第51話 定例のLast! ※イメージ有り
遥か上空20m以上から自分の体重に加え俺と言う重しを足した状態で頭から落ちたヴィーボラは魔人の丈夫さからか、木っ端微塵になることなく原型を留めた状態で首の骨が折れて絶命したようで、ピクリとも動かない。
俺も身体強化【鉄壁】を掛けた状態とは言え無事と言う訳ではなく、その場から動けなくなっていた。
「どうやら無事終わったようだな、イズナ」
もう首も動かせないほど俺は疲労困憊しているが、この状況で話し掛けてくる奴を俺は一人しか知らない。
「あぁ、なんとかな。でも俺はボロボロだけどな、ウィル。流石に考えなしにやったら行けない技だったよ……」
「そのようだな。時期に皆奴の能力が解けるはずだ。少し時間が経ったらダンスホールに行ってみよう」
今回、俺とウィルは嘘だらけだ。
遡る事、俺が首もとにアルにナイフを突きつけられた時の話だ。
「なぁ、そろそろ良いだろ?」
「あぁ、そうだな」
影牢からとっくに解放されていたウィルはアルのナイフを持っていた手を掴み、首を手刀で叩いて気絶させた。
そう、ウィルは最初から支配の魔眼など受けていなかったのだ。
そしてアルの周囲には防御用の魔法が展開されていたから取り敢えず俺と戦っていたと言う訳である。
「イズナ、お前に話す前に牢屋から脱出していたから少し焦ったぞ。ロープを持っていないか?」
「有るよ、ほい。考えるより行動派だからな俺は。ウィル、どうしてお前は支配の魔眼を受けてないんだ?」
ウィルに影の中に収納していたロープを手渡すとアルをミノムシの如くグルグル巻きにする。
す、少しやり過ぎじゃないか?
「そう言う体質のような物だ。それに、そもそも俺は宿屋の睡眠薬すら効いていない。何故なら無人島で毒物をも食らって生きていたからな。わざと掛かったフリをして情報を探っていたが、イズナが逃げたしたと聞いたときはどうやって俺が魔眼の支配に掛かっていないという連絡を取り合うか迷った物だ」
「……やっぱりアルと一緒に襲い掛かってきた時に俺の攻撃に一々反応していたり、ウィルなのに武器を一切持っていないという理由だったのか。あ……でもウィル! アルにスピアータックルが決まりそうだったときに俺の事投げたじゃん! あれで俺の考えが一瞬間違えたかと思ったんだけど!」
当たれば気絶させられるであろう攻撃をウィルに防がれたのを俺は忘れていない。
そこのところをちゃんと説明してくれよな!
「あれはアルが自爆技でイズナを迎え撃とうとしていたからだ。二人が共倒れになったら困るからあぁしたのだ」
「え……マジ?」
「あぁ、凄まじい魔力の奔流を感じたから急いで投げたのだ」
「さ、サンキュー」
「構わない。イズナ、後は手短に情報交換しよう。支配下に置かれた人々は直ぐに戻ってくるからな」
「分かった。まず俺はルナリアさんって人に会ったんだが――――」
そこで知ったのは支配の魔眼の弱点。
より強く支配下に置かれている人は応用力を失う事だ。
支配されて間もないアルは普段の戦闘に近い行動をするが、より長い時間で支配された人は本当に人形のようになり、命令された事しか出来なくなってしまうとのこと。
「つまりはアルさえ無力化すれば支配下の人々を一ヶ所に閉じ込める事も可能だ。そしてヴィーボラは鐘がなったらこのダンスホールに集まるように命令した。だから俺とイズナで別れて行動しよう。俺は人々をこのダンスホールに閉じ込める。そしてイズナはヴィーボラを倒す、それでどうだ?」
「分かった、それで行こう」
「ヴィーボラはイズナがここに来る前にルナリア嬢の所に行くと言ってから先にルナリア嬢の部屋へ向かってみてくれ」
「あぁ、じゃあそっちは頼むな!」
「任せておけ」
睡眠薬も魔眼も効いていないのに効いたフリ、これがウィルの嘘。
初めからヴィーボラの作戦には穴が空いていたのだ。
そして次は俺の嘘である。
「は、離せ……!」
「良いでしょう、【大人しくしていなさい】。貴女は後でじっくり楽しんであげますよ」
「ぐ……ぅ……」
俺はヴィーボラから手を離される。
床にドサリと落とされた俺は瞳に掛けた操影を解除する。
俺の操影で作られた影は魔力を弾き、遮断する力がある。
それを瞳に掛ける事が最初に考え付いた魔眼対策だ。
無論不可視可視化の眼鏡と違い、視界が完全に遮断されるし、黒い影は普通は目立つ。
しかし俺の瞳孔は皆と違い真っ黒なので、髪の毛で出来た自分の影を操り瞳を覆ったのだ。
後は影からワイヤー付きクナイを取り出して投げたのが今回の顛末だ。
つまりは俺もウィルも魔眼に掛かったフリをしたのだ。
人は上手くいっているときが一番油断するからそれを突いたのが今回のあらましだ。
「背負ってやろう。ダンスホールへ行こう」
「へへ、済まないな……ルナリアさんを屋根から下ろすのと、後はタマモの狐面も探しといてくれ……」
「あぁ、後は任せておけ」
俺はウィル背負われてダンスホールの前の扉までたどり着く。
そこには何処から持ってきたのか、タンスやらベッドやらが山のように積まれて中からは開かないようにされていた。
多分ダンスホールの出入口は全て同じようになっているのであろう。
「少し待っててくれ。バリケードを退かす」
10分もしないうちにバリケードを撤去して扉を開くと中には訳が分からないと言った様子の人々が居た。
「だ、誰だあんたたちは!」
「俺は狩人のウィリアム=マクスウェル。魔人ヴィーボラは討伐した。皆、安心してくれ」
「ほ、本当か?」
ぽつりぽつりと喧騒が増えていく。
その中で俺とウィルを呼ぶ声がしたのでそちらの方へとウィルに背負われた状態で近づいていく。
そこにはロープでグルグル巻きにされて転がされているアルが居た。
「ウィルさん、イズナさん、これは一体どういう状況ですか!? 僕は何故縛られているのでしょうか!」
「あ、アルも意識が戻ったんだな……説明は後でするよ。ウィル、アルは俺が解放するからルナリアさんを頼む」
「分かった。少し離れるぞ」
ウィルは俺を背中から降ろしてダンスホールを出ていく。
俺はロープの結び目をほどき、アルを解放した。
「起きたら大勢の人が回りにいて、しかも全身縛られていたので驚きましたよ。一体何があったのでしょうか? イズナさんもボロボロですし……」
「これはお前にやられた傷だよ……」
「え? ぼ、僕ですか?」
「……冗談だよ。ちょっと調子乗って思い付いた必殺技を魔人にやったら自爆したんだ。要改良だな……」
「魔人ですか……? 一体何があったのですか」
「そうだな……何処から話そうかな」
「イズナちゃん! 無事ですか!?」
俺がアルに今回の出来事を話そうとすると遠くから鈴を転がすような綺麗な声で呼び掛けられる。
「ルナリアさん……」
「良かった! 下に落ちたときはどうなったかと思って!」
思ったより早くウィルが連れてきたルナリアさんは涙目で俺に抱き付く。
柔らかな二つの感触に反応してしまい、思わず身動ぎしてしまう。
「お、俺は大丈夫だから!」
「ありがとう! 本当に……! ありがとう……!」
「……もう大丈夫だから、ルナリアさん」
「うぅ……! くっぅ……!」
「今は我慢しないで泣いて良いんだ……」
ルナリアさんは溜め込んでいたものを吐き出すように泣いていた。
ずっと、ずっとヴィーボラに囚われていたのが終わったんだ。
大切な人を殺され、味方が一人も居なくて心をすり減らしながら……きっと俺なら耐えられない。
だから、気が済むまで泣いて良いんだ。
「その、お見苦しい所をお見せしました……」
「大丈夫大丈夫! えーと何か拭くものないかな? あれ、なんだこれ?」
影の中にタオルや何か無いかなと探していたところ、何か一つ掴みあげる。
それは真っ白なハンカチだった。
あれ、文字が消えてる……? 確かこれは血文字のようなもので魔眼に関しての事が書かれており、俺のブーツに隠されていた恐怖の手紙だ。
特殊なインクでも使われていたのだろうか。
そう言えばこれはウィルが仕込んだものなのか?
「あ、このハンカチはウィルのだろう? こいつのお陰で助かったよ」
「いや? 俺は知らないな」
「じゃあ誰のだ?」
「あの……少し貸していただけませんか?」
「ん? 良いよ」
ルナリアさんは何か知っているようで俺にハンカチを渡して欲しいと言うので、手渡すとまた感極まるように瞳に涙を浮かべる。
「このハンカチは……私の育ての親の物です……! 良かった、フリットお父様の物が残っていて……!」
「そうなんだ。それは良かった……な?」
……待てよ? でも何でそんなものが俺のブーツに入って居たんだ?
宿屋の主か……? いや、宿屋の主がわざわざルナリアさんの育ての親のハンカチを隠し持っていて、なおかつそれを使うか?
「ありがとう……旅人さん」
突如しゃがれた声で話し掛けられ、そちらの方向を見るとネーベルに来て初めて出会った人である痩せこけて虚ろな目をしたおじいさんが立っていた。
再度現れた神出鬼没のおじいさんに驚くもなんとか返事をする。
「ど、どういたしまして?」
俺は何に対しての感謝の言葉かは分からなかったが取り敢えず返事をする。
「どうしましたイズナさん?」
「いや、最初に会ったおじいさんがそこに居るだろ? 今礼を言われたんだけど聞こえなかった?」
「おじいさんなんて何処にも居ませんよ?」
「いや、そこに立ってるだろ!」
「……ム?」
何故だか皆おじいさんがいる方向を見ているのに誰もおじいさんの事を視認出来ていない。
まるで俺にしか見えていないようだ。
「地下室に行け……とルナリアに伝えておくれ……娘を……頼むよ……」
「え……?」
今何て言った? ルナリアさんが娘?
「……スターク嬢、そのフリットと言う方の特徴を教えてくれないだろうか?」
「え、えぇ。フリットお父様はいつも魔道具を徹夜で作っていて、寝不足で虚ろな目をしている上に、熱中するとご飯も食べ忘れるせいて少し痩せたご年配の方でしたが、それが何か……?」
「イズナ、その眼鏡の名は確か……」
「不可視可視化の眼鏡だけどそれがどうっ……ま、まさかっ……!」
"私を育ててくれた方が作った魔道具です。その名も【不可視可視化の眼鏡】。本来は普段見えない物を見えるようにしようと作られた物です"
俺は眼鏡を恐る恐る上にずらしておじいさんの方を見てみるとそこには誰も立っておらず、再び眼鏡を着けるとそこには虚ろな目をした老人が立っていた。
「思い残す事はない……さようなら旅人さん……」
スッ、と光の粒子になって消えていくおじいさん……そう、その正体は……
「お、お化け……!」
俺がこの世で一番嫌いな存在、お化けであった。
俺は恐怖のあまりそのまま意識を手放すことを選択してしまったのだった。
「イズナちゃん!? どうしたの! イズナちゃーん!」
「世にも不可思議な事が有るものだ……」
「お願いです! 誰か僕に説明してください! 誰かー!」
バッドエンドをノクターンで書いてみた。




