第5話 飯と装備と魔力
「ふーさっぱりしたー お、これなんて良さそうだな」
『どうだ? 少しは気が晴れたか?』
俺達は風呂を上がって外に出て、朝飯を確保する為に家の裏にある果実をもいでいた。
俺が今被っている狐面のタマモは意外と俺がへこんでいたのを分かっていてたのか、気遣ってくれたようである。
泣いて、寝て、風呂に入ったことで多少は感情を整理する事が出来たようで、自然と心は落ち着いてた。
「あぁ、母さんは生きてるからな。いつまでもくよくよしてる場合じゃ無いんだよ」
俺は果実にかぶりつく。
赤く熟れていて、甘くシャリシャリとした食感が食欲をそそる。
狐面は口元が無い半面なので、装着しながら食事ができるのだ。
「さて、飯も食い終わったし。母さんが言っていた武器を見てみるか」
『ヨシノが使ってた武器なら私が分かる範囲で説明してやろう』
「あぁ、頼む」
俺達は道具置き場となっている部屋に入った。
まず目に入ったのがやたら派手なミニスカ和服のような装備だ。
ミニスカと言うか短すぎて下着見えるんじゃないだろうか。
何コレ?
『ヨシノが使っていた装備だな。非常に軽くて丈夫らしい』
「嘘だろ母さん……」
次は上下真っ黒な衣装だで、首から上と手足しか露出を許さない素晴らしい装備だな。
しかも丈夫そうなので、これに着替えようと思う。
とりあえず来てみて後でサイズの手直しをしようと思っていると、衣装が体に勝手にサイズがフィットした。
『どうやら魔法か能力を込められた物のようだな。恐らく少しの損傷なら自動的に魔力を吸収して再生するだろうな』
便利だな。
とりあえず身軽に動けるよう他の防具は着けない。
武器は小太刀が二本置かれてる他様々なものがあったが、しかし俺は武器の使い方を知らない。
下手に使用しては怪我をするかも知れないと思い、あえて装備しなかった。
倉庫に置いてあるカバンには水筒と、少しお金が入っている財布が入っていたのでありがたく使わせて貰う。
「よし、街へ行くか」
『対魔ギルドに行くのなら、この森を北に20kmいった先に街がある筈だ』
「おう、分かった」
俺達は家を出発して街へ向かう。その途中俺はタマモに幾つか質問を投げかける。
「なぁタマモ。お前は何故仮面に封印されたんだ?」
『昔少し人間達にイタズラをしていたら一人手を出したらいけない奴の逆鱗に触れてしまってな。それでこの面に封印されてしまったのだよ』
「逆鱗って?」
『内緒だ』
「つまんないの」
『フン、なら私も質問だ。お前は体が女だが心は男だ。お前はどちらに恋愛感情を持つのだ?』
「なんだぁ? その質問……まぁ多分女の子が好きだと思う。まぁ、恋とかしたこと無いから分からないけどな」
『フム、肉体ではなく心が優先されるのだな。面白い』
「はい、じゃあ次の質問。お前は俺が装備されてる時は俺になんか利点があるの?」
『そうだな……よし決めた。お前が鉄仮面とやらに捕まらないように認識阻害を掛けてやる。コレを掛ければお前は私を装備している間は他人から印象を抱きにくくする事が出来る。素晴らしいだろう? ついでに髪の色と目の色を誤魔化してやろう』
タマモがそう言うと俺の髪はみるみる金髪に染まっていく。
瞳の色は見えないが青い色にしたようだ。だが何故か力が抜けていく感覚がする。
「なぁ、俺の力を吸ってないか?タマモ」
『私は魔力を生成出来ないからな。お前の魔力を借りている。これで私に触れている間はお前を誰も黒髪黒目だとは信じないだろうよ』
確かに鉄仮面が俺を見たら一発でバレかねないもんなこの容姿だと。
背に腹は代えられないと言う訳でありがたく変装を受ける。
「なんかこうさ。もっと凄いこと出来ないの?狐面から破壊力抜群の技を放てるようになるとかさ」
『戯け。私は武器では無いのだからそんな事を出来る訳が無いだろうが。……まぁ元の体に私が戻れば出来ない事もないがな』
「つまり、戦闘面では期待するなって事か」
『…………今はな』
タマモは悔しそうに呟く。少し虐めすぎたかな。
少しだけ沈黙の時間が流れる。タマモは何か考えた後に俺に質問を再開する。
『所でイズナよ。お前は魔法か能力を使えるのか?』
「『身体強化』と『操影』だ。だけど影の方は一度勝手に動いただけで、今はまるで動かし方が分からない。魔法は使った事が無いから使えるか知らないな」
『ほう。二重能力保有者か、珍しいな。身体強化だったら少しはアドバイスが出来るぞ』
「本当か! 頼む、教えてくれっ」
少しでも強くなれるなら俺はどんな些細な事でも良いから知りたい。
タマモに懇願すると、そんな俺の姿に満足したのか、ゆっくりと語り出す。
『身体強化だが実は魔力を保有する生物や物体は少なからず肉体が強化されているのだ。さてイズナよ、魔力とはどういうものだと思う?』
「生き物から生まれる力……とか?」
『概ね正解だ。魔力とは生命の営み……つまり流れから生まれる力だ。血の流れ、または目に見えぬほど小さな体の一部が増えたり減ったりする事でエネルギーが……つまりは魔力生まれる』
「死体や石からは魔力は生まれないと言うことか?」
『そうだな、無機物や生命活動をしていない物は蓄積が出来ても生成する事が出来ない』
「だからお前は魔力が生成出来ないのか」
『そう言うことだ。しかし世の中には不思議な精霊や魔物もいるがな。実態がないのに魔力を保有している。これは例外だ。意思を持った魔力の塊として動けるが、実体がないからそのままでは物質に干渉する事が出来ない。だから人形や鎧、はたまた生物や死体にとりついて行動するのだ。グールと呼ばれる動く死体の魔物は生者を喰らうことで魔力を補給していると言われている』
「なるほど。魔力は基本的に体が無いと扱えないのか」
『そしてこの魔力。コイツの面白い所はイメージに沿って力を発揮する事だ』
「どういう事だ?」
『お前は身体強化をするとき、どんなイメージで能力を発動する?』
「なんかこう体の奥から力がぐおーって湧く感じをイメージしているかな。うおー! 身体強化っ! みたいな?」
タマモは喋らない。ヤバい、なんか恥ずかしい。
でもしょうがないじゃないか! 本当にこうなんだからさ!
『そ、そうか……次から身体強化を使うときは状況によって3つ分けて考えろ』
「3つ?」
『そうだ』
タマモがそういった時、前方の草むらが揺れる。
突如現れたそれは自分の身長二倍はありそうな超巨大な猪だった。
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