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また別の日、私は周吾さんのアパートの部屋の前にいた。もう、ここに来るのは何回目だろう。
合鍵にキスをするのは、鍵を開ける前の儀式。彼を愛おしく思う気持ちを、その唇に込めると、冷たい金属の感触が心地よかった。
部屋に入ると、今日はちょっと散らかっていた。最近は忙しそうで帰るのが遅いから、家事をする時間もなかったんだろう。
私はソファの上に放置されていた服や下着を拾い集めて、洗面所にある洗濯機に放り込んだ。ふと鏡台を見て、心臓がどきりと跳ね上がる。
歯ブラシが二本……でも私の物じゃないわ。ピンク色のほうの歯ブラシを感情的にゴミ箱に捨てそうになって、やめた。女がこの部屋に来た気配は、本当のところ、この歯ブラシだけじゃない。
──わかってたはずじゃない。周吾さんが、私以外の人と付き合っていることくらい。
どうにも嫉妬心が抑えられなくて、ピンクの歯ブラシで洗面台を磨いてやった。綺麗になるし、一石二鳥だわ。でも私も鬼じゃないから、掃除した後の歯ブラシは念入りに洗ってから元の場所に置いてあげた。
今日は食べて帰ると言っていたから料理もしなくていいし、洗濯機が回っている間は特にやることもなくて、シングルベッドに寝転んだ。こんな時間はたまらなく幸せ。周吾さんの匂いに包まれて、うっかりウトウトとしてしまいそう。
そんなことを思っているうちに本当に寝てしまっていたようで、洗濯機から鳴る終了音でハッと目が覚めた。慌てて起き上がって、洗濯物を部屋干し。こうしているとまるで奥さんになったみたいでニヤニヤしてしまうけど、残念ながらもう帰らないといけない時間だ。ああ、帰りたくないなぁ。