第05話:祓い屋と女子校生、絶体絶命!?
文字通りです。
ただし小水の方ではないです(ぇ
清達は夕食を食べ終えると、すぐにヘリで游外島へと向かった。
無論、ボビーが電話で言っていた通り、防護服に身を包んだ後でだ。
『こちらです、タイラーさん』
ボビーの部下であろう男性が、同じ防護服に身を包んだ状態で上司を案内する。ボビーは頷くと、共に現場へと向かった。
清達は、そんな彼の後に付いていき……顔をしかめた。
そこには、清達と同じ防護服に身を包んだゴミ処理専門の業者が、問題のドアの中にあったゴミを運ぶ異様な光景が広がっていた。防護服越しでも、ゴミの臭いをうっすらと感じる。防護服なしでこの場にはいられないほどの臭気が存在しているのかもしれない。
『ぜ、ぜんぜぇ』
防護服の片腕から手を抜いて、防護服内の自分の鼻を摘まみながら、葉子は涙目で訴えた。
『ぐざいでずぅ』
『中にはナマモノもあるかもしれないな。それが腐っているんだろう』
葉子が鼻を摘まむのを見て、真似して臭気を遮りながら清は言った。
『いったい何年分のゴミなんですかね、これ』
それを見た静も、真似しながら言った。
『下手をすると、百年前のゴミもあるかもしれないな』
ボビーも清達を見習い、鼻を摘まみながら言った。
『下に行けば行くほど、より昔の商品やら何やらが出てくるそうだ』
『とりあえず、分別しながら運んではいますが……もしよろしければ、ドアの奥の部屋に火を放って一掃しますが』
『馬鹿者。幽霊の正体に迫れる何かがあったらどうする? というかそれ以前に、ダイオキシンが発生したらどうするつもりだ?』
『すみません。言ってみただけです』
『……ふぅ。とにかく、何日かけてでも、キチンと分別して処理しろ』
『承知しました』
案内してくれた部下との会話をそこで切り上げて、ボビーは清達と向き合った。
その表情は、今までで一番険しいどころか、やつれているようにも見える。案件解決までの時間が長引き、清達に迷惑をかけるのだから当たり前か。
『阿倍野よ、すまない。正体に迫れるかどうかの結果が出るのは当分先だ』
『いえ。構いませんよ』
清は苦笑しながら答えた。
結果が結果なのだ。怒る道理はない。
それに、まだ幽霊の正体に迫る方法がなくなったワケではない。
『こうなったら、幽霊を遠くから霊視してみます。主に夜に現れるんですよね?』
清は周囲を見ながら訊ねた。
すでに太陽は地平線にほとんど隠れ、空は紫色に染まっている。
『ああ。もう、それしかないか……頼めるか、阿倍野よ?』
『お任せください。術を弾くような幽霊ですので……どこまで通用するか分かりませんが』
そして改めて、幽霊の捜索が始まった。
と言っても、島に着いた時のように見回るのではない。船を使い、海上から島を見るのだ。あらゆる除霊術を弾くほど強力な幽霊なのだから、用心するに越した事はない。清はそう考えたのである。
そしてこれこそが、清が霊能力者業界で生き残るための処世術であった。
防護服を脱いだ清達は、西の魔女の所で入手した『霊視グラス』……どことなく双眼鏡に似たアイテムで島を見渡す。船上であるため、時々は現実に戻らねばリバースをしかねん作業を延々と……幽霊発見まで続ける。
本来であれば清と葉子の役割のハズだが、幽霊の正体に未だに迫れていない後ろめたさがあるのだろうか。ボビーと静も協力してくれた。ちなみに霊視グラスは清と葉子の分しか持ってきていなかったため、ボビー達は目視で捜索だ。
しかしいくら捜しても、幽霊らしきモノは発見できない。
ゴミ回収の現場など、もう二十回以上は繰り返し見たというのに。
「せんせぇ……もう帰りませんかぁ?」
さすがの葉子も、不機嫌になり始めた。
「肌が潮気でベトベトだし、いい加減お風呂に行きたいですよぅ」
「ああ、夢中で気づかなかったけど……確かにベトベトですね」
静は今になって気づいた。
「風呂といったら温泉!! 温泉といったら露天風呂!! そして露天風呂といえばノゾキ……たとえ先生がしてくれなくとも、私の方からグヘヘヘヘッ」
「えっと、葉子さん? それはさすがに犯罪ですよ?」
見かねて静が葉子に指摘するが、すでに葉子は自分の世界にトリップしていた。もはや清によるアイアンクロー並みの衝撃を受けねば戻ってこれまい。
なので清は、遠慮なくアイアンクローを炸裂させよう……としたその時だった。
バタンッと鈍い音を立て、突然葉子が船の上で倒れた。
何の脈絡もない突然の事態に、一瞬、清達は反応ができなかった。もしかすると葉子による自作自演かもしれないが……今この瞬間にそんな自作自演をする理由が分からない。
「……おい、どうした? おい!?」
清は慎重に、葉子のそばで膝をつき……彼女に呼びかけた。
もしかすると、溺れたフリをした人間が人工呼吸をしようとした異性の唇を奪うような事態があるかもしれないからだ。
しかし葉子は何も反応しない。
いや、それどころか幸せそうな顔で、
「…………グースカピー……」
と鼻ちょうちんを作りながら寝入っていた。
これには、さすがの清とボビーも唖然とした。
なぜ、このような緊張した場で寝られるんだ。
職務怠慢に対する怒り以前にその事に対する疑問が彼らの頭の中に満ちた。
「…………た、イラー……さん……」
そう。
彼らだけだ。
唖然としたのは。
状況を理解できなかったのは。
その事実に、清とボビーはその声を聞いてようやく気づいた。静の声だ。彼女は眠ってはいないものの、眠気に必死に抗っているのか、顔を歪ませ、船の縁を強く握り、額をその縁に擦りつけていた。
「…………な、んか……眠くなって……」
「ッ!? なんだ!? 何が起こっている!?」
「まさか……幽霊が俺達に気づいて、攻撃を……ッ!?」
まさかの非常事態だった。
咄嗟にボビーは静に駆け寄り、体を支え、清は幽霊の攻撃の防除に特化した結界を展開しようとして……そこで二人は、体が重くなったかのような感覚を覚えた。
眠気だ。
耐えるだけで精一杯の眠気が、今、三人に襲いかかり、そして葉子はおそらく、これにすぐに陥落し……たのだと清は認識したのだが、違った。
いや、事実はそうかもしれない。
違ったのは状況ではなく数だった。
「うおおおぉ!! バァサ――――ンッッッッ!?!?!?」
船の操舵室から絶叫が聞こえた。
まさかと思い、清とボビーと静は操舵室へと目を向けた。
そこには、海上でのアシの確保のために地元で雇った、今年八十歳になるという現役漁師の津積船男・波江夫妻がいるのだが、妻の波江が眠気に襲われ倒れたようだ。しかも船男も、眠いのか歯を食い縛っている。とあるTV番組によれば、眠気を抑える効果がある行動らしい……が、いつまで持つか分からない。
だが待て、しばし。
今は操縦中のハズだ。
なのに目を離して大丈夫だろうか?
いや、全然大丈夫ではなかった。
なんと清達が乗る船は……岩場に激突寸前だった!?
「うわぁ!?!?」
清は思わず絶叫した。
すると、その絶叫とほぼ同時に。
そんな彼よりも大きな絶叫が近くから聞こえてきた。
「幽霊が……ナメんでねぇッッッッ!!!!!!!!」
絶叫したのは、なんと船男だった。
彼は必至に眠気に抗いつつ、面舵をいっぱい切り……言い放つ。
「かつて〝紺青のファンタジスタ〟とまで呼ばれたオラの操縦テクを……今こそ、見せてやるべやぁああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」
――いや、ナニソレ?
清達の頭が、思わずフリーズした。
そして次の瞬間。
彼らを凄まじい衝撃が襲いかかり……そのまま彼らは、意識を手放した。




