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妖刀の夢【2】



「僕は神としてまだまだ若造ですね」

『その上、神の力の根源たる神器を人間に奪われているからねぇ。弱体化するばかりで全然格が上がらない。せっかく珍しい『光属性』と『水属性』の神様なのに!』

「失礼だが、貴殿は何を司る神なんだ?」

「僕はトリシェさんのように概念レベルの力がある訳ではない。司るなんて大層な力はないんです。ただ……僕の神力は『時間』に干渉する」

『……『時間』に関わる神は大概ヤバい。この世界の時間に“あの男”がどの程度干渉したのか……その確認もしたかったんだけど、どう?』


どう、とは?

トリシェの投げた言葉は大層不吉極まりない。

一晴の中では微笑みを絶やさないイメージの社長が、表情を消した。


「そうですね、トリシェさんが幻獣族の故郷に渡られてからこの世界では五百年程、時は進んでいます。でも、やはり巻き戻しが起きている。歳を重ね、老いを感じたら若返るを繰り返しているのでしょう。僕が転生すると、年代が遡っている事が二回程ありました。歴史の改変もあると思います」

『あ〜、やっぱり。いかんなぁ、それ。『時と歴史の番犬』に気付かれたら消滅させられるね』

「…………トリシェ殿……俺はまだ未熟だが、そんな俺ですらこの事態は『理性と秩序の番犬』として見過ごせないと思っちまうんだが……」

『そうだった、キミたち幻獣ケルベロスも『番犬』だったね』


彗以外に興味がない月は、そういえば先程から喋るぬいぐるみにも一晴からすれば絶世の美人である伽藍にもノータッチ。

とは言え一晴も神様たちの話には、難しくて入っていけない感はある。

人間の一晴にはあまり関係ないとすら思えた。

なので神様たちの会話には積極的に混ざらず、自分の話題になるのを待つ。

もちろん、自分の所属する事務所の社長の事なので聞き耳はちゃんとたてるけれど。


「……彼は……やはり約束を守る気はないのでしょうか……」

『はあ〜!? まぁだそんな事言ってるの〜!? も〜、これだから『水の王』は〜! 五百年も貸してて返って来ないんじゃ普通に借りパクしようとしてるとしか思わないから!』

「しかし、彼は約束をしましたし……」

『はぁ〜……この世界の神様は契約事には弱いからな〜……。でももうダメだよ! 限界! これ以上世界に影響が出るとホラ、ここに住み着いてる元ケルベロスや他の『王』まで動き出すよ!? 世界存続レベルの問題になりつつあるんだから』

「う……。ですよね……」

「元ケルベロス? 俺の一族の者かい?」

『そう。元幻獣ケルベロス族上級上位兄、第13子“神楽”! アレは神獣化してケルベロス族から除名されているけれどね、力は未だ最強期だった頃の俺と同等だ。そうそう首を突っ込んでくるような奴ではないけれど、時間軸に影響が出ているのには絶対に気づいているよ!』

「じょ、上級上位兄第13子……!? ……って、あの変人で有名なおさの直弟子の!? あの人この世界にいるのか!?」

『どこにいるかは知らないけどね』


伽藍のお兄様!

思わず食い気味で聞き耳をたてる一晴。

伽藍の兄ならさぞや美しいのだろう。


「因みに伽藍さんにお姉様か、妹さんはいらっしゃらないので?」

「は? ……ああ、まあ、いるにはいるが……」

『チビとガキと占い好きの電波だよ。母親が違うから伽藍には毛程も似てない』

「…………………………すみません、なんでもありません」

『伽藍には同腹兄が一人だけ』

「お兄様がいらっしゃるのですか」

『あと、半神半獣のザ・戦闘種族の典型みたいなメチャクチャ怖〜〜い師匠のお兄さん』


サーー。

それでなくとも白い伽藍の顔がさらに白く、青褪めた。

師匠の事は当然尊敬しているし、敬愛もしているけれどそれとこれとは話が別だ。


「確か幻獣ケルベロス族はお兄さんが師匠になって弟を鍛える風習があるんですよね?」

『そう。でも伽藍は体が弱くてね、俺が百年憑依してようやく今くらいまで健康体になったの。そしたらまさかの支水が師匠に名乗り出てさ〜』

「?」

『ああ、支水は上級上位兄第4子……ケルベロス族のおさの同腹弟だよ。一族の中では長代理を務める地位も実力もある、半神半獣のケルベロス。神楽より歳上のケルベロスだから、神楽よりも強いだろうね』

「……そ、それは大層な師をお持ちのケルベロスなのですね……ええと、伽藍、さん?」

「俺は下から数えた方が早い。黒炎も使えない半人前だ。師がすごいからと言っても俺は全然なんだ」

『戦ってたら耳と尻尾が出ちゃうんだよ〜』

「トリシェ殿!」


だが一晴にはそれがいい!

ケモ耳ケモ尻尾属性の美人なんて、この世界でいくら探したって偽耳と偽尻尾を付けた奴しかいない。

だが伽藍の耳と尻尾は正真正銘本物!

こんな奇跡があっていいのか……。

そんなことを考えているとまたも紅静子が『きっもーい』と一晴の思考に横槍を入れてくる。

忘れていたわけではないが、下手に慣れてきた自分にがっくりする一晴。


「……彗、そろそろ11時を回ってしまう。明日のことを考えてせめてベッドに横になってはどうだ?」

「え、もうそんな時間なんですか? ……そうですね、夜更かしすると大抵次の日はつらいですからね……ううん、一晴の話を全然してないんですけど」

「そうですよ!?」


いつか自分の話になると待っていたのに!

何時でもいいから、とにかく今日のうちに来いと言われたから筋肉痛を押して……そして何より体の弱い彗の指示だから、普段なら避けるような時間でも訪ねたと言うのに。


「……妖刀……といえば僕が知っているのは村正や『炎の王』が以前所有していた『紅静火』くらいなんですけど……一晴はその『紅静火』の弟刀に取り憑かれたんですよね? 対処方法はあるのですか?」

『あるっちゃあるけど、俺が力を使うのに問題ない器があれば、の話なんだよね』

「やはりそこがネックですね、トリシェさん程の神を降ろして大丈夫な人間はそれ程多くない。僕の体をお貸ししてもいいのですが……」

『いやいや、相性にゃ問題ないけど、神器を失って久しいキミの体なんてとてもじゃないけど使えないよ。何よりちっちゃいし』

「ですよね」


ちっちゃい。

十四歳にしては、確かに発育がイマイチ。

というか、いつもより成長が遅くない、とトリシェが一晴の頭から前のめりになる。


「やっぱりそう思います? そうなんですよね……これも神器がない影響なんでしょうか?」

『絶対そうだよ、いつも十代半ばには170センチ近くになってるじゃん、キミ』

「でも今回純粋な日本人同士の間に生まれたんですよ?」

『え、そうなの? 珍しいね、いつもイタリアとかアメリカとかどこかしらの血は入ってるのに』

「私と妖刀の話に戻って頂いてよろしいですかな」

「あ、すみません」

『あ、ごめんごめん』


久しぶりに会う知り合いとどうでもいい話になるのは分かるけど、一晴にとってはそんな話よりも妖刀をどうにかして欲しい。

一刻も早く、マジで。

思考が筒抜けというのは実に気味が悪いし、困る。

このままではうかうか男の子らしい妄想もできないではないか。


「俺としては彗を寝かしつけたいのだが」

「あ、あともう少し……」


それもあるし。


『まあ、今は俺が一晴くんに直接触れて妖刀の妖気と呪いを押さえ込んでいるんだけどね』

「……僕の神器が戻れば手助けできるのですが……」

『そうだね、俺とキミは同じ『光属性』だもんね。力を合わせれば、相乗効果で妖刀くらいなら弾き出せる』

『……!? ………………』

「あ、今妖刀が焦った感じが致しました」

『ちょ、余計なこと言うな!』

『だろうね。それに、何より妖刀『紅派』は『闇属性』と『炎属性』……『光属性』と『水属性』の神である彗くんは『紅静子』には天敵だろう』

「…………そうなのですか……?」


人間の一晴にはよく分からない。

伽藍が付け加えるに「光属性と闇属性のように、水属性と炎属性は相反する属性だからな」と解説してくれる。

だとしたら……。


「それは彗さんも妖刀が苦手、と言うことになりませんか?」

「……そうですね……神器が手元になくて久しい今の僕では一晴に取り憑いた妖刀には敵わないでしょう」

『でも『光属性』には他の属性にはない特性があってね。同じ『光属性』同士が力を重ねると相乗効果でいくらでもパワーアップできるんだよ!』

「ですが、ご覧の通りトリシェさんは器が小さ過ぎますし僕は神器を失いこの様です……」

『……彗くんの神器が戻った状態なら、むしろ彗くん一人でも妖刀をへし折るくらいできそうなもんだけど』

「そうですね、それは余裕でできると思います」

「! ……それ程なのかい?」

『当然さ、彼は俺の息子と同じ『八王』の一角! 『水の王』の位にある王の一人!』

「…………そうか、この世界は『八王戦争』を行なった世界なのか」

「? なん……」

『人間が生き物の枠を超えて神格化する儀式の一つだよ。霊力の高い八人が殺し合い、相手の霊力を奪うんだ。最後の一人は神として使う器を産むか産ませて、神に転生する。……なんで八人かって言うと、神に必要な原始の力「地・水・火・風・雷・氷・光・闇」って八つあるから。それらを一人一つ、司った者を「王」と呼んで行うんだって』

「へぇ……」


非常に興味なさげだが、説明をしてくれたのは紅静子。

なんで知ってるんだ、と頭の中でふと思ったがそれにも『ぼくの前の持ち主がその戦争に巻き込まれて死んだの』とあっさり答えてくれた。

あまりにゾッとした答えに口を噤む。

文字通り、人死の出る戦争だったのだ。


『ぼくは途中までしか知らないけど、結局はちじょーのもつれみたいな戦争だったよ〜。男が寄ってたかって一人の小娘を奪い合っちゃって、趣旨変わってやんの』

「……では、その神事とやらは失敗したのですか?」

「え? ……ええ、まあ、そうですね……? ……一晴、八王戦争が何か知っていたんですが?」

「妖刀が教えてくれました」

『そういや、紅静子は『光の王』の捨て駒にされた女の子に所有されてたらしいもんね。その後の行方は分からないけど』

『あの後、ケーサツに拾われて落とし主不在〜とかでおーくしょんにかけられていろんな奴に転売されまくりのたらい回しで散々だったんだから! どいつもこいつも手袋して触るから、全然取り憑けないしさ〜!』

「普通に警察に拾得物扱いされた挙句オークションで骨董品として売買されていたそうです」

『わおぅ……天下の妖刀も警察とオークションには形無しかぁ』


というか、手袋して、直接触らなければ取り憑かれる事はなかったのか。

若干ショック。

妖刀の呪いってそういう風に防衛できるんだ……という意味で。


「彗」

「う……」


今まで黙っていた月の、その柔らかな笑顔とは裏腹な有無を言わさぬ声。

時計は夜の11時を過ぎた。

トリシェも一晴の頭から、肩に降りて『そうだね、おやすみ。引き留めてごめんね』と手を振った。


「申し訳ありません、トリシェさん……一晴……明日また話しましょう。今日はここに泊まっていってください。月、部屋を一晴と伽藍さんに用意して差し上げて」

「うん、まずは彗がちゃんと寝付いてからだな」

「うっ」

『医者の不養生だね』


車椅子を月に押されて奥の部屋へと連行されていく彗。

だが彗は芸能事務所の社長で医者ではない。


「トリシェ殿、彗さんは医者ではありませんが」

『今生ではそうだろうけど、昔は医師免許を持ってたこともあるんだよ、あの子。それに『光属性』と『水属性』は攻撃より守りや治癒に特化している属性でね……彗が神器を持っていたら、一晴くんのこともすぐになんとかできただろう』

「……マジですか……!?」

『超マジだよ』

「それに『光属性』そのものが珍しいしな。……八王戦争で神格化してしまったのかい、彼」

『いや……。……彼は両親共々とても強い能力者だった。元々一族が数奇な運命を持つ一族だったみたい。俺も詳しく知っているわけじゃないけど、八王戦争が始まる前には既に半神半人になっていたよ。勝つ気があればあの戦争も彼が勝っていただろうね。勝つ気があれば』

「なかったのか」



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