第十話 四日目 大暴れ
太陽が顔を出すのと同時に、十弾の五人とマイ王女は、勢いよく相手の魔族軍めがけて飛び出していく。
「さあ行くぞ! このラバイズに続けー!!」
「りょーかい」
「仕方ねぇな」
「暴れましょうかね」
「参る」
ラバイズさんに続いて、十弾五人が一斉に最前線へ飛び出す。さらに後ろでマイ王女も続く。
不快な風が、耳が破けそうな程の叫び声と共に、後方にいる俺の体に当たる。
彼らが魔物を視界に入れた瞬間、ブライフがまず最初に動いた。
「皆、魔物が見えてきたから補助魔法かけるよ! 用意はいい?」
「「「いつでも!!」」」
彼女の言葉に、他のものが同時に答える。
「それじゃあいくよ! 攻昇! 速昇!」
そう言うと彼女は皆の方へ手を伸ばし、魔法を唱える。すると、彼らの身体に薄い朱色と浅緑色の膜が張った。
「わかってると思うけど、そいつの効力は二十分だからね!」
「わかってるよ! だから急がねえとな!」
フレキシルは、右足で勢いよく跳びながら答える。
「ほんじゃあ一番手は俺が頂くぜ! 柔体風!!」
彼は高速で身体を回転させることで生まれた辻風で、相手を攻撃していく。その風に当たった魔物達は、天高く飛ばされた後、地面に叩きつけられてぐちゃぐちゃになった。
「僕も~殺ろ~っと。怒隻竜」
レプュラはゆったりとした雰囲気を纏ったまま、土を超圧縮して作った岩石を、連ねて相手を攻撃していく。その姿はまさに、怒り狂った竜そのものである。
「むぅ、行動が遅れてしまった。我もいくぞ! 滝突!!」
スタバールは、地面がひび割れる程の力で蹴ると、次の瞬間。相手目掛けて物凄い速度で突進していく。彼がいた場所には、滝のように真っ直ぐで荒々しい突進跡残されている。
「お~。凄いね~流石私の魔法。でもね……私の真骨頂は攻撃
よ! 奏吹雪!!」
ブライフの放った氷魔法は、まるで音楽を奏でるかのように躍りながら相手を凍てつかせていく。彼女が鼻歌を歌いながら攻撃している時だった。
なんと、後方にいるマイ王女が最前線に飛び出してきたのだ。
「あ、マイ王女! 後方で待機している筈では」
彼女は思わず鼻歌を辞めて、マイ王女に話しかける。
「あなた達の戦いぶりを見てたら動きたくて動きたくて……。てことで私も参加します。」
するとマイ王女は、彼女の話をろくに聞かずに攻撃をし始めた。
「この前はすぐ近くに勇者様達がいたから派手な攻撃は出来なかったけど……今回は違います。だから、全力でいきます!!」
そう言うとマイ王女は、腰を落とし、腕をぐるりと背中に回して剣を構える。構えた直後、勢いよく剣を自分を中心に一周させた。その時の速度は、昨日のそれとは段違いに速くて力強い。
「炭蛇砲!!!」
飛ぶ三百六十度の斬撃が、範囲を広げながら相手を次々と真っ二つにしていく。
「ちょっとマイ王女!! 危ないじゃないですか!!」
彼女の付近に、比較的近くにいたブライフが、マイ王女にもの申す。
「あ、ごめんごめん。でも、斬られてないでしょ?」
「そ、そうですけど……」
「ならよいではないですか。ほら、次いきますよ!」
ブライフは、何年も続くマイ王女の弁明に、飽き飽きしながら答えた。
それからというもの。十弾とマイ王女は、怒涛の勢いで魔物を蹴散らしていった。
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目の前では、十弾とマイ王女がトントン拍子で敵を倒していく。
「なあ。なんで日没後に魔物を攻撃しないのかな?」
俺は、隣にいるカズに話しかける。
「そりゃあお前。昼間の戦いの傷を癒さないといけないのに、なんで戦わないといけないんだ? それに暗いし」
カズは前を向きながら、受け流すかのように淡々と答える。
「確かに。それにしても、仕事が来ないな……」
「本当だな。あれが十弾とマイ王女の力……十弾に至ってはこんなのがあと五人も……」
淡々と答えていたカズが、ようやくまともに喋った。
「相手が溶けていくようにいなくなる……これが十弾」
皆はその戦いぶりに目を奪われていた。地上は勿論、空中の魔物も蹴散らしていくものだから、俺達に仕事がほとんど回ってこない。回ってきたとしても、それらは全て勇者らに倒されてしまう。
「……俺達……要らないんじゃないか?」
「奇遇だな真助。俺もそう思ってたところだ」
「「帰ろうか」」
俺とカズは、互いを見合って意志疎通をした後、後ろを向いた。するとそこには、こちらをジーッと見つめてくる桜遊凛が行く手を阻んだ。
「ちょっとー!! 何帰ろうとしてるのー!! って言いたいところだけど、私もそう思ってしまっちゃってるのよね~」
俺達は、自分で止めておいて何を言っているんだ? と思ったが、俺達は察しがよかった。
((とうとうこいつも、こちらの世界へ……))
「お? 桜遊凛、お前もこちら側へ来るかい?」
俺がそう言うと、桜遊凜は激しく首を振り、強い意志が感じられる言葉で反論してきた。
「それは嫌だ。私はそんなのになりたくない」
「「ほ~う」」
「なにニヤニヤしてるのよ!!」
俺達は余りの退屈さに雑談をしていた。いくら話していても、魔物が俺達の方にほとんど来ることはなく、来たとしても瀕死だ。
そうこうしていると、気付けば日も沈みかけていた。
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辺りも暗くなり、月が綺麗に見えるようになった頃。即席拠点の天幕内にて
「相手の出方も伺い、強さも測った。ここから大群で攻めていけば相手は落ちる、という予定だったが……なかなかに抵抗してくるな。主な誤算は十弾の予想以上の強さと……王女があそこまで戦える、ということだな。さて、どうしたものか……」
クラブヘアーは、平原の地図が広がった机に、組んだ両手の上に額を押しつけて考えていた。そんな彼の思考を遮るように大声を出す輩がいる。
「そんなの簡単だよクラブヘアー! 俺達も前線に出ればいいんだ! なあデスフィルム!!」
そのものの名はリトルベア。彼は短い尻尾をブンブンと振り回しながら、読書中のデスフィルムに話しかける。
「そうだなリトルベア。そうなんだが、もう少し声量を抑えてくれると助かる」
デスフィルムは、不機嫌そうな顔で答えた。
「おっとすまんすまん。ついつい大声を出しちまう」
「ほんとよ~。声量を抑えてほしいわ~」
潔く謝った彼に対して、煽り口調で女性が発言する。
「あぁ? てめえにだけは言われたくねぇよ!」
それを受けたリトルベアは、怒りを隠すことなく女性にぶつける。
「はぁ? ほ~んの少しの良心で言ってあげてるだけじゃない!」
「なに言ってんだお前は!! 少しどころか零だろ!! てかさっきの言い方は完璧に煽りだろ!! この植物女!!」
彼の一言で、喧嘩はどんどん加速していく。
「植物女ゆうなこのチビ!! 麗しき美女と呼びなさい!!」
「嫌だね!!」
リトルベアは舌をベーっと出しながら言った。
「な、なんですってぇ!!」
彼女は青筋を立て、わなわなと震えながら言った。
「まったくこの二人は……」
そんな二人をみて、クラブヘアーは大きな溜め息をつく。するとクラブヘアーは手招きで彼女を呼び出し、何か大事なことを耳元で命令した。
「明日からのことなんだが……」
「……わかったわ、暴れてくるわね」
「ああ。日が沈む前までには帰ってこいよ」
「勿論よ」
そうして命令を受けた彼女は、休養をとるために即席拠点をゆっくりと出ていった。
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