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神と獣と人間と【8】



確かに「妖刀に取り憑かれたので神様の入ったぬいぐるみ人形が手放せません」なんて説明したところで「頭でも打ったのか?」と思われる事はあっても「そりゃ大変だ!」と理解される事はないだろう。

まず、ない。

あったら逆にビビる。

しかし、一晴には一人心強い(?)変人の知り合いがいた。


「確かにそうですな。けれど、うちの事務所の社長なら信じるかもしれません」

『え? 何、毎月UFO雑誌欠かさず買ってるヤバい人なの? 私財をUFOやユーマや埋蔵金に抛つ系? 社長って一番偉い人でしょ? そういう奴多いよね〜』

「い、いえ……、……いえ? ……いや……。……ううん……まあ、でもUFO雑誌系は見た事がありませんな……?」

「否定しきれない系ではあるんだな……」


乾いた笑いで否定も肯定もしない一晴。

しかしすぐに項垂れる。


「その、自称神様なのです」

『ヤバい人じゃん』


ぬいぐるみの中に収まってるマジな神様にそう言われると複雑な気持ちで押し潰されそうになる。

お前が言うか、的な意味も含めて。


『……ん? いや、待って。自称神様? そのフレーズ……まさか……?』

「? トリシェ殿?」

『……一晴くん、その社長さんって、若い男の子?』

「はい、若いですよ。まだ十四歳だったはずですな。二年ほど前に今私が所属する事務所を立ち上げまして……子役の安いギャラで買い叩かれて悩んでおった私を拾ってくださったのです。歳下ではありますが、私には恩人ですな」

『敬語キャラだったりする? 性格割と気が強目な……?』

「はい。誰にでも穏やかで丁寧にお話しされますが、子どもと侮って掛かると返り討ちにされる気の強さもあり……」

『髪の毛ピンクのふわふわじゃない?』

「ああ、はい、そうですな。見た目はピンクのカーネーションみたいな方です……って、まさか社長をご存知なのですか!? トリシェ殿のお知り合いという事はまさか……まさか本当に神様……!?」

『神様だよ。彼は肉体のある神様。それもかなりレアな人間に生まれたがる変人! ああ、丁度転生時期だったのか……タイミング良かったな。待つ手間が省けた。……っていうかついに芸能事務所まで始めたの、あの子。……なんで?』

「な、なんでと言われましても……」

「トリシェ殿、もしやその神というのは……」

『そう。俺の知り合い。……人間に神器を騙し取られた彼だと思う。実際会わないとなんとも言えないけど……』


伽藍とトリシェ、二人で腕を組んで「うーーん」と難しい顔をなさる。

人間に神器を騙し取られた、トリシェの知り合いの神様。

もし一晴の上司がその人なんだとしたら、伽藍とトリシェの目的は一歩前進する。


「……こんなうまい話があるものなのかねぇ?」

『世間は狭いっていうしね。……けど、まあ……引かれ合うものがあるのかもしれない。俺も彼も神だから。……いや、会わないと確認できないけど』

「だがもしトリシェ殿の知り合いなら、一晴の仕事に都合をつけてくれるかもしれないんじゃあないのか?」

『……駄目元で電話してみる?』

「もしトリシェ殿の仰る方と別人でしたら私は社長に頭がおかしくなったと思われるんですな……?」

『そうなるね。でも仕方ない。君の人生がかかってる』

「で、ですな……」


駄目元で。

半信半疑の中、社長へ電話を掛ける。

体調を崩していなければ出てくれるはずだ。

何回目かのコールの後、ほんの少し高い声が『もしもし』と答えてくれた。


「もしもし……あの、彗さん……問題が発生致しましたのでご相談したいことが……」

『問題? ……確か一晴はお母様のご実家へ、お祖父様の遺品整理に行っているんですよね? なんですか、問題って』

「……信じていただけないかもしれないんですが……祖父の遺品の中に妖刀がありまして……取り憑かれてしまったのです……」


……真顔で何言ってるんだろう、自分は。

いや、事実は事実なのでこういう説明しかできないのだけれど。

項垂れる一晴。

電話の向こうでは思った通り沈黙。

きっと呆れ果てているのだろう。


『……それにしては自我がしっかりしていますね?』

『それは俺が妖刀を封じているからだよ〜』

「ちょ! トリシェ殿!?」


肩によじ登ってきたトリシェがスピーカーに話しかける。

いくら知り合いかもしれなくても、まだ確証もないのに……。


『トリシェさん……? ええ? お久しぶりです?』

『今回はスイっていう名前なんだね?』

『はい。彗星の彗の字です。……ええ、本当にお久しぶりですね……? 驚いた……貴方が一緒という事は、一晴くんが妖刀に取り憑かれたとか言い出したのは……』

『うん、そう、本当。俺が直に触れて、彼の体内に封じ込めて入るけれど……俺が離れれば妖刀は表面化して彼の魂を食い潰すだろうね』

『……はぁ〜っ……』


深い溜息。

呆れ返ったような深々としたその溜息にトリシェが『そんな呆れないでよ〜』と宥める。


『呆れたというか……いえ、なんというか……普通に生きてて、なんでそんな事になるのか……。これは僕のせいなんでしょうか? 僕に関わったから一晴は……』

『そんな嘆かないでよ〜……否定はしないけど……全部が全部キミのせいではないはずだから』

「そんな、彗さん……貴方のせいなどと……! 祖父の家に妖刀があったなんてどうしたら彗さんのせいになるんですか!」

『ですが……僕が力を失ったせいで他者へ歪んだ影響でも出てるんじゃないかと……』

『……体調はどうなの?』

「!?」


トリシェの言葉に一晴が随分と驚いた顔をした。

それを真正面から見ていた伽藍が首を傾げる。


『……今日は朝、少し熱があっただけ……って、僕の体調は今どうでもいいのですよ』

『やはり肉体に影響が出ているんだね?』

『体の事に関しては貴方にどうこう言われたくありませんね』

『そ、それはまぁ、そうなんだけど……』

『……それで、一晴の方はどうなのですか? 腕一本無くなってるとか、そんなことになってませんよね?』

「そ、それはありませんが……」

『トリシェさんに張り付かれてなければ妖刀が表面化しかねない……と。……それは困りましたね、仕事に支障が出る』

「そうなんです……」


恐ろしいほど話がトントン進む。

ほんの少し電話越しで沈黙が続く。


『僕が万全ならトリシェさんに体を貸すのも吝かではないのですが……』

『14歳だっけ? ちょっと若すぎるかな〜。身長何センチ?』

『さあ? ここ数年測ってないので……』

『そう……キミの体を一時的にでも借りられたら良かったんだけど……』

『我々相性抜群ですからね〜』


なんてのびのびとした会話だ。


『……因みに神楽さんは?』

『今の居場所知らね』

『息子さんたちには……』

『あんまり頼りたくないんだよね……』

『まあそうですよね……』

「……あ、あの……」


あんまりにも二人が親しげに会話するので逆に居心地が悪くなってくる一晴。

そりゃ、今日初めて会ったぬいぐるみが恩人の社長といきなり仲良くしてると複雑にもなる。

しかし会話の内容は一晴の人生が掛かっているのだ、話に割って入る権利はある、はず。


『ああ、俺ばっか話してごめんね』

『……一晴、とりあえず貴方、明日には戻ってくるのでしょう? どん何遅くてもいいから僕の所に顔を出しなさい。トリシェさんと僕は相性のいい神様同士なので、力を合わせればその妖刀を改めて封印できるかもしれません。……その妖刀の力次第ではありますが……』

『妖刀ね。……彗は妖刀について詳しいの?』

『まさか村正ではありませんよね?』

『日の本で一番有名な妖刀だね。うん、それじゃない。うちの息子が昔使っていた妖刀の弟刀だ。妖刀『紅静子』……知ってたりする?』

『……いいえ……強力なのですか?』

『恐らくこの国に残る妖刀の中では三本指に入る』

『うわぁ、めんどくさい』


心底面倒そうに。

しかし一晴はそれよりもトリシェの『日本で三本指に入る妖刀』と言われた方がショックだった。

そんなやばいものがなぜ祖父の家に……。


『ま、でもこん何早くキミと話せるとは思わなかった。転生時期かどうかもこれから調べようと思っていた矢先だったから。……こんな事になったのも神の思し召しだったりして、ね』

『笑えませんね』

男の声『彗、夕飯の準備ができたぞ。一晴は何の用だったんだ?』

『あ、もう少し……。……では、明日待ってますからね。それまでくれぐれもトリシェさんから離れないように気をつけなさい一晴』


では。

と、電話が切れる。

自分が離れないようにするのか……と切れた電話を凝視してしまう一晴。

肩から腹へと降りていくトリシェは俯く。


(妖刀がどうか、よりキミの体調の方が重要なんだけどね……)


腕を組んで考え込むトリシェをうかがい見る一晴と伽藍。

しかし、携帯の時計を見れば19時を回るところ。


「………………寝ますか……」

『そうしな』




寝た。





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