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第一話 皆の決意

 転移した直後は王女への不満が爆発し文句が絶えなかった。しかし、皆は段々と落ち着きを取り戻していった。


 生徒の声が大分収まってきた辺りで、王女は息を一つ吐いた後話し始めた。


「改めて、私の名前はマイ・キョクドウ。ウォチバー大陸の北部に位置するツイシン王国の王女です。貴殿達を召喚したのは他でもない、近い将来必ず訪れる厄災に、抗ってもらうためです。」


 この発言を聞いたクラスメイトは二度目のどよめきを発生させた。それに伴って収まりかけていた負の雰囲気が再びゆらゆらと燃える炎となってマイ王女を襲った。


「王女様! それはいくらなんでも身勝手過ぎではありませんか? なあ剛」


「寛大の言う通りだ。ここに無理やり召喚された挙げ句戦え? 身勝手にも程があるぞ!」


 今王女に進言したのがボクシング部の兼元寛大(かねもとかんた)。通称筋肉達磨一号。

 寛大の意見に賛同し、同じく王女に進言したのが、野球部の黒壁剛城(こくへきごうき)。通称筋肉達磨二号。この二人は、チーム運動系のリーダーである。


 この二人に続いて、他のメンバー達も王女に文句を言い始めた。


「皆様が言っていることはごもっともです。私達もあなた達を召喚するかどうかの議論をギリギリまで致しました。ですがこの国の未来を天秤にかけて考えてしまってら、こうする以外に方法がなかったのです……」


 王女は彼らの言葉に、まるで太陽が雲で隠れたような顔でかすれそうな声で返答した。


「だからって……」


 その反応を見た彼らは流石に言い過ぎたかという顔をしていた。が、それでも鬱憤を晴らすが如く口を止めることはなかった。


 俺はそのやり取りの間に辺りを見回した。黙っているだけで恐らく他の人も同じ気持ちなのだろう、と皆の殺伐とした雰囲気を感じとりながら思った。


 チーム運動系が王女を責めていた時だった。突然微かに変な匂いが俺達二十六名を包んだ。が、次の瞬間にはその匂いは消えていた。これは一体……


 俺は辺りを見回すのをやめ、王女の方向を向いた。そこで俺は驚愕した。なんとリーダー達を宥めようと試みていたものがいたのだ。


「まあまあ。確かに王女に文句を言いたいのはわかるけど……もう戻れないんでしょ? だったらもうこの世界で頑張って生きていくしかないの! いくら王女に文句を言ったって仕方ないじゃない!!」


 宥めようと試みていたものの正体は桃神だったのだ。


「桃神……確かにそうだが……あーもう仕方ない! もう戻れないんだ! こうなったらとことんまでやってやる!! そうだろ皆?」


 寛大は皆に向かって獣が吠えたときのような大声を出した。


「そうだな、桃神と寛大のいう通りだ。付き合ってやろうじゃないか、この不条理に!」


 寛大のその問いかけにチーム運動系は勿論のこと、他の人達も応じる。彼の言葉には気迫が込められていた。


「皆様、ありがとうございます。本当に……」


 彼らの返答に涙ぐんだ顔で、声を震わせてマイ王女は感謝の意を述べた。


 そうして皆の気持ちが纏まり空気が柔んだ頃、王女は大きく深呼吸をし、隣にいた執事っぽい人に水晶玉を持ってくるように命令した。


 暫くしてその人が水晶玉を赤い包みに入れて戻ってきた。取りに行ったときよりもゆったりとした足取りで持ってきたので、大丈夫かな? と思った。


 執事っぽい人が台座に水晶玉をそろりそろりと置いた。それを見た王女は、先ほどよりも少し速い速度で話し始めた。


「今から貴殿達の職業を判別・決定します。皆様方、水晶玉の前にお並び下さい。」


 そうして俺達は水晶玉の前にぞろぞろと一列に並び、職業を判別・決定する作業へと入っていった。この水晶玉は、触れると光が出てその色によって職業が決まっていくというシステムらしい。


 選別の速度は順調そのものだった。そして寛大の番辺りからだんだんとやかましくなっていった。






「こ、これは……凄い! 怪拳闘士だ!」


 判別人が突然声を大きくした。


「なんだその職業は?」


 寛太はその突然の大声に驚きつつもどんな職業なのかを聞いた。


「これは怪拳闘士と言って、拳闘士の上位職なんだ」


 と、判別人は興奮気味に言った。


「へぇ、悪くねえな」


 判別人の発言に寛太は満更でもない顔をした後、鼻を擦りながら反応した。その後寛太は剛の元へと駆け寄り、質問した。


「で、剛。お前はどうよ、職業」


「ん? 俺か? 俺は重戦士。なんでも戦士の上位職で攻めと守り、どちらもバランスよくできるらしい」


 剛は頭をかきながら高めの声で答えた。


「おぉ、なかなかいいじゃねぇないか。桃神はどうだった?」


 寛太はすぐ近くにいた桃神にも質問をした。


「私は聖職者だった。光魔法が得意な職業なんだって」


 桃神は九割笑顔一割真顔で答えた。


「聖職者か……お前らしいや」


 寛太のその言葉は本心からなるものだった。


「あ、ありがとう。」


 桃神はその言葉に十割笑顔で答えた。


 彼らがそんな会話をしていると突然発狂に近い声が聞こえた。


「王女様ー!! ゆ、勇者を職にするものが現れました!!」


「何ですって!? その勇者の名は?」


 マイ王女は玉座から立ち上がりながら判別人を問うた。すると判別人が答える前に当人が答えた。


「は、はい。わ、私です……神道茜音です。」


 そう言ってゆっくりと手を上げ、小さな声で答えたのが神道茜音(しんどうあかね)。頼れるホームルーム委員長だ。


 茜音は、王女の前だからぎちぎちに固くなっている。そんな彼女に、一メートル程離れたところにいた佳純が話しかけてきた。


「よかったじゃん茜音。勇者って凄いよ?」


「いやいや、そういう貴方こそ。賢者っていう凄い職業じゃない」


「ま、まあ? そんなこともあるし~?」


 と、茜音の言葉にちょっと自慢気に答えたのが、蝉唄佳純(せみうたかすみ)。秀逸な頭を持った、ホームルーム副委員長である。


「どっちも凄いよ~。私は魔弓使いなのに……」


 佳純の隣で、少々猫背気味で言った彼女の名前は空川真弓(そらかわまゆみ)。弓道部所属の絶世の美女だ。


 そんな彼女は佳純の言葉に対して、若干弱々しく言った。


「「いやいや、上位職を持ってる時点で凄いよ!!」」


 二人はその彼女の言葉を全力で、息ぴったりに否定する。


「そ、そうなの?」


 と、二人の気迫に彼女はウサギのように跳び跳ねそうになった。


 チーム高音が騒いでいる頃、俺達はというと




「皆凄いな~。カズ、お前はどうだった?」


 俺は壁に寄りかかり、遠くから彼女らを見ていた。そして隣にいたかずに斜め下を向きながら少し暗い声で聞いた。


「俺は魔剣士だったよ。剣に魔法を宿して攻撃するんだって。真助こそどうだったの?」


「ん~? 俺か~? 俺は剣士だったよ。ただの剣士。鑑定士の人に、は? って顔をされながら言われたよ……」


 そう言って俺は溜め息を吐きながら答えた。俺のその行動に気をつかわせてしまったようだ。かずは慌てて俺を肯定する発言を繰り出す。


「そ、そうか。まあそんなに落ち込むことはない。努力をすれば、どんな職業だって強くなるはずだ!」


 カズは、拳を握りながら言う。


「……それもそうだな。前向きになろ」


 俺は、自分のそんな行動が情けないと思ったから、素直に前を向くことにした。


「それでこそ真助だ。んで、桜遊凛と串川はどうだった?」


 カズは近くにいた二人に質問した。


「私は治癒士だったよ。皆を綺麗に治してあげる。」


 と、桜遊凛は満面の笑みでそう答えた。……天使だぁ。


「ぼ、僕は大盗賊だったよ。なんでも素早さがかなり高いらしい」


 串川は震えながらもそう答えてくれた。


 二人の答えを聞いた後、かずは少し大きい声を出した。


「皆なかなかいい職業じゃないか。……これから頑張っていこう!」


「「「うん!!」」」


 俺達は円陣を組み、互いを鼓舞し合いながら"うん"と叫んだ。






 皆の顔が決意と覚悟溢れる顔となった頃、王女がゆっくりと労うような声で話し始めた。


「皆様。会話をしている所申し訳ありません。そろそろ夜を回りますので部屋にご案内致します。」


 そう言われたので窓の方を見てみると太陽が沈みかかっていた。もうこんな時間だったのか……今日は色々なことがありすぎた。そういえばお腹も空いてきた、喉も乾いてきた。言われた通り、部屋に行こう。


 俺達は暫し待った後、王女の部下の引率で各自バラバラに部屋へと向かっていった。


 王女の部下に部屋を案内された後、俺達は荷物を手早く片付た。

 その後王女の部下の引率の下、食堂へと足を進めた。

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