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狐面は伊達じゃ無い!  作者: 遮二無二
2章 集結!二人の男!
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第19話 魔法が使えぬR/襲来する巨蟲

「ウィルさん、その呪いとは一体何ですか!」


 席を立ち上がりウィルに迫るアル。

 呪いなんて言葉は俺も初めて聞いた。

 魔法が使えない理由に関わるならこんなに必死になるアルの気持ちもよく分かる。


「呪いとは、人の怨念や強い感情が魔力に影響を与えて形になる物だ。対象に取りついた呪いはまるで能力のように様々な力をもたらす。しかし、本人には望まぬ方向でな。俺の能力は【魔力視】。目に見えぬ魔力を一時的だが目に写すことが出来る物だ。今のお前にはこの酒場を埋め尽くす程の膨大な黒い魔力に囚われている。以前俺の村でも一人だけ呪いに冒されている人物が居た。父に話を聞いてみるとそれは呪いだと教えられたのだ」

「その人は……どうなりました?」

「死んだ。魔力を呪いに喰われ続けてな、衰弱死だ」

「……何か呪いを解く方法は無いんですか?」

「分からなかった。だから救えなかった。しかし不思議だ。お前の呪いとは数が違いすぎる。何故今まで生きていられたのだ?」

「【魔力視】なら分かるでしょう……僕の魔力が人間離れしていると……」

「そうか」


 ウィルの希望もへったくれもないような言い方に俺はカチンと来た。


「ウィル!お前もっと言い方ってもんがあるだろう!」

「良いんですイズナさん。この情報だけでもここに来た価値が有りました。理由が分かればまだ何とかなりますよ!」


 そんな泣きそうな顔で言うなよ……やっぱり何かの縁だ……こいつも俺達と……


「なぁアル、お前が良ければ俺達と……っ! うおっ!」


 俺のセリフの途中で地面が揺れる。


「魔物だー!! 魔物が北の外壁から少し離れた所に出たぞー!!」


 街を駆け回る門番がそう叫んでいた。

 立て続けにカランカランと大きな鐘の音が響いた。

 これは対魔ギルド緊急召集用の鐘の音! 俺とアルはこの音の意味を知っていたので顔を見合わせる。


「アル、ウィル、ギルドに行くぞ!」

「どうやら緊急事態の用だな」

「はい、行きましょう!」


 俺達は急いでギルドまで走る。

 建物に入るとギルドメンバーの殆どが揃っていた。

 ギルドマスターのガストさんは俺達の姿を確認すると話始める。


「イズナ君達が来たか、ならばこれで全員揃ったな。ギルドメンバー諸君に伝令する! 街の北側に巨大な虫型の魔物が現れた! 私が聞いた見た目の特徴でこれを【アースクロウラー】と認定する!」


 アースクロウラーという単語が出るとギルド内はざわざわとし始める。


「この大陸には居ないんじゃねぇか?」「アースクロウラーって昔村を一匹で壊滅させたとか言うあれか?」「15m位の長さって聞いたぞ」


 そんなにヤバい魔物なのか。

 しかしそんな危険な奴なら速く倒さなければいつかこの街にも牙を向くかもしれない。


「静粛に。幸い一匹しか現れて居ないのでこれを今から討伐に出る!ランクが(シュー)以上の者で、一部を街に残しそれ以外の全員で討伐に向かう!既に一部の狩人は戦闘を開始している。準備が出来次第、すぐに向かえ!」


 くっ、俺達のランクは、アルは知らないが恐らく全員(シュー)以下だ。

 ここで全員で魔物討伐に出て南側から魔物が攻めて来たら目も当てられない。

 力になれなくて悔しいがここは大人しく街の防衛に務めよう。


「イズナ君とマクスウェル君と……君は確か今日アルストに来ていたデジール君だね?君たちは街壁の南側で警戒してくれたまえ。済まないが人手不足だからしっかり頼む。私はこのギルドで指示を飛ばす。何かあれば必ず来るように」


 ガストさんはそう告げて別の班に指示をしに離れる。

 次にユリィさんがこちらに駆け寄ってくる。

 顔は心配そうに眉を潜めている。そしてぎこちない笑顔で俺に話し掛ける。


「イズナちゃん、安心してね。向こうではお父さんがもう闘っているから直ぐに終わるわよ。気負わずに防衛していてね」


 悔しそうな顔が不安そうに見えたのだろう。

 やはり優しい人だな。

 自分だって不安なのに俺を安心させようとするなんて……俺は笑顔を作り、安心されるように言う。


「ありがとうユリ姉。大丈夫、オリヴァーさんは虫けらなんかに負けないよ」

「っ! そうよね……私のお父さんだもんね! イズナちゃん全部終わったらパーティーをしましょ! だから、イズナちゃんも怪我無く帰って来てね!」

「うん、だから行ってくる! 行こう、ウィル、アル!」

「うむ」

「……はい!」


 こうして街の南街壁の上にたどり着いた。

 上から見た感じでは魔物一匹も居ないので、これなら楽勝そうだ。

 しかしアルは浮かない顔をして立っていたので、俺はそんなアルの様子が気になり声を掛ける。


「アル、大丈夫か、気にしているのはさっきの話か?」


 呪いの話で落ち込んでいると思っていた俺は遠回しに聞いてみる。


「……違いますよ。情けない話ですけど怖いんです。アースクロウラーは15mを超えるような非常に大きな虫の魔物なんですよ。しかもこいつは肉食で人なんかも丸飲みに出来ちゃうほど危険な魔物なんです。もし、自分が闘うと思うとその、震えてしまって……イズナさんは怖くないんですか?」


 アルの手を見ると手先が震えていた。


「そんな事か……俺だって怖いよそんな大きな魔物」

「だったら何で……」

「なぁアル。お前って目標とか目的、守りたい物とかって無いのか?」

「……僕はただ狩人になりたかった。僕にはそれしか無かったんです。あえて目的と言うのなら呪いの解除ですかね……それが何か?」

「そうだな……俺には目標も有るし叶えたい目的も有る。そして守りたいのはここだ」


 俺は指を下に向けて指す。

 ここには色々と世話になったし、良い人も沢山居る。

 俺はここが帰る場所だと今は思っている。

 だから俺はここを守るために震えている場合じゃないんだ。


「だから貴方は心が強いのですね……でも僕には……」

「自分が空っぽや薄っぺらい人間だと思うなら今から目標やら守りたい物を見つければ良いだろ? どんな下らない事でも良いんだ。それこそ女の子にモテたい! とかでもな。それに命を掛けれるのが真の男だよ。俺も女の子にモテたいしな」


 アルは苦笑いをする。

 少しは元気が出たようだ。


「はは、口調と言い、考えと言い僕より男らしいですね」

「へへ、やっと分かるやつが出たか。そう、俺は男なんだよ」


 きょとんとしたアルが俺に話しかけてくる。


「それってどういうい…………」


 その瞬間地面が揺れる。

 今までで一番でかいぞ!


「来る!」


 ウィルが急に叫ぶ。

 その瞬間、門からわずか500mも離れていない所の地面が爆発した。


「ギシャッー!!」


 土に汚れた手足が無い白い体に土の中で暮らす内に退化したのか存在しない目。

 そして何よりも恐ろしいのは口を開けると口中にびっしりと何列も着いた恐ろしい歯を持つ虫の魔物、アースクロウラーが地面から現れたのだ。

アースクロウラーの口のなかのイメージはオサガメと呼ばれる亀の口の中のイメージです。

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