第08話:祓い屋と女子校生、ボビーの仮説に驚愕する
「阿倍野よ。もしやあの幽霊……異星人の幽霊、という事はないか?」
「さすがに、それは突飛すぎる考えですよ、タイラーさん」
倭禍山県に着いて、三日目の朝。
朝食の席で、まさかボビーがそんなおかしな事を真面目な顔で言うとは思わず、清は目を丸くした。
いや、気持ちは分からないでもない。
なにせ昨夜、幽霊が自分達に向けて発した言葉が、地球上に存在するどの言語にも、当て嵌まらなかったのだから。携帯電話の、最新の自動翻訳アプリに聞かせてみたのだから間違いはない。
そして幽霊とコミュニケーションを取ろうにも、話している言葉の意味が分からなければどうしようもないため、清達はあの後、とりあえず幽霊が繰り返し喋る言葉を録音し、幽霊に「また来る」と言ってから游外島を後にした。
ちなみにその言葉を録音したボイスレコーダーは、ボビーのツテで見つけた言語学者へと、手紙付きで今朝がた送りつけた。あとは結果待ちである。
「まぁ火星に人が住む時代ですから、異星人がいないってワケじゃあないですけど……それに別の星に、もしも我々と同じような人類がいれば、ありえなくはない、かもですけど……そもそもあの幽霊、我々も知る服装だったじゃないですか」
「そう言われると、反論はできんな」
ボビーは苦笑しつつ、骨を綺麗に取った焼き魚を口に運んだ。
確かに清の言う通り……昨夜彼らの前に現れた幽霊は、地球には普通に存在するタイプのドレスを着ていた。もしあれが異星製の物であるならば、果たしてそれはどれくらいの確率の下に起こる偶然であろうか。
「では阿倍野さんは、あの幽霊をどんな存在だと思っていらっしゃるんですか?」
漬け物を箸で摘まみながら、静は訊いた。
そして訊くや否や、彼女はそれを口の中に運びポリポリ音を立てて食べた。
「地縛霊が、妖怪化した存在。俺はそう考えます」
なかなか焼き魚の子骨が取れず、イライラして眉間に皺を寄せながら清は意見を出した。この魚、骨が多い。
「大昔に、なんらかの病気になって、顔があんな感じになったまま……あの游外島で死亡した存在が妖怪化した、というセンが濃厚、ではないかと」
ようやく小骨を全て抜き、清は焼き魚を口に運んだ。
「でも先生、元地縛霊な妖怪にしては……意思疎通が可能っぽかったですよね」
ご飯を味付け海苔で包みながら、葉子が意見を述べた。
「今まで、私達は共同作業で、ゲチョグロなヤツとかヒキニートとか老害だとか、いろんな悪霊を退治しましたけど……何を言っているのか分からない事を除けば、マトモな印象を受けましたよあの幽霊。今までのヤツよりは」
共同作業、のところを強調しながら、葉子は話を続けた。
基本的に清を見つつも、時折、目の前の〝乳お化け〟へと視線を向けながら。
葉子の一方的な、女の戦いだった。
対する静は……箸を止めて苦笑するしかなかった。
「それな」
清はそう言うとみそ汁を少しだけ啜った。
啜り終わると、ほぅ、と安堵の息に似た息をつき……彼は言った。
「そこが謎なんだよな。ところでタイラーさん、ドアの中のゴミ回収の進捗はどうなってますか? あの幽霊の正体に繋がる手がかりとかは、見つかってないですかね?」
「ゴミ回収の方は、七割は進んだ」
ボビーは漬け物を飲み込んでから答えた。
「ようやく終わりが見えてきたが……幽霊の正体に繋がる手がかりになる何かは、まだ見つかっていない」
「そうですか」
清はガックリと肩を落とした。
こうなったら、弾かれる可能性はあるものの、いつも通りに〝ストロボ戦法〟で除霊してみるか……? なんて考えながら。
「だが、関係あるかどうかは分からんが……あの島や、本土の方の歴史を調査していて、面白い事が分かった」
「ッ!? 本当ですか?」
清の目に生気が戻った。
というかこの件が終わった後の除霊の予定を立てるためにも、そろそろあの幽霊を除霊したいと思い始めていたので、この際、情報の内容は何でもよかった。少しでもあの幽霊の正体に迫れる可能性があるのなら。
仕事を回してくれたボビーには感謝しているものの、無期限の除霊任務の続行はこれからの客商売における信用問題的にちょっと危ない。
依頼人がたった一人の専属祓い屋に転身するのであれば問題はないかもしれないが、清としては、ハードなデスクワークで有名なヘイケ・コーポレーションの一部に組み込まれるのは……現段階では考え物だった。仮に静とお近づきになれても。
「ああ。どうもあの島がガス爆発とやらに遭った時、その上空を国籍不明機が通過していたらしい。防衛省のデータベースにあった」
「…………えっ? なんで防衛省に調査に?」
国籍不明機の存在以上に、なぜボビーが、游外島でガス爆発が起きた時期の防衛省の記録にアクセスしたのか、清には謎だった。
「爆発と言っても、いろんなタイプがあるからな」
清が質問すると、ボビーは険しい顔つきで言った。
「そしてガス爆発程度で、あの島にあった宿泊施設が跡形もなく消し飛ぶなんて事があると思うか? 少なくとも私は、そうは思えない」
「まぁ、確かに」
清はそう答えると、ポリポリと漬物を咀嚼した。
ガス爆発は確かに脅威である。
だがそれでも、建物の残骸が少しはあってもいいハズだ。
仮にそれらを撤去したとしても、取り残しくらいはあってもいいのではないか。
にも拘わらず、游外島には何もない。
岩と砂以外の物は何も残されていない。
徹底的に残骸が回収された可能性もあるにはあるだろう。
だがボビーは、まったく別の、恐ろしい可能性に思い至っていた。
「それに、先日の魑魅魍魎の証言。爆発が起きて、空気が薄い……確かに大きな爆発が起きれば空気が薄くなるが、果たしてガス爆発程度で、地脈や霊脈の流れまで乱れるのだろうか」
「……何が言いたいんですか、タイラーさん?」
爆発。
国籍不明機。
さすがの清も、嫌な予感がして冷や汗が出た。
思わず箸が止まる。緊張で喉が渇く。若女将が用意してくれたお茶を飲んで喉を潤したいが……箸を止めたボビーの視線がそれを許さない。
「…………阿倍野よ。地表殲滅爆弾という兵器を知っているか?」
そして、清の予感は……見事に的中した。
「核爆弾に次ぐ凄まじい破壊力を秘めた爆弾で、半径数キロメートル圏内の建造物を徹底的に破壊できるらしい。しかも……使用すると爆発によって大量の酸素が燃焼され、周辺の空気が薄くなり……あとは分かるな?」
「…………まさか」
――本当に、そうなのか?
ボビーに言われて思いついた仮説が、清の頭の中で現実味を帯びていく。
倭禍山の魑魅魍魎の主、そして主に紹介された、海を拠点にしている魑魅魍魎の証言。そしてガス爆発があったとされる日の、倭禍山の上空を飛んでいた国籍不明機。ここまで言われては……もはや、その可能性以外思いつく事はできなかった。
「えっ? ええっ? ま、まさか……その時に、戦争起こったりしたんですか?」
すると、ボビーの話を今まで黙って聞いていた葉子が、いきなり変な事を訊いてきた。思わず清、ボビー、静が葉子に視線を向ける。すると彼女は、困惑した顔で「どこの国か分からないけど、とにかく爆弾落とされたんですよね? だったら、教科書に載るような戦争に発展しませんか、それ!?」と続けた。
誰が聞いてもごもっともな意見だった。
そして戦争に発展したかもしれない事件が過去にあったのならば、もしかするとそこから幽霊の正体に迫れるかもしれない。
※
「………………ダメだ。この言語、全然解読できないぞ?」
ボビーのツテで、幽霊の発する謎言語を解読する事になった……というかなってしまった大学教授は頭を抱えた。
彼が知りうる限りの全ての言語……もう絶滅してしまった言語を含めた言語の中に、幽霊が発するような言語が存在しなかったのだ。
「しいて言えば、古代イブライ語に似てなくもないが……文法がメチャクチャだ」
古代イブライ語とは、ミュダヤ人が過去に使っていたとされる言語である。一説によると世界の言語がまだ一つだった頃の言語に一番近い言語であるとも言われているが、果たして……?
「あれ? この言語……なんかオカケンの連中が使ってる呪文に似てねーです?」
とその時だった。
彼の同僚の生物学者である女性が、言語学者の研究室の前の廊下を通った時に、そんな事を呟いた。ボビーが送りつけたボイスレコーダーの設定を、エンドレスで幽霊の声を流すように変更してそのままだったのである。
するとその瞬間。
言語学者の教授は勢いよく立ち上がった。
そして廊下の方へと突き進むと……そこにいた生物学者の女性に、鬼気迫る顔で「その話、詳しくお聞きしても?」と訊ねた。
地表殲滅爆弾。
調べてみたらいろいろエグい兵器ですね。
これが絶○可憐チ○ドレン中学生篇の最終局面で落とされたのか(汗




