第53話 王都に辿り着くのは誰か
「ルナリアさん! そいつが最後の一匹です!」
「任せて下さい!」
アルの合図でルナがグラナートファングと呼ばれる石をも噛み砕く牙を持った魔物に対してクロスボウと呼ばれる矢を飛ばす武器で攻撃する。
クロスボウから放たれた矢は真っ直ぐグラナートファングの首へと命中するが、致命傷にはなり得ない。
むしろ魔物を怒らせる結果となり真っ直ぐルナの方へと向かってくる。
「発動!」
「グルァッ!」
ルナの呟きと共にグラナートファングに変化が起きる。
矢が刺さった部位がパンと音を立てながら爆ぜ、血肉が飛び散る。
血を吹き出しながら力が抜けたように地面に転がり、勢いが止まった時には魔物は力尽きていた。
「ひえー……体の内側から破裂するなんて恐ろしい武器だなぁ……」
『先端の矢じりに能力で炸裂の性質を【付与】しているのだろう。時間差であれは中々面白い能力だな……』
「ま、まさか触っただけで能力で人を破裂したりとかも出来るのか……?」
「なに、魔力だけを直接流しても本人が抵抗すれば問題無い。まぁ、実力に大きな差があれば分からないがな」
「つまりは出来るって事か……怖っ」
俺とタマモが馬車の前で話をしていると魔物を掃討していた皆が戻ってくる。
先に戻ってきたのは鎧に身を包んだおじさん二人とウィルの男三人組だ。
「いんやー、流石狩人の皆さんだけあって魔物との戦闘は手慣れていますなぁ」
「教会騎士団は対魔物の戦闘経験がどうしても不足するからな。ま、専門家に任せるのが一番ってことだ」
「アノス殿とガロン殿も堅実な戦い方で俺にとって参考になる」
「それは重畳ですなぁ」
ウィルと一緒に戦ってた二人は教会騎士団のアノスさんとガロンさん。
おっとりした少しふくよかな方がアノスさんで、粗野な風貌の方がガロンさんだ。
魔人ヴィーボラの所業は里を支配すると言う規模が規模だけに王都の聖女教会の偉い人が話を直接聞きたいと言い、教会の使者兼迎えとして派遣された人達だ。
「イズナさんこっちも終わりましたよ」
「お疲れアル、ルナ」
「イズちゃんも馬車の護衛お疲れ様」
「護衛……ねぇ」
「悪いなお嬢。アンタは魔人を倒した重要な人物だ。万が一王都に着くまでに何かあっては困るんだ。俺とアノスが上司に叱られちまう」
「俺は大丈夫なのに……」
俺は皆と違い魔物と戦う事もなく馬車の周囲を警戒していた、と言うより正確には馬車の幌の上であぐらをかいて座っていた。
ネーベルを出てから10日間、俺は一度も戦闘に参加させて貰っていない。
万が一、万が一と何度も諭されて渋々我慢しているが、体を動かしたくてしょうがない。
こうなったら王都に着いたら魔物を狩りまくってやる……!
「しかし日が沈み始めたので今夜はここで夜営になりそうですなぁ」
「だったら魔物の死骸は処理しねぇとな。アル君よ、悪いけど穴を掘ってくれないか? 使わない部位はまとめて燃やそう。じゃないと血の臭いで魔物が惹かれちまうかもしれないからな」
「分かりました」
「なら俺は魔物を運ぶのは手伝おう」
「ウィリアム殿、何から何まで申し訳ありませんなぁ……」
「別に構わない」
あれ、俺要らなくない? こ、こうなったら俺は俺でやれる事をやろう! そう、料理だ!
……俺ってこの10日間料理しかしてないような……?
「じゃ、じゃあグラナートファングで料理でも作っちゃおうかな!」
「私もお手伝いしますねイズちゃん」
「よ、宜しくルナ」
あー……何かテンション下がって来たなぁ……
「イズナクッキングの時間でーす……今日はグラナートファングの新鮮なレバーを使った料理を作っていきたいと思いまーす……」
「い、イズちゃんどうしたの」
「いや、最近の俺、料理しかしてないなぁと思って……何か役にたってない感じがしてね……」
「大丈夫、私に色々教えてくれているでしょ? それに王都に着けばまた狩人として忙しくなるよ。その時は狩人になった私もパーティーに入れてね先輩……!」
あぁ、情けないな俺……こんな事でくよくよするなんて俺らしく、いや、男らしく無いな!
「せんぱい……何か良い響きの言葉だなぁ……よし! バッチリ料理をするか!」
『相変わらずちょろいな……』
「何か言ったかタマモ?」
『いや、何も』
気のせいなら良いか。
なら料理に掛かろう。
「まず、先程アルの魔法のウォーターボールで血抜きしたレバーを一口大に切る」
「臭みが思ったより無いね。私、レバーの臭みって少し苦手で……」
「ウォーターボールの水流を撹拌するようにして貰ったから血はしっかり抜けてるから。本当だったら半日位水に浸けておくのが正しい方法らしいけどね。じゃあこのレバーを水気を拭き取ってコーンスターチ(とうもろこしのデンプン粉)を満遍なくまぶしてね」
「任せてイズちゃん」
俺はその間にグラナートファングが蓄えていた脂の塊、獣脂? を鍋に入れて加熱する。
真っ白な脂は加熱されていくと溶けていき、透明な油へと変わっていく。
残った固形物を鍋取り除いた時にはルナがこちらにやってきて鍋の中身を覗く。
「その量の油って事は揚げ物を作るの?」
「レバーの揚げ焼きを作ろうかなって」
揚げ物にするには油の量がまだまだ足りないし、別に揚げ物じゃないと美味しくないと言う訳では無いので油はレバーが浸る位で十分だ。
俺は鍋にコーンスターチをまぶしたレバーを鍋へと投入すると油の跳ねる心地よい音と、香ばしい匂いが辺りを漂う。
「ルナはお皿とパンを宜しく」
「えぇ」
カラッと上がったら次はタレ作り。
「醤油はこれでお仕舞いだな」
アルストで貰った醤油も料理一回分まで目減りしてしまった。
最後に最高の料理に仕立て上げてやろう。
塩、、胡椒、砂糖、醤油、生姜や他の香辛料混ぜてサッと火を通して汁気を飛ばす。
そして先程のレバーの揚げ焼きと絡めて焼いたら完成だ。
後は皿に盛り付けて皆が集まっている所に持っていくだけ。
さてさて、お味の感想はと言うと……
「甘辛って感じで美味いなお嬢! あの牙デカの魔物のレバーとは思えねぇよ」
「臭みも消えてて美味しいですなぁ」
「内臓はあしがはやいですからこうして美味しく食べられるのは嬉しいですね」
「美味いぞイズナ」
「これなら美味しく頂けるよ、ご馳走さまイズちゃん」
「ふふーん、まぁね!」
料理は得意分野だしな! ま、これくらいどうって事無いものだよ!
「いやー、お嬢狩人止めたら俺の息子の嫁さんになってくれよ! つっても息子はまだ4歳だけどな。ハハ!」
「ガロンさん、俺は男だからお嬢は止してくれって言ってるだろ?」
「悪い悪い。つい言いたくなっちまうんだ。許してくれ」
もう女の子扱いに半分慣れてきた自分がいるが、前世から俺は男なのだから勘弁して欲しいものだ。
そんな雑談をしながら夕飯を食べ終わり、片付けをした後にアノスさんから一つ提案される。
「明日には王都に着きますので今日はゆっくりしましょう。着いたら各々事情を聞かせて貰いますからなぁ。見張りは我々が行いますのでしっかり睡眠を取って下さいねぇ」
「ありがとうアノスさんじゃ、早速明日に備えて寝るとしようかな」
夜営用に張ったテントの中に潜りこんで横になる。
そうするとルナも一緒のテントに入ってくる。
俺とルナで一組になり、一つのテントを使う事になっているのだ。
「ふぁ~、イズちゃんお休みなさい……」
「……お休み」
寝・れ・る・かっー!
同じテントで寝るようになってからルナは何故か俺を抱き枕のように抱き締めて眠る。
近い顔、良い匂い、色々と柔らかい部位が気になって毎日すんなり眠れんわ!
こうして俺は眠気に負けるまでよく分からないもんもんとした感覚に苛まれるのであった。
この時までは知らなかった。
王都に集まる人々、交差する運命、そして様々な事を知るなんて……
「勇者ユーリが王都へと帰ってくる? ふむ、タイミングが良いな。王都武道大会にでも出て貰うとしよう」
「マー君お仕事取って来たよ。はい、迷子のペット探し!」
「おいおい、俺は探偵だぜ? ライラ、そうペット探しばっか持ってこられるとペット探し業者と勘違いされちゃうだろ?」
「イズナちゃん、私が王都に居たら驚いてくれるかしら?」
「武道大会……良い機会ね。このカミア様の強さを見せつけてやるってワケ!」
「聖女様に忠誠を……」
「ははは、本当にジオラスは熱心だな」
「……団長がアレなだけです」
「そうです、聖女様に対しての敬意が足りませんよ~」
「おいおい、アンタがそれを言うのか聖女様よ……」
「大将、ちょっくらアーネスト大陸に行ってくるわ」
「ネヴィルス、何か用があるのかい?」
「何か有る気がしてな!」
「ふふ、そうかい。なら行ってらっしゃい」
「王都に居るのは分かっています……! アザミ、何故私達の一族を裏切ったのですか!」
「ねーねーフランチェスカちゃん、一緒に王都に行かない?」
「一体何を考えているの……ティティ?」
「うーん、ティア様が怪しい気配を感じるんだって。息抜きついでに調査しよ!」
「鉄の仮面を被る友よ、楽しみだな。溢れかえる災厄に人々はどう立ち向かうかな?」
「無力の人々にはどうしようも有りませんよ。そして計画は大詰め……後は私の姫君を見つけたい所ですねぇ。一体何処に隠れているのやら……」




