第39話 敵・手・認・定
俺達狩人パーティーのフルールドリスは今日ストラーナの村を出る。
休暇をたっぷり取り、湯治で疲れや傷を癒した皆は完全に全快まで至った。
次の目的地は王都で、理由は俺の装備の入手や、アルの呪いや母さんの石化、タマモの封印に関しての情報入手と教会への魔人に関しての報告と言う野暮用だ。
現在ティティが出ていき、宿屋で一人部屋になった俺は出発の準備をしている。
そこでふと数日前の事が気になりタマモに質問してみようと思った。
「タマモ、狐面に魔力が供給され無いと真っ暗な空間に閉じ込められるのか? 俺、そんな所に居たような覚えが有るんだけど」
「そうだ。体験して分かっただろう? あそこにいても疲れはしないが見えない、聞こえない、何も感じない……とても嫌な場所だ。だから私としてはあまり狐面は外されるのは遠慮して欲しい所だ」
「確かにあれはキツイよな……分かった、なるべく外さないようにするよ」
「……所でイズナ、黄緑色の髪の小娘に狐面を外された後、何をしていた?」
「え? それは普通に……あれ?」
そう言えば俺って狐面をティティに外された後って何をしたっけ……?
何か話したような気がするのだが……まるでノイズが掛かったように思い出せない。
「確か……操影に関してのアドバイスを貰った気がする……? その後は俺が眠ったらしくてティティに起こされるまでは村の異変には気が付かなかった……はず」
「…………そうか、なら良い」
確かにティティにアドバイスを貰ってから操影を使えるようになったのは事実だ。
だが、どんな言葉で教えて貰ったのかすっぽりと記憶が抜け落ちている。
まぁ気にしてもしょうがないか。
「所でタマモ、お前って強かったんだな」
「どうした急に?」
「俺さ、今回は普通に勝てると思ってたけど爪が甘かった。タマモが居なかったら全滅の可能性もあったしさ。だから助かったよ。本当にありがとう」
タマモが入れ替わって俺の代わりに戦ったのは数日前に聞いた。
何でも能力によって光を屈折させて相手を撹乱する【幻術】能力と、空気を圧縮して発火させた物質に魔力を込めて放つ大技【狐火】で倒したそうだ。
他にも色々出来ると聞いて、初めてタマモの強さを知った。
「フ、礼には及ばないさ」
「タマモ、俺さ、強くなりたいんだ。だから色々教えてくれないか?」
「……何故だ? あの魔人に負けたからか?」
俺は夢で見た青髪の女の子のセリフを思いだす。
理由なんて単純で良い、だからもっと気楽に強くなれば良い……と。
「それも有るけどさ、俺は男だから、かな……」
「フ、良いだろう。どちらにしろ鍛えようと思っていた所だ。覚悟しろ、お前が出来る限界を見極めるために色々検証するからな。魔力の総量を増やすためにも魔力切れ限界まで毎日しごいてやるぞ。フフフフ……!」
「おう、今度こそバッチリどんな奴でも倒してやるよ!」
「では出発しましょうかイズナさん、ウィルさん」
「俺は準備万端だぜ!」
「うむ。ところでイズナ、本当に武器を貰って良いのか?」
そうそう、俺は兜割をより大型化した武器の兜断をウィルに渡した。
スピーノの戦い武器を失ってしまったウィルの応急措置的なものだ。
「ん? あぁ、俺にはまだ使ってない武器もあるし、暫くは格闘と能力を鍛えようと思うんだ。だから遠慮無く貰ってくれ」
「済まない。恩に着る」
「はは、良いってことよ」
宿に置いといて使えなかったが実は持ってきた武器の中にまだ使っていないものがある。
タマモ曰く母さんの一番の得物だったものだ。
「イズナさん数日前に起きてから機嫌が良いですよね? 何か良いこと有りました?」
「へへ、分かる? いや~あの日ティティと良いことがあってなぁ。俺って今多分……」
「お兄ちゃん!」
モテ期なんだよね、と言おうとすると背後から声を掛けられる。
後ろを振り返ると小さな女の子が一人立っていた。
あれは確か……
「あぁ、あのときアルが庇ってた子じゃないか」
「そうみたいですね」
俺がスピーノと対面した時、アルは一人の小さな女の子を庇っていたが、その女の子は俺達の方へと駆け寄ってくる。
「あのね、あのね! お兄ちゃんに助けて貰ったお礼を言いたくて来たの!」
「ふふ、わざわざそれで一人で来てくれたんですね」
「うん!」
アルは軽くしゃがんで女の子の頭を撫でると女の子は嬉しそうに目をギュッと瞑る。
「お兄ちゃん、お耳貸して!」
「はい、良いですよ?」
どうやらお礼は何かアルに囁くようで、アルに目線を同じ位に屈むようにせがんできた。
アルが女の子に耳を近づけると女の子は顔を近づける。
「チュッ、ありがとう! お兄ちゃんカッコいいから将来はお婿さんにしてあげるね! バイバイ!」
女の子はアルの頬にキスをして走って村の方へと走り去る。
「はは……少しおませさんですね……」
アルは何とも言えない顔で女の子を見送る。
頬にキスされただけでなく求婚もされただと……? こいつ、出来る……!
モテ具合はほんの少しだけ俺が劣っているようだが、今回は引き分けと言うところだろう……多分。
「……ルだ……」
「イズナさん? 何か言いました?」
「お前は好敵手だ! アル!」
「うぇ……!? どういう意味ですか!?」
「うおーっ! とっとと次の場所に行って俺と(モテ具合の)勝負だ! アル!」
「イズナさん!? ちょっと! 先行しないで下さいよぉ!」
「ライバルか。よく分からないが良いことだな。ふむ、頑張ると良い。イズナ、アルよ。」
『この戯けが……頭があったら抱えてるぞ……』
俺らは行く。
目指せ王都へと……道のりはまだ長いが。
「ただいま~」
黄緑色の少女が薄暗い城の中を歩く。
少女は琥珀色の瞳を持ち、起立した一本のアホ毛と背中に生えた蝙蝠のような翼が特徴的だ。
「お帰りなさい」
少女が声をした方を向くとそこには白髪の執事服を着た老人が立っていた。
少女は老人を見るとパァッと弾けるような笑顔を見せる。
「あっ、サドネスさん! 言っていたオンセン良かったよ!」
「それは重畳です。任務の方は達成しましたか?」
老人はまるで孫を可愛がるように表情を和らげて少女の頭を撫でる。
少女もそれを当然の如く受け入れている。
「うん!これからティア様に報告するよ!」
「ほほ、そうですか。ティア様は現在自室に居られますよ。」
「分かったよ! 後はボク、友達が出来たんだ! だからあの娘ともきっと友達になれると思うんだ。またね!」
「えぇ、私もそう思いますよ。さようなら。」
少女は老人から自分達の主の居場所を聞き出して走ると、すぐに主の自室に着く。
「ボクです! 入ります!」
少女は部屋の主の許可も得ずに中に入り、主に向けて笑顔で報告をはじめる。
「――――と言う事だよ! ティア様! 」
「――――――――?」
「うーん、そんな感じはしなかったよ? ただ1000年前の魔人の封印が解けたりしてるから、これから何か起こるかもね」
「――――――――」
「分かったよ! ティア様がそう言うならやってみるよ! ボクに任せて! お友達も出来たし今のボクなら何でも出来る気がするよ!」
主との会話を終わらせ、少女が行く目的地は一つの部屋だった。
しかし、ここは少女の部屋では無い。
少女は勢い良く部屋のドアを開けて中に居た人物へと話し掛ける。
「ただいま、フランチェスカちゃん! 今度こそボクとお友達になってよ!」
「また来たのね……? 魔人……!」
「えへへ、フランチェスカちゃん? ボクの名前はハーティだよ? 気軽にティティと呼んでね!」
それは先日この城に老人が連れてやって来た一人の人間の少女。
灰色の勝ち気な瞳に茶髪の緩いパーマが掛かったロングの髪を持ち、名前はフランチェスカ=シュットラーと言う少女だった。




