第44話 月下のLunaria! ※イメージ有り
『良いか?口先も立派な武器だ』
「ええー……でもさぁタマモ……」
『皆まで言うな。大方男らしくないとでも言いたいのだろう』
「うん……」
『良く聞けイズナ。強さとは膂力や能力、魔法の攻撃力の高さの事だけでは無い。時には怖じけづかせたりして戦う敵の数を減らすハッタリや、敵を作らない人間関係での立ち回り。はたまた困った時に自分を助けようと思ってくれる仲間を作るコミュニケーション能力も強さだ』
「でもそれをしなくても強い奴はいくらでも居るんじゃないの? 」
『確かに居る。だがなイズナ、お前が言うような強さは向いていないと私は思う』
「何でだ? そんなの分からないだろ」
『お前は巨大な虫型の魔物と魔人に明確に油断して敗北している事を忘れたのか?』
「うっ……!」
「お前は甘いし若い。だから自分の出来ることを知覚し、そして新しく学べ。そうすればきっと強くなれる。それに、私がこの面に封印される前には口先だけで街を救った人間も居たくらいだからな。ハッタリとは一概に馬鹿には出来ないのさ」
「国を……本当か? でも分かったよ、タマモ。俺にハッタリの効かせ方を教えてくれ」
「あぁ、まずは――――――」
俺はそんな、旅の道中で話したタマモとの会話を思い出していた。
相手とって嫌がる事を言う……ハッタリって、こうで良いんだよなタマモ?
「じゃあな! 遠くの街でここの事はキッチリ報告してやるからな!」
俺はあらかじめ位置を確認していた窓を割り、外へと飛び出す。
「ぐうっ! 痛くないけどあまりやりたくないな、コレは……!」
二階の窓から一階へと飛び降りた俺はすかさず空中で身体強化【鉄壁】を使い、月の明かりが霧で見え辛い外の地面に無傷で落下する。
痛みは無いが、鈍い感触が体に伝わりあまりいい気がしない。
館の二階を振り返って見てみると俺が割り出た窓からは尋常じゃない量の煙が吹き出ている。
「……追いなさい。まだ遠くには行っていないはずです。ふふふ……! 捕まえたら逃げたことを必ず後悔させてあげますからねぇ」
更にそこから身体強化【疾風】に切り替えて即座に館の屋根を除き最上階である三階へと飛び移る為にジャンプする。
さっきの台詞はハッタリで、館の警備を俺の捜索に割かれたらラッキーと言う算段の嘘で警備が薄くなった再度館の中を探索してウィルとアルを探す事が目的だ。
「よっと」
俺は三階にある部屋の一角のバルコニーへと着地する。
このバルコニーだけ部屋へと入る入り口が開いていたからだ。
「だ、誰ですか……!」
「え、あ、怪しい者じゃ無いです!」
部屋の中から若い女の人の声が聞こえたので俺はつい反射的に答えてしまい、しかも突然話しかけられたせいで怪しさ100%の応答をしてしまう。
暗い部屋の奥から恐る恐ると誰かが此方に近づいているようだ。
反応が有るって事はヴィーボラの支配の魔眼に掛かっていないと言うことか?
「ヴィーボラの手先ですか……? それなら私に近付かないで下さい!」
「いや、俺はむしろヴィーボラの敵で、今奴から逃げてきた所で……あの、貴女は……?」
「私は……ルナリア。ルナリア=スタークです」
暗闇の中で何か迷うような気配を感じる。
反応的にはヴィーボラの味方では無いと思うので、恐らくは奴に宿屋の主の奥さんのように人質か何か捕らえられている人だろう。
暗闇の部屋からその人がゆっくりと出てきた時、一陣の風が吹く。
「うわっ!」
俺はゴミが目に入ってしまうと思い、目を閉じてしまう。
風が緩やかになってきた時、俺はうっすらと目を開けると先程の風の影響で上空の霧が晴れており、月の光がこのバルコニーに差していた。
そして完全に目を開いたとき、目の前には部屋からバルコニーへと出てきた女の人が立っていた。
「……綺麗」
俺は自然と口からそんな言葉が漏れていた。
銀色で、ウェーブのかかった美しい髪が風に吹かれて揺らめいており、月の光をキラキラと反射させている。
髪の色と同じく見たことの無い紫色の瞳で、喜怒哀楽を読み取れない表情で俺を見つめていた。
月の妖精……俺からは到底出ないような言葉が自然と連想される、そんな人だった。
「あっ、あ、あの……!」
俺はそんな美少女を前にし、呂律が回らなくなる。
可愛いじゃなく、美しいと言えるタイプの女の人を目の前にし、俺はガチガチに緊張して目の前がぐるぐると回る。
「――――う」
「え……」
何かルナリアさんが呟いたと思ったらまっすぐとこちらに歩みより、俺の顔を手で軽く引いて自分の方へと向ける。
「あ、あのぅ~? お、俺の顔に何か着いてます……?」
心臓がバクバクと高鳴る。
俺は何でこんなに顔をまじまじと見られているんだ!?
ルナリアさんの顔が徐々に近付いてくるけど、ま、まさかこのままキスなんかされたりして~! な、なんてね!
俺は思わず目をギュッと閉じてしまう。
「ちゅ」
「ッ!? ん!? んー~!」
突然唇に柔らかな感触を感じる。
以前アルストに居たときにユリ姉に貰ったマシュマロってお菓子のような柔らかさ……
俺のギュッと結ばれた唇の形を確かめるように舌で舐めあげられ、ヴィーボラから一撃を貰った時に切れた口の端も舐めとられてピリッとした痛みを感じる。
「むちゅ、れろ、ぷあっ」
「んん……!」
ぴちゃぴちゃとした水音が止み、ようやく唇から柔らかな感触が消える。
時間にすればほんの十秒ちょっとの初めてのキスは俺には永遠に感じる物だった。
※ルナリア=スターク




