第4話 涙とタマモと鏡 ※イメージ有り
……母さんに言われた事をしないとな
俺は自然と涙を流していた……とても久しぶりに泣いた気がする。
俺はある日を境に、前世は男だったと自覚があったため、小さい頃から転んだり怪我しても泣くのを我慢していた。
泣くのは男の恥だと思っていたが涙を拭っても拭っても次々涙が溢れてくる。
「くそっ、止まりやがれっ!」
腹いせに地面を殴ると無意識に能力で強化したのか、地下室が少し揺れる。
「そうだよ……俺には力があるんだ……母さんの言うとおり鍛えれば必ず助けられる。俺がやらきゃ誰も母さんを救えない」
嗚咽は止まらないが、少しだけ前向きになれた気がしたので、まずは地下室から出ようと思う。
陣は母さんの居た方との陣の繋がりが断ちきれたのか、光を失っていたので部屋は真っ暗だ。
俺は手探りで階段を発見し、ゆっくり上っていく。
「……扉か?」
ドアノブらしきものに触れたので思いきって捻ってみる。
向こうの家とは違う出入口のようだ。
開けてみると普通の家の中に入り、少し探索してみると埃っぽく無いのに人は居なく、間取り的には俺と母さんが暮らしてた家に似ているようだ。
外を見てみると日が登り初めていた。
日を見たとき俺はどっと疲れが押し寄せて来るような感覚に襲われる。
ほとんど昨日今日の夜は眠れなかったからな……
「少し眠ろう」
寝室と思われる部屋に入り、ベッドに寝転がると窓から日差しが入り眩しく、思わず目を閉じてしまう。
俺は寝ぼけ眼でベッドの横にあった机の上にある何かを顔に被せ眠りに落ちた。
『おい』
何処からか可愛らしい少女のような声が聞こえる。
「うーん、後五分」
『お前、この私を無視か?』
この家には俺しか居ないはずなのでこれは夢だろうから無視だ。
「うるさいなぁ……」
『起きろ! この小娘!』
「誰が小娘だこの野郎!」
男と自覚している俺にとっては小娘とは侮辱の言葉だ。
顔に被せた物を手に取り、回りを見渡す。
あれ?誰も居ない。
『下だ』
俺は言われた通り下を向くが、しかし手に持っている不思議な半面以外変わった物は無い。
って、俺はまさかこんな不気味な半面を被って寝ていたのか……
『その面が私だ』
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」
喋るお面、呪われてるに違いない。
俺は恐怖のあまり、勢い良くお面を投げようとした。
しかし、お面は手から離れない。
何コレ怖っ! 俺は更に半狂乱になって腕を振るう。
『止めんか! ば、馬鹿者! 話を聞かんか!』
あれ? 思ったより話が通じるタイプの呪いの面か?
「分かったから俺から離れてくれ!」
『離れると繋がりが切れて会話が出来ないから無理だ』
「うぅ……良く分からないが分かった。それで、話ってなんだ」
『まずお前は誰だ? 私を被れる人間はそう居ない筈なのだが』
「俺の名前はイズナ」
『イズナ? …………お前はまさかヨシノの娘か?』
ヨシノとは母さんの名前である。それにしてもこの半面のデザイン……これはまさか狐?
「そうだ、確かに俺はヨシノの子供だ。お前が母さんの言っていた狐面なのか?」
『ふーん、なるほどアイツの娘なら波長が合ってもおかしくはないか……所で何故私を被った?』
「実は……」
俺は昨夜起こった事をを説明するがお面は表情など変えないのでコイツが何を思っているのか分からない。
事情を話終えた俺は力を貸すよう頼む。
「と言う訳だ。母さんはお前が力を貸してくれると言っていたんだ。力を貸してくれ」
『断る』
「叩き割るぞ」
狐面は押し黙る…………と言うか絶句だろうか? 少しドン引きされた気がした。
『……タダでは協力しないと言うだけだ』
「条件は?」
『私をこの忌々しい狐面の封印から解放する事だ』
「どうやって解放するんだ?」
『知らん。調べるのも条件の内だ』
知らないのかよ。一から調べるとは難しいだろうがなりふり構ってる場合では無い。
「……分かった。協力するよ」
『クク、契約完了だな』
「所でお前の名前は?」
『タマモ様だ。覚えておくが良い』
「宜しくなタマモ」
『………………むぅ』
こうして俺はタマモの協力を得ることが出来た。
正直一人は心寂しかったので話相手になるだけでも助かる。
「さて、とりあえず風呂でも入るかな」
昨日寝間着のまま大量に汗をかいて体がベトベトだ。
ひとっ風呂浴びてリフレッシュしてから今後について考えていきたい。しかしタマモは俺の手から離れない。
『私も一緒に洗ってくれ』
「お前材質よく分からないけど大丈夫なの?」
『私の面は殺生石と呼ばれる石だ。心配はするな』
「ふーん、なら良いけど」
俺は風呂場に向かう。
そこには何と、鏡が置いてあった。
俺と母さんが住んでいた家には鏡が一個も置いて無かった。
その為俺は自分の顔を見たことが無い。
母さんは可愛いっていつも褒めてくれていたが、それが本当か分からないので、確認のために俺は鏡を覗いてみる。
『おい、無言でどうした?』
「……いい……と」
『何?』
「可愛い……だと……」
鏡の向こうには美少女がいた。
腰まで届く長い濡れ羽色の髪が艶やかに光を跳ね返す。
勝ち気な瞳は黒―――オニキスのような輝きを放っていて、反対に肌は透き通るような白。
陶器のように繊細な滑らかさを持っている。
瑞々しい唇は桜色でまぶたの幅より小さく結ばれており、将来は美人になる事が確定してるような可愛さだ。
「これが俺かよ……」
『お前まさか鏡を見たことが無いのか?』
「なぁタマモ。俺が男だと言ったらお前は信じるか?」
『馬鹿も休み休み言え、と思うな』
「タマモ。実は俺前世は男だったんだ」
『…………契約する相手を間違えたか』
俺は必死に説明して何とか納得して貰う。
『体が女なのにかつ前世の記憶が殆ど無いというのに心は男ということだけを覚えている。なんとも微妙だな……容姿は良いのに難儀な奴だな』
そんな事を話ながら俺らは風呂でさっぱりした。
※イズナ