 真助。俺はだいぶ馴染んできたぜ。ここの日常生活や文化に……」
「俺もだいぶ慣れてきたよ、カズ。少なくとも俺だけではなく皆もそうだと思うぞ?」
「だよなぁー。ふーん。」
俺とカズは訓練中に雑談をしていた。本当は駄目だから隅っこで隠れて話をしている。
気ままに話していると訓練場の前方から突然ラバイズさんが大声を出した。俺達は、怒られるのかと思ったので肝を冷やした。
「皆ーー!! そろそろ朝の訓練を終わるぞーー!」
その言葉を聞いた俺達は安心し、安堵の溜め息をついた。
(ラバイズさんが俺達に向かって痛い視線を何回か向けながら言ったのは内緒)。
しかし、それは刹那の安心だった。
「「「はーい!!」」」
そうやって皆揃って大声で返事をした瞬間だった。突然、この国の南にあたる場所、南門から半鐘が鳴り響いた。
カンッ!!! カンッ!!! カンッ!!!
「半鐘……!? 見張り! 一体どうした!?」
ラバイズさんは驚きながらも状況を見張りに確認した。
「て、敵襲です!! 魔物の大群が急襲してきました!!!」
見張りはラバイズさんの質問に恐怖混じりの早口で答えた。
「なんだと!? 数はどのくらいだ!!」
声をより一層大きくしてラバイズさんは見張りに問う。
「は、はい! 私の索敵魔法で確認する限りおよそ五万です!!」
その問いに見張りは震えながら大声で答えた。
「ッ……五万か…………こちらの戦力はその半分……おいお前! 大至急、王城へこのことを伝えろ!!」
「了解しました!!!」
ラバイズさんは見張りにそう指示した。見張りのものは敬礼をした後、全力疾走で王城へと向かっていった。
その時のラバイズさんの顔は平静そのものだった。が、その目には確かな焦りが存在していた。
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王城は、外見もさることながら中も三階まであるという豪華仕様だった。
そんな王城の三階には俺達が召喚された場所である王室がある。ここは特別な時にしか使わないらしい。
その隣には執務室がある。マイ王女は普段はここで仕事をしている。
執務室というだけあって壁には本がずらっと並んでいたり、質素な机があったりしていた。
「はあ……今日も今日とで仕事が沢山。嫌になっちゃう。」
と、マイ王女は山積みとなって壁のようになっている書類の山を見て愚痴を溢した。
すると微かに半鐘の音が窓の方から聞こえてきた。
数分後、廊下の方からどたばたと大きな音が聞こえてきた。その音がだんだんと近づいてきたかと思ったら、ヌエタイが転がるように部屋へと入ってきた。
「失礼します! マイ王女、緊急事態です!!」
息を切らしながらヌエタイは叫んだ。
「何ですって!? 詳しく教えて!!」
マイ王女は瞬時に筆を止め、椅子から立ち上がって聞いた。
「南の方角から、魔物の大群が急襲してきました!!」
その報告を聞いたマイ王女は右手に持っていたペンを落とした。
「!! とうとう来てしまいましたか……数は?」
マイ王女は冷静に問うた。
「は、はい。見張りらの索敵魔法によりますと、その数およそ五万体だそうです」
ヌエタイは切れた息を整えながら答えた。
「そうですか……こちらの戦力は二万五千。厳しいですね……。ですが、こちらもただのんびりとしていた訳ではありません。いつかくるこの日のために食糧や戦力を蓄えてきたのです。勇者も召喚しました……」
マイ王女は確かに驚愕した。その状態で彼女は冷静に自軍の兵力などを瞬時に整理した。
「その通りで御座います。」
その行動の速さに感動したヌエタイは、切れた息を整えるのを忘れていた。そして感動で声を震わせながら発言した。
「……迎え撃ちます。ヌエタイ、拡声器を持ってきてちょうだい」
マイ王女のその発言には力が籠っており、眼には覚悟が溢れていた。その雄姿を見たヌエタイはまたしても感動し、声を、体を、心を震わせて言った。
「は!!」
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見張りの言葉を聞いた俺達の間で動揺が走った。
「魔物の大群だと!?」
「ついに来たよ、来ちゃったよぉ」
「大丈夫なのか? ここ!」
その慌てようを見たラバイズさんは皆を落ち着かせるべく、言葉をかける。
「皆落ち着いてくれ! 急襲といってもここに着くまでに多少なりとも時間がかかる。その間に迎撃体制に移るんだ!」
ラバイズさんが皆を必死に落ち着かせているときだった。突然、石柱の上にある拡声器みたいな道具から仄かな緑色の光が光だした。
するとマイ王女の声が聞こえてきた。
「ツイシン王国民よ。私はツイシン王国王女のマイ・キョクドウです。どうか落ち着いて聞いてもらいたい。
今、見張りの者から火急の知らせが届きました。内容は魔物の大群が我が国を襲撃しに来たというものです。その数およそ五万!
一方でこちらの戦力はその半分の二万五千。端からみれば圧倒的不利な状況です。
しかし、こちらもただ何もせずにいつか来るとわかっていたこの日を迎えた訳ではありません!! 食糧や武器、防具、戦闘員など様々な備えをしてきました!! それに……勇者達も……召喚しました。
何も案ずることはありません!! 勝利を信じて、避難所で待機しておいてください!!」
演説が終わると緑色の光は消えていき、マイ王女の声も消えていった。
かとおもったら今度は赤色に光だし、マイ王女の声が再び聞こえてきた。
「ツイシン団の皆さん。この声はあなた達にしか聞こえていません。ですので今から魔物の大群を迎撃するための指示を出します。一度しか言わないのでよく聞いてください。
まず、十弾の人達は半分ほど戦場へ向かってください。もう半分ほどは東門、西門、北門、南門、そして王城入口にそれぞれ一人づつ陣取ってください!」
「「「はっ!!」」」
ラバイズさんは勢いよく応答した。
「次に後方支援職の方々は南門前の出張治癒所で怪我人を治癒したり薬を作ったりしてください!」
「「「はい!!!」」」
遠くの方から伸びのある声が聞こえた。
「そして残ってツイシン団団員はは総員で十弾の五人と共に敵を迎え撃ってください!」
「「「はっ!!!!!」」」
俺のいるところからでも騎士の人達が腕を高々くあげているのがわかる。その彼らの熱気が俺達二人の頬を熱くする。
「それでは。総員! 行動開始!!!」
マイ王女は勇ましい号令をかけた。それを受けた俺達勇者含めたツイシン団全員は、自分の持ち場へと散らばっていった。
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ツイシン王国は人口百万人の大国だ。人口が多いと自然に街は発展していくもの。
この城下町は世界有数の活気ある街として栄えていた。
今日も今日とて街は普段通りに活気づいている。
店員が自分の店の商品を宣伝する声。ほしいほしいと親におねだりする少年少女の声。大通りを歩く人々の話し声と足音。その音に負けまいと必死に鳴く犬や猫といった動物達。そんな光景を静かに見守る晴れ渡る青空。
そういった何気ない活気ある雰囲気が街を包んでいた時だった。
突如として石柱の上にある拡声器みたいな道具からマイ王女の声が聞こえてきた。
「(略)…………じて避難所で待機しておいてください!!」
人々の間でどよめきが発生した。そのどよめきはじわじわと大きくなっていき、いつしか騒音となっていた。
「う、嘘だろ……」
「魔物の大群って……じゃあここはどうなるの?」
「に、逃げないと……逃げないと!!」
「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」
「「「きゃゃゃゃゃ!!!」」」
王女はその人格から国民に大変信頼されていた。それが故に国民は王女の言葉を鵜呑みにし、大混乱を招いてしまった。
そんな人々が逃げ惑い、大通りが人で隙間なくぎちぎちに埋まっている時だった。
通りの横にある路地裏で、不適に笑いながら誰かと話しているものがいた。
「フフフッ。さあてこれからどうなるのでしょう。あなたもそう思うでしょ? …………」
その後の会話は、逃げ惑う人々の足跡によってかき消されていった。
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