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軽い気持ちで邪神になってしまいましたが・・・

作者: 髙橋貴一

こんにちは、髙橋貴一です!


今回は自分にとっても初体験である、コメディ短編の執筆に挑戦してみました!


いろいろと至らない作品になってしまってはおりますが、空いた時間に気軽にご覧いただければ幸いです

「よせ!それを体に取り込んだら、どうなるか・・・!」

 上等な鎧を纏った若者が、一人の女性に叫びかける。しかし、赤、青、緑の三つの宝石を手にした女性は、その声を嘲笑った。

「うるさい!あたしは、この時を待ってたのよ!この宝石の力を取り込んで、あたしは神になる・・・そう!二度目の人生、やっとあたしに春が来たのよ!」

 女性は何のためらいもなく、手にした三つの宝石を胸に埋め込んだ。程なくその胸から三色の光が立ち上り、周囲を美しく照らし出す。

「ユリア・・・・・・な、何ということを・・・!」

「ふ、ふふ・・・あはは・・・あーっはっはっはっは!!」




 その時、女性はかねてからの願望を成就させた。魔法に満ちた宝石の力で、彼女は神となり、かつての仲間たちだった勇者の一行を跡形もなく消し飛ばし、やがて世界の征服者となった。

 そして、世界に暗黒の時代が訪れた。邪神となった彼女の眷属たちが、世界中の空を飛び回り、人々に圧制を敷き始めた。



 こうして、新たな邪神が誕生した。そして、それから半年ほどが経ったある日のこと――


「デスレディ様・・・邪神デスレディ様、起きてください、朝ですよ」

 耳障りな甲高い声が、かつてユリアという女性だった邪神の耳に突き刺さった。ベッドの上で安眠を貪っていた彼女は、顔をしかめて毛布を頭からかぶる。

「るさい・・・・・・もう1時間くらい寝かせて・・・」

「駄目です。デスレディ様には、やらなきゃいけないことがたーくさんあるんですから!」

 黒い翼を生やした若い女性のような姿の悪魔が、邪神がかぶる毛布を引っぺがした。赤、青、緑の宝石を胸元に埋め込み、紫の肌に頭から角を生やした邪神が、怒りに満ちた目で布団をはがした悪魔を睨みつける。

「あー、もうやだ!なんで毎日毎日あんたに叩き起こされなきゃいけないわけ!?」

「それが執事である私の務めです。そのために私を生み出してくださったんでしょ?」

「いやいや、こんなことのためにあんたを作ったわけじゃないから!身の回りの世話してくれて、たまーに話し相手になってくれる奴が一人くらいほしくて、それであんたを作ったのに!」

「はいはい、そのお言葉はもう聞き飽きました。さ、急いで朝食をお召し上がりください。それが済みましたら、地方行政担当の悪魔たちとの定期会議、異世界の邪神の皆様との交流会、それから人間の数が減少している問題に関する勉強会が・・・」

「待って、待って、待って!前から思ってたんだけど、なんで神様の仕事ってそんなに会議とか交流会が多いの?これじゃ人間と変わんないじゃん!」

「それが神様のお仕事なのですから、いい加減諦めてくださいませ。さ、朝食をどうぞ」

 半ば引きずられるように足を運んだ食卓には、山海の珍味や高価な食材を使った料理が並べられて・・・・・・いなかった。彼女に差し出されたのは、緑色の液体が詰まった瓶一本だけだった。

「・・・ねえ、マジョル・・・これって、もしかして・・・」

「はい!デスレディ様が人間だった頃、大好物だった回復ドリンクです。さあ、それで気力と体力を回復して、今日も元気にお仕事を頑張って・・・」

「頑張れるか、ちくしょおおおおおおおおおっ!!」

 デスレディは瓶を投げ捨てると、その場に突っ伏して大声で泣き始めた。そんな主の様子を、マジョルと呼ばれた執事悪魔が冷ややかな目で見つめている。

「もう・・・もう嫌なんだけど。なんでこんなに毎日毎日、不自由な暮らし送らなきゃいけないわけ?」

「それが神様というものなんです。・・・まさか、神様になれば好き放題やっていけるなんて、そんな風にお考えになっていたわけではないですよね?」

 マジョルの言葉に、デスレディはギクッとなって泣くのをやめた。それを見たマジョルが、覗き込むように主の顔を見つめる。

「まさか・・・・・・図星でした?」

「う・・・うるさい!うるさい!悪かったわね、神様になれば楽できるって思い込んでて!」

 デスレディは顔を上げると、拗ねた子供のような声を上げた。

「だってさ、普通そう考えるじゃん!アニメとか漫画で神様になった奴って、大体好き放題やってんじゃん!だから悪役がみんなそれを目指すわけでしょ!?世界征服したいとか、全能の力を手にしたいとか、すっごいテンプレな理由で!」

「アニメ・・・?漫画・・・?デスレディ様、何を仰ってるんです?」

「あ、そっか、この世界にはないんだった・・・・・・ってそんなことより、なんであたしそんなダッサい名前なの!?何デスレディって?センスのかけらもない!」

「そう言われましても・・・・・・最初にそう名乗ったのは、あなた様ですし・・・」

「え?・・・あっ、そうだったっけ・・・」

 その時のことを、彼女は今になって思い出した。邪神として新たな名前を持たなければと思い、三日三晩一睡もせず考えた名前。だが今となっては、単純に徹夜続きで思考が麻痺していたとしか思えない名前だった。

「ともかく!あたしこんなに忙しい毎日送るために、邪神になったわけじゃないっつうの!」

「では、なぜデスレディ・・・ふふっ」

「あ!あんた今あたしの名前笑ったでしょ!?」

「いいえ、全然!全っ然、笑ってませんから!・・・・・・くっ」

「ほら、また笑った!悪かったわね、クソダッサいネーミングセンスで!言わせてもらうけどあんたの名前だってね、執事って意味のフランス語を、最後の二文字端折っただけだから!」

「ええっ!?私の名前、端折られたものなんですか!?」

「そうよ!だってめんどくさかったんだもん、一々名前考えるの!」

「ひどいです・・・・・・私、私・・・!」

 今度はマジョルが、その場に座り込んで泣き始めてしまった。さすがに言い過ぎたと反省すると、デスレディは彼女の肩にポンと手を置き、その隣に腰を下ろした。

「ご、ごめん・・・・・・もっと、真剣に名前考えりゃよかった。あんたも・・・・・・あたしも」

「いえ・・・・・・この名前、割と気に入っておりましたので。まさか、そんな理由でつけられた名前だったとは・・・」

「うん・・・ちょっと、反省。・・・あ、さっきあんた、あたしに何か訊こうとしてたでしょ?」

「いえ・・・もう、結構です。申し訳ございません、取り乱してしまって・・・」

「いや、それだとあたしがもやもやするからさ。教えて。何を訊こうとしてたの?」

 デスレディが問いかけると、マジョルは目元の涙を手の甲で拭い、意を決したように主に尋ねた。

「では・・・・・・デスレディ様は、なぜ神様になろうと思われたのですか?」

 その質問に、デスレディは遠くを見るような表情で答えた。

「あたしさ・・・・・・いわゆる、転生しちゃった人間、だったんだよね。元の世界じゃ、あたしは何の取り柄もない、しがないオタク女に過ぎなかった。就職活動で59連敗して、やっと内定もらえた企業が、漫画に出てくるようなブラック企業でさ。そこで文字通り朝から晩まで働いて、ふらふらになって家に帰ろうと思ったら、いきなり飛び出してきた車にドカン・・・・・・ああ、もしかしたら飛び出したのあたしだったかもしれないけど。まあどっちにしろ、それがきっかけであたしはこの世界に飛ばされてきた。二度目の人生、今度はしくじるまいと思ってたけど、転生先の職業はまさかの奴隷。もういい加減うんざりしちゃってさ、誰かにこき使われることに」

 そこで一旦言葉を切ると、デスレディはどこか懐かしい表情になって口を開いた。

「そんなある日、あたしはあいつらに救われた。そう・・・ユーリたち。今じゃ人間たちの間で最後の勇者たちと呼ばれてるあいつらも、あの時はまだ駆け出しだった。あいつら、かつてこの世界を支配しようとした魔王が封印されている宝石を探して、旅をしてたんだ。それでたまたま、あたしが奴隷として働かされてた町にやってきて、成り行きであたしらを助けてくれた」

「もしかして、その宝石って・・・」

「ああ。この三つの石のことさ」

 胸に埋め込まれた三色の宝石を指で示しながら、デスレディは言葉を続けた。

「あいつらは石を全部見つけて、永遠に封印しようとしていた。もし石が、邪心に満ちた人間の手に渡ったら、取り返しのつかないことになるって。・・・だけど、あたしはチャンスだと思った。その石の力を使えば、あたしは全知全能の存在になれる。今度こそ、誰からもこき使われることのない・・・いやむしろ、こっちがこき使う立場になれるんだって、そう思った。今まで散々こき使われた分、今度はこっちがこき使ってやる、ってね。・・・まあそれが、あたしが神を目指した理由、だよ」

 デスレディの話を、マジョルはじっと聞いていた。やがて、彼女は得心したように声を上げる。

「なるほど!要するに、人をこき使って楽したいから、神を目指したということですね!なんてテンプレな理由!」

「あんたぶっ殺されたい!?」

「ひえー、なんで怒るんですか!?」

 突然怒鳴り声を上げたデスレディに、マジョルが怯えたように声を上げた。

「はぁ・・・・・・しっかし、どうして神様ってこんな忙しいわけ?」

「そりゃあ、神というのは全知全能の存在。世界を己の意のままに創造し、それを維持するということは、とても大変なことなのですよ」

「まあ確かに、人間や他の生き物の力じゃ、どうにもならないことは多いけどさ。そこんとこ全部を引き受けることになるなんて、思いもしなかったよ」

 そうため息混じりに口にした時、デスレディはまたもイラつくことを思い出した。

「それにさ、邪神一日目に変な奴からもらった、あの『神様のルールブック』って何!?あれめちゃくちゃ分厚いんだよ、最初六法全書かと思ったわ!」

「各世界に存在する神、邪神が共通して守らなければならない事柄が明記されてる、あの本ですね?ちなみにページ数は1万8千427、しかも1ページにつき6万文字記されてますからね、読むのも一苦労だと思います」

「でしょ!?しかもどっかの神が不祥事やらかすたびに、改訂版とかいって2、30ページ追加されたものが届くんだよ?あんなの読めるかっつの!」

「けど、大抵の神様は寿命がありませんから、数万年かかれば読破は可能と思われますが・・・」

「それでも数万年かかるわけ!?いやいやいやいや、絶対お断り!」

「はあ・・・ちなみにデス・・・くすっ」

「また笑った!もういい!あんたとのおしゃべり、これでおしまい!」

「ああっ、お待ちください!最後に、これだけ訊かせてください!」

 必死に哀願するマジョルに、デスレディはその質問だけは許すことにした。

「はあ・・・何?さっさと訊いて」

「あ、はい・・・・・・その、デスレディ様は、今何ページまで読まれたのですか?そのルールブックを」

「・・・・・・」

 重い沈黙が、二人の間にしばらく流れた。マジョルが答えを諦めたその時、デスレディがボソッと呟くように言った。

「・・・4ページ」

「え?た・・・たった4ページ!?ぷ、ぷふっ・・・!」

「悪かったわね!本を読むのが嫌いで、その上根気もなくて!」

 顔を真っ赤にしながら叫ぶと、デスレディは腰かけていた床から立ち上がった。

「あーあ、もうやだ、邪神なんて。こんなに辛い目に遭うんだったら、ユーリたちの仲間として一緒に宝石を封印してた方が、よっぽどいい暮らし送れてたよ・・・」

「そんな・・・そんなこと仰らないでください。ほら、あれをご覧ください」

 マジョルが部屋の窓に手をかざし、ある光景をデスレディに見せた。そこでは、とある農村に建立されたデスレディの彫像を、農民たちが恭しく拝んでいる。

「この世界の民は皆、デスレディ様を心の底から恐れ、そして敬っています。これこそ、邪神になった甲斐があるというものでしょう?」

「恐れ・・・敬う・・・?」

 デスレディはその言葉に惹かれ、マジョルが見せる光景に目を向けた。すると像を拝み終えた二人組の農民が、像を見ながら何か会話をしていることが分かった。

「ねえ、ちょっと現場の音声聞かせてよ。あいつらが何話してるか知りたいんだけど」

「え?・・・そ、それはおやめになった方が・・・」

「いいから!・・・知りたいの。この世界の人たちに、あたしがどう思われてるか」

 気乗りしない様子のマジョルだったが、やがて観念したように現場の音声が聞こえるようにした。

「あーあ・・・こいつのせいで、俺たちゃ毎日毎日働きづめだ」

「ほんとによお。なーんでこんな奴のために働かんきゃいけねえんだろうな、俺達。・・・ぺっ」

 二人組の一人が、像に唾を吐きかけて足早にその場を去っていった。もう一人の農民もそれに続いたところで、映像は打ち切られた。

「こ・・・これでこそ、邪神になった甲斐というものが・・・」

「あるわけないでしょ!?馬鹿じゃないの、あんた!?」

 ああ、と大声を上げると、デスレディは再び床に座り込んだ。

「今の・・・割とマジでショックだったんだけど。もうやだ・・・あたし、邪神辞めたい・・・・・・」

 両眼から涙を流しながら、デスレディは声を震わせて言った。そんな彼女の姿にため息をつくと、今度はマジョルがその隣に腰を下ろした。

「お気持ち、お察しいたします。・・・けど、これこそ邪神の、あるべき姿だとは思われませんか?」

「邪神の・・・あるべき姿・・・?」

 マジョルの言葉に、デスレディは涙に濡れた目を上げた。

「ええ。そもそも邪神は、人々に嫌われてなんぼの存在です。ただ恐れ敬われるだけなら、普通の神様と何も変わりません。神は神でも、邪な・・・悪魔の如き異端な神。それこそが、邪神の本望ではありませんか?」

「邪な・・・悪魔の如き、異端な神・・・」

「そうです。大体、デスレディ様が神を目指したのも、人をこき使って楽したいという、そんな理由からだったではありませんか。もうその時点で、真っ当な神になんてなれません。だったら・・・・・・ここは一つ腹を決めて、邪神としてどっしりと構えた方が、ずっと良いのではないですか?」

「邪神として、どっしりと構える・・・?」

「そうです。その結果として民たちから嫌われることになっても、それはそれでよいではありませんか。だって、デスレディ様は邪神。人々から恐れられ、嫌悪されてこそ、邪神の本望ではありませんか?」

 マジョルの言葉に、デスレディはわずかだが勇気づけられた気がした。確かに、自分が神の座を求めた理由は、他人をこき使って楽に暮らしたいという、実に邪念にまみれたものであった。しかしそれでこそ、邪神として相応しいと言えるのかもしれない。悪意、煩悩、邪念に満ちた心では、真っ当な神になどなれるはずもない。ならばいっそのこと開き直って、民から恐れられ、嫌われる、そんな悪役を演じてみるのもよいのではないか。

「・・・ありがと、マジョル。あたし、決めたよ」

 右手の拳を握り締めると、デスレディは決意に満ちた表情で立ち上がった。

「あたし、邪神がんばってみる。とことんこの世界の人たちに嫌われて、いつか『デスレディなんて倒してやる!』って立ち上がる人が出てくるような、そんな邪神になってみせるよ!」

「それでこそ、デスレディ様でございます!さあさあ、それでは早速朝食を。はい、人間時代好物だった回復ドリンク!」

「ごくっ、ごくっ、ごくっ・・・ぷはーっ!やっぱこの味、たまんないね!」

 マジョルから受け取った瓶の中身を、デスレディは一気に喉に流し込んだ。彼女は空の瓶を投げ捨てると、活力に満ちた顔でマジョルに問いかける。

「さあ、今日も元気に仕事をしようか!マジョル、何からすればいい?」

「そうですね・・・・・・あ、来客です。少々お待ちを・・・」

 来客の存在を感じ取り、マジョルがデスレディのもとを離れた。程なく戻ってきたマジョルの手には、一冊の分厚い本が握られていた。

「『神様のルールブック 改訂版』が届きました!なんと45ページ追加されたそうです!」

「やっぱり邪神やだー!辞めたい―!!」


いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです

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