第21話 覚悟するB/少女はやがて……
アル視点です。
『お前じゃ無理だ』『お前達のせいで!』『死ね』『消えろ』『滅べぇ』『誰もお前の事なんて見ていない』『誰もお前を救えない……』『どうせお前なんて……』『死ね!』『折角死にそうだったのに惜しいことを……』
僕には物心がついたときからずっと恨み言や僕を絶望させようとする声がいつも聞こえる。
コレの正体がウィルさんが言っていた【呪い】とは知らなかった。
呪いを掛けられた理由もおおよそ検討がついた。
しかし、何故僕だけに?
僕の生まれた家は様々な人に祝福され、または恨まれる存在だった。
でもこの【呪い】に掛かったのは僕だけだった。
症状を家族に訴えても「分かった。お前は何もしなくて良い」と言われ、僕は自分の部屋に閉じ込められる毎日に変わっただけだった。
僕はそんな自分の家が嫌いで家出し、憧れだった狩人になったんだ。
でも現実は甘くない……最初は笑顔で許してくれるが使えないと分かると皆すぐに僕を捨てる。
一番酷かったのは危険な魔物がいる山で置いてけぼりにされた事かな。
自分が悪いから恨んではないが。
そんな苦難も乗り越えて色々な場所に行ったが結局一人だって僕と同じ人は居なかった。
「ギルドマスター! 南側の壁外にもアースクロウラーが現れました!」
走ってギルドにたどり着いた僕は急いで報告を行う。
「何だと! まさかアースクロウラーは四匹もいるとは……」
「……どういう事でしょうかマスター?」
聞き捨てならないセリフを聞いた気がする。
僕は焦る気持ちを抑えて努めて冷静になろうとする。
「今北側に二匹目と三匹目のアースクロウラーが現れたのだ。南門の君達を除き、殆どのギルドメンバーがそちらの対処を行っている。つまり、今現在応援に向かえる人が居ないという訳だ」
「なっ、それじゃあイズナさん達は!」
「まさか交戦中なのか!?」
マスターは慌てたように言う。
まさかランクの低いルーキーがアースクロウラーに手を出すと思わなかったのだろう。
「はい、現在イズナさんとウィルさんで交戦中の筈です。街壁から僅か500m程しか離れて居ない場所に出現したので」
「くっ、君はここで待っていたまえ!どうにか何人かの応援をよ寄越す! ルーキーの君にはアースクロウラーは荷が重いだろう!」
僕は思わずホッとする。
そうかあの魔物と戦わなくて良いんだと……
〝俺だって怖いさ〟
急にイズナさんが言っていた言葉を思い出す。
〝なぁアル。お前って目標とか目的、守りたい物とかって無いのか〟
〝自分が空っぽや薄っぺらい人間だと思うなら今から目標やら守りたい物を見つければ良いだろ?どんな下らない事でも良いんだ〟
僕が憧れた狩人とはなんだったのか、それを少しだけ思い出した気がしたんだ。
僕は男だ、あんな僕と背丈が変わらない少女に見本を見せられてこのまま引き下がるのか?
僕はいつも通り何も変われないのか?
いや違う。
ただ変わろうとしてこなかっただけだ。
受け身では変われない、そして言えば引き下がれない。
そう、だからこそ言うんだ。
「マスター待ってください!」
僕はマスターを呼び止める。
急いでいるはずのマスターは僕の言葉に止まって、怒る様子もなくこちらに振り返る。
「なんだね?」
僕は勇気を振り絞る。
ここで決めなきゃ男が廃る! 僕だって男なんだ!
「イズナさんが言っていたんです。目標や目的、守りたいものが有れば人は強くなれると……」
『止めろ』『無理だ』『お前には出来ない!』
うるさい、お前らの声なんて聞かない。
僕は、僕は!
「僕はイズナさん達の加勢に行きます! 僕は目標を見つけました! あの人の隣で胸を張って立ちたいんです!」
マスターは嫌そうな顔を一切せずに僕の話を聞いてくれる。
「守りたいものはまだ見つかって無いですけど、僕は、僕の目標の為に強くなりたい! だから、僕は行きます!」
「……君のランクは……まぁ良い。加勢に行って、なんなら倒してきたまえ。……これは独り言だが、イズナ君は放浪者になりたいそうだ」
「はい、ありがとうございます!」
僕は駆け出す。
イズナさん達の元へ体がいつもより軽い。
今ならやれる気がする。
不思議と今は呪いの声が聞こえなかった。
アルが居なくなった後に一人になったマスターは呟く。
「守りたい者ならもう見つかっているのではないかね? 全く、ユリィと言い色々な人を誑して……イズナ君は将来は悪女だな」
一体のアースクロウラーが既に切り捨てられているが、ウィルさんはハルバードを構え、全身が傷だらけになっている。
僕はウィルさんに近づき状況を聞く。
「ウィルさん! この状況は!?」
「戻ってきたのかアル。二体目だ……しかも戦いかたを学び、地面から強襲してくる。イズナはそいつに飲み込まれた。速く助けなければ奴は……」
イズナさんが……? 速く助けなければ!
昔アースクロウラーについて魔物図鑑で見た気がする。
思い出せ!奴の弱点を。
確か……
「ウィルさん、僕が全力で魔法を使います。離れていて下さい!」
「何か考えが有るようだな。分かった」
アースクロウラーは確か音に反応して獲物を探知する生態だ。
僕は走ってアースクロウラーに居場所を伝える。かかれ!
「アル! 来るぞ!」
ウィルさんが僕の考えを読み取ったみたいで、合図を送ってくれた。
僕は急いで横に跳ぶ。
その瞬間僕が先程まで立っていた地面からアースクロウラーが飛び出る。今だ!
「炎よ!敵を包み込め!炎柱!」
出来た! 今まで発動しなかった魔法が!
小さな火の玉が杖の先から出てアースクロウラーに当たる。
その瞬間アースクロウラーは炎の柱に包み込まれる。
そう、アースクロウラーの弱点とは極度の熱の変化に耐えられない、つまりは炎に滅法弱い!
「ギシァアァァァッッ!?」
断末魔をあげ、倒れるアースクロウラー。
ウィルさんは急いで【魔力視】を使ってイズナさんの位置を探ってハルバードで切りつけて出口を作り出す。
「【鉄壁】が切れる! アッチー! 水! 水!」
服の至るところがぼろぼろなイズナさんが胃酸と熱でジュージューと音を立てながら出てきた。
どうやら狙い通りアースクロウラーの胃酸で守られていたようだ。
アースクロウラーの歯でやられたのでは無いかと心配でしたが無事だったのですね!
「ウォーターボール!」
僕の魔法で洗い流す。
イズナさんはビックリしながらも僕の魔法を浴びる。
水が流れた後のイズナさんはとても嬉しそうだ。
「本気で死ぬかと思った~ってか、アル! お前魔法を使えるようになったんだな!」
「貴方のお陰ですよイズナさん」
「……? 良く分からないけど良かったな! 呪いが解けたのか?」
「いや、どうやら少しだけ解けたようだ。アルにまとわりついている黒い魔力が少し減っている」
ウィルさんが【魔力視】で確認してくれたようだ。
そうか、これが呪いを解く方法なのか。
今理解した、僕は変われるんだ、この人達となら。
「イズナさん。僕をパーティーに入れてくれませんか? 僕の目的は強くなってこの呪いを全て解くことです」
イズナさんは面で口元しか見えないが恐らく満面の笑みをしている。
手を差しのべて来たので握り返して握手する。
「勿論! 宜しくな」
その時、カランと音を立てて何かが落ちた。
気になって地面を見ると紐が切れたイズナさんの狐面だ。
服みたいにアースクロウラーの胃酸に触れて溶けてしまったのだろうか?
「あ、やべ」
「どうかしまっ……!」
「む? これは意外な……」
イズナさんが何か呟いたので再度顔を見るとそこには黒髪黒目の絶世の美少女が満面の笑みを固めて立っていた。
遥か上空から見る少女は笑う。
少女は普通の人間では無い。
蝙蝠のような羽が生えており、それを使い飛んでいる。
「へー。アースクロウラーをあれだけ放しても全部倒せるんだ。ショボい人達しか居ないと思ってたから意外だなぁ。それに面白そうな娘も見つけちゃった。お友達になれるかなぁ? えへ、ティア様に報告しよーおっと」
少女はやがて飛んでいく。
大陸の一つ、魔大陸と呼ばれる魔人族の楽園へ。
二章はこれで終わりです。幕間とか挟んで行きたいと思います。




