外伝4話 ユーリが闘う理由は何か
「ユーリ! そっちに魔物が行ったぞ!」
廃城のエントランスホールで今私の目の前から鎧を着た骨の化け物が走って来ている。
私は落ち着いて剣を構えてイメージする。
強い剣の技……やっぱりあれかな? 私は剣を逆手に持って構える。
兄が好きだった漫画の必殺技を真似て振ってみる。
【えい!】
その瞬間体から力がほんの少し抜ける感覚と共に見えない斬撃が飛んで行く。
見えないが、私には何故か分かった。
自分の力が素となっているからかな? 真っ直ぐ飛んだ斬撃が骨の化け物に当たり、当たった箇所が粉々になる。
す、凄いわ私。
「やっぱり手伝って貰って正解だったようですね」
アベルが呟く。
何故私が急に闘える様になったのか。
時間は昨日の夜まで遡る。
「ユーリさん。僕達に力を貸してくれませんか」
【あ、はい】
私は何かをお願いされたのはなんとなく分かったが内容までは分かっていなかった。
「こら、ユーリには言葉が通じないのよ。ユーリと同じように絵で描きなさい」
「そうだったな、俺に任せろ! 良いかユーリ! 俺が絵で説明してやる!」
紙とペンを私から取り上げたフリッツは何かを書きながら喋っている。
「俺らの故郷のこの島が何者かの手によって障壁が張られているんだぜ! その犯人が廃城にいるって俺らは聞いて向かっているんだ! んで、そいつはさっきお前が倒したゴーレムも操っている奴なんだ! 多分! ほら、絵が完成したから見てみろ!」
フリッツが私に絵を見せてくる。……のたうちまわっているミミズかな?
「ちょっとアンタ! 全然分からないじゃない! 何よコレ? まるで無数の蛇だわ! アベル! アンタ絵は描ける?」
「ごめんなさい僕も絵はちょっと……」
「ぐっ……私が描くわよ……」
フランチェスカは角の生えた棒人間が土のような物を捏ねてる絵の横に辛うじて先程のゴーレムと分かる絵を描いて順番に指を差す。
「悪い奴! ゴーレム作った!」
「わははは! お前も下手くそじゃねぇか!」
「うるさい! アンタより何倍もマシよ! ッ~、だから描きたく無かったのよ!」
ゴーレムを作った人がいるのかな? 恐らく理解出来たので頷く。
フランチェスカは引き続き絵を描く。
盾と剣と杖を持った三人の棒人間が角の棒人間を攻撃している絵だ。
それに筆を持った棒人間が描き足される。消去法的に私かな?
「ユーリ! 一緒に戦う!」
フランチェスカは私を指差し、何かを振るうジェスチャーをする。まさか私に戦えって事?
【無理無理無理無理絶対無理!】
首が取れるのではないかという位、首を横に振る。
素人の私なんかが戦えるはずが無い。
しかし、フランチェスカは頭を下げて私に何かを訴えかけてくる。
「お願いユーリ! アンタの力が必要なのよ」
「……まさかユーリさんは自分の力を分かって無いのでは? 少し試したい事が有ります。フリッツ、少し手伝って下さい」
アベルが何かを閃いたように言う。
三人共席を立って、フランチェスカが私の手を引っ張って表に出る。
私が戦うのを諦めてくれたのかな? と考えていたらアベルに剣を手渡された。
え、何のつもり? 剣を受け取って前方を見るとフリッツがアベルに囁かれていた。
話が終わるとフリッツはロングソードを構える。ギョッとした瞬間フリッツは私に襲いか掛かる。
「ユーリ! よく分から無ぇが行くぜ!」
【まさかの実力行使!?】
まさか戦うことを諦めるのを諦めさせるつもり!?
とにかく避けないと! 私は横に大きく避けるイメージをする。
横にステップでかわそうとする。
【ぐえっ!】
私は既視感を感じた。
剣筋から大きく逃れようと横に跳んだら物凄い勢いで横に吹っ飛び、少し離れた場所にあった木に一瞬で衝突する。
痛みはあまり無いが、私は驚愕する。
何が起きたの?
三人がいる方を見てみるとアベルが納得したように頷く。
「やはりあの反応は魔力の使い方を知らないようですね」
「改めて凄まじい身体能力ね。身体強化の能力の一種かしら?」
「ただ魔力が馬鹿みてぇにあってもあんな動きは出来ないと思うぜ。多分そうだろ」
どうやらフリッツに吹き飛ばされた訳では無いようだ。
フリッツが私を手招きして呼ぶ。
「おーいユーリ!悪かったって。一旦こっちに来いよ!」
私は三人の元に歩く。そうするとフリッツは私に『待て』の合図をして近くに有った木まで歩いていく。
「ユーリ。力の使い方を見せてやるよ」
フリッツはおもむろに木に剣を振るう。
幹の1/5まで剣が進むがそれ以上は進まない。
剣を引き抜き私の方を見てフリッツは自分の頭を指差す。
頭?何かを伝えたいのかな?
次にフリッツは目を瞑り集中し始めた。
そして目を見開いた瞬間に剣を振るう。
先程とは段違いの速さで剣が振るわれ、なんと木が斬り倒されてしまった。
その行程を二回繰り返された所で私は閃く。
頭、集中、この二つのワードで私が導きだしたのは、頭でイメージして行動しろと伝えたいのでは無いか、ということだ。
試しに私は剣を構えてやってみたかった漫画の技をイメージする。
高速で移動して相手を切りつける技だが……出来た、いや出来てしまった。
一瞬で視線上にあった木を通りすぎて行き、私は木の遥か前方にいる。
振り返って後ろを見ると、遅れて木が倒れる。
私は倒れた木に近付いて見てみると木は綺麗な断面をしていて、とても切れ味の良いもので切られたみたいになっていた。
こ、これを私が?
木を切った時は熱したバターナイフでバターを切るがごとく、まるで抵抗を感じなかった。
「やるじゃねぇかユーリ!」
フリッツは嬉しそうに私のもとにに近づて来ており、遅れてフランチェスカとアベルもやって来る。
剣を握って俯く私。
お兄ちゃんだったらここで魔物討伐を引き受けるのかな……私は少し考える。
あのお兄ちゃんの事だ、お兄ちゃんは力が有っても無くてもお人好しだしこの三人に必ず協力するだろう。
分かったわ、旅は道連れ世は情けって言うし、やってやろうじゃない!
私は三人の方を向き、私の気持ちを告げる事にした。
【私も闘うわ! こうなったらドラゴンでもゴーレムでも掛かって来なさい!】
因みにこの後私の宣言は三人には言葉が伝わって居なかったので、絵にして伝えた。
そんなことがあり、私達は今、廃城のエントランスホールで闘っていた。
私のゲーム知識で言うならスケルトンやオーク、ゴーレムと言った様々な化け物を倒して行き、敵の数を減らしていく。
最初は埋め尽くすようにいた魔物も私が想像した技をぶっぱなす事で、何とか殆ど倒すことが出来た。
そのまま魔物も倒しながら駆け抜けていき、私達はとうとう廃城の奥までたどり着いた。
その奥には一人の執事服を着た白髪で男性の老人が立っていた。こんな奥に老人? 何故?
「ようこそおいでなさいました勇敢な戦士の御一行様。私は【魔王】ティア=ドロップ様の配下、サドネスと申します」
魔王。この言葉だけは私にも日本語で伝わった。
そう、これが私達を闘いの渦へと巻き込む始まりの一戦が今、始まろうとしている。




