第49話 敗北のLimit!
「ふふ、失礼しますよルナリア。もう少しで件の少女を貴女に紹介出来そうですねぇ……楽しみに待っていて下さい」
ヴィーボラは上機嫌にルナリアが軟禁されている部屋に入ってそう告げる。
館にある鐘を鳴らして館から少女の捜索へと駆り立てた、己の魔眼で支配した人々を引き返すように合図し、一人の少女に対して完璧な包囲網が完成したからだ。
後30分もしないうちに支配した人々が戻ってくるであろうと考えているようである。
それに少女の仲間同士……杖を持った小柄な魔術師の少年と体躯の大きい男で現在戦闘させているので足止めも十分。
ヴィーボラは完全に勝利を確信していた。
「おや、いつもなら私が部屋に入ってきた瞬間には直ぐに目覚めて私を睨み付けて来ると言うのに、今日は眠っていらっしゃるのですか? それともご機嫌斜めで反応すらしてくれないという訳だったら、私は少し寂しいですねぇ……」
普段とは違い、ルナリアの無反応にヴィーボラは軽口を叩きながらルナリアの方へと歩む。
ヴィーボラは魔人である。
蛇と人間の中間の性質を持ち、魔人としての真の姿を見せなくとも使える能力で確かにベッドの掛布団にくるまるルナリアの姿を確認して近づいていく。
ピット器官……それは蛇が持つ特殊な器官で有り、夜行性の蛇が獲物を察知するための物で温度を可視化する機能を持つ。
例えば扉の隙間から部屋の外で覗き見る少女を発見したり等、ヴィーボラにとっては有用な能力である。
「どうですか? そろそろ私のモノになってくれるよう心変わりしていただけたでしょうか。貴女も見たくは無いでしょう? ふふ、何がとは言いませんがねぇ……」
このネーベルの里を掌握した時、里の人々へ若い女を差し出すように命じた。
ヴィーボラのとある残忍な趣味で楽しむ為であり、そのお楽しみの結果、現在ネーベルの里からは歳が10を満たぬ少女を除き、若い女が16歳のルナリア以外は姿を消してしまった。
ルナリアの育ての親であるフリット=スタークはヴィーボラのそんな残酷な性格を初期に見抜き、完全にネーベルが支配される前にルナリアの存在を隠し、逃がそうとした。
しかし、残念な結果にルナリアはヴィーボラに支配された人々に捕まってしまい、フリットは処刑されてしまった。
「美しい……! 貴女は私の妃に相応しい存在! どんな手を使ってでも貴女の心を手に入れましょう……! 私は魔人ヴィーボラ。いずれ魔王となる者です!」
これがヴィーボラとルナリアの初めて出会った時の言葉である。
ヴィーボラはルナリアに執心している。
その美しい銀糸のような髪、アメジストのような瞳に美しい顔立ちの娘の心さえ手に入れようと。
あくまでも自発的に自身のモノになると宣言させたいと支配の魔眼を使用せず、多少でも彼女との心の距離を近づかせる為に魔人としての姿を一切ルナリアに対して見せる事は無かった。
しかし、育ての親の仇であるヴィーボラをルナリアは決して許さない。
そうして半年近く関係が進まない事に痺れを切らし、手段を選ばないと決めていたヴィーボラは良い手を思い付く。
「ふふふ、そうですねぇ……彼女に対して見せしめなんてどうでしょうか? 丁度近くに旅の一団が来ているみたいですからねぇ……ふふ、ふふふ!」
そんな手を思いつき、まだ支配していなく、宿泊先になるであろう宿屋の主の妻を人質にしてこの館に連れてくるよう命じた。
そしてあっさり狩人の一団らしき三人を、睡眠薬を混入させたお茶で眠らせ、館に運び込ませた。
「ほぉ……! なるほど、これは掘り出し物ですねぇ……!」
狐面を着けた少女の面を剥いでみると、金髪だった髪は黒髪へと変貌し、面の下に隠されていた顔は幼いながらも将来性をひしひしと感じさせる美少女だった。
「ふふふ、一度の遊び相手としては勿体無い。じっくりと私好みにしてあげましょう……」
「お願いです! 先に妻を返して下さい!」
「……分かりました。それでは上の階へと戻りましょう」
少し味見してみようか……そんな考えがヴィーボラによぎった時、ここまで狩人の一団を運び出す行為の功労者、宿屋の主が妻を返してくれと主張したので、後での楽しみとして少女を取っておく事にして宿屋の主と共に自らの執務室へと向かう。
その後、恐らく影を操る能力で逃げたしたであろう少女を執務室の扉の隙間からピット器官で視認し、捕獲しようとも試みるが少女に何処からか持ち出したであろう煙玉で逃走される。
そこで、支配した少女の仲間である魔術師の少年に風魔法を使用させ、煙をダンスホールから外へと出させた。
その後は少女の仲間である二人を除いて支配した人々を少女の捜索に駆り出し、仲間を取り戻す為に戻る可能性を考えて、ヴィーボラ自らと少女の仲間でダンスホールで待機していたのだ。
そして現在、少女はもう少しで完璧な包囲網に囲われて完全に負ける事が決まっている。
「ふふ、それとも同衾のお誘いでしょうか? さぁ、その美しい姿を見せてくださいルナリア。……っ!」
ヴィーボラは勝手に体が動いた。
それは防衛本能か、無意識に体が動いてそれを回避したのだ。
飛来してくる掛け布団から突き出る黒い槍のような物。
それは……影。
「色々言いたい事は有るけどな……一番大切な事を言ってやるよ。良いか、よく聞けよ?」
「何故……!」
「俺は男だ!」
ルナリアが居るはずのベッドの上、そこには居るはずの無い件の黒髪の少女が立っていた。




