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狐面は伊達じゃ無い!  作者: 遮二無二
1章 開幕!俺!
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第2話 俺と母さんと鉄仮面

 俺の名前はイズナ。10歳の女の子だ。突然だか俺には前世の記憶がある。と言っても自分が男だったという淡い記憶だ。

 その為、物心がついた頃から自分がどうも女の子として暮らすのがしっくりと来なく、男の子の様に日々を過ごしていた。

 唯一の肉親である母さんはそんな俺に嫌な顔をしないが、女の子らしく生活させようと然り気無い気遣いを端々に感じるので、母さんの前では言葉遣いを気をつけて、髪を自分の好みの長さに切らないようにしている。

 俺はベリーショートカットが良いのだが、多分やったら母さんは泣く。


 今、俺は母さんと森で魔物狩りをしている。狩りと言っても弓や罠を使用していない。ならどうやって狩りをしているか?答えは走って殴るか刃物で切るかである。


 俺と母さんは森の中を凄まじい速度で走り、マデジカと呼ばれる草食の魔物を追い込んでいた。


「イズナちゃんそっちに行ったわよ!」


 マデジカは突破しやすそうな小さい俺に目掛けて走ってきた。マデジカには湾曲した長い角が生えており、刺されば大人でも重症を免れないだろう。


「任せてお母さん!」


 俺は正面にマデジカを見据え、交差する瞬間に()を込めてアッパーカットを繰り出した。


 マデジカの首がボキッと音がすると共に進行方向とは逆に首が縦に振り向き、その場で力無げに倒れた。所謂ワンパンである。


「やったぜ……やったわ」


 つい男言葉が出てしまった為、急いで言い直す。


 母さんが近づいてくる。


「やっぱり私と同じ身体強化の能力なのね」


 この世には二種類の人間がいる。特殊な能力や魔法を使う力を持つ人間と持たない人間。

 俺と母さんは前者で肉体強化の能力らしい。この能力を使うと俺は疲れるのだが母さんは「それは魔力を使っているからよ」と言っていた。

 能力には使用すると様々な代償を要求されるらしい。俺と母さんは魔力と呼ばれるエネルギーを体内から消費して爆発的に身体能力を上げる事が出来るのだ。

 因みに母さんは少し本気を出すと岩を簡単に千切る程だ。砕くでは無いく千切るのだ、葉っぱみたいに。

 一度母さんを割りと本気で怒らせて目の前でやられたときは少しチビった。


「やっぱり私の娘ね」


 そういって頭を撫でられた。母さん曰く能力は子供に遺伝しやすいようだ。


「お父さんは無能力者だったの?」

「いいえ、立派な能力を持っていたわ……」


 父さんの話はあまり母さんが良い顔をしない。嫌な雰囲気になる前に話を切り替える。


「今日は久しぶりのお肉だね」

「そうね、ステーキにでもしようかしらね」


 母さんは笑顔が一番似合う。父さんの話は母さんが語ってくれるまで聞くのはよそう。マデジカを母さんが抱え、二人で山奥にある一軒の木造の家へと帰路についた。


「イズナちゃんが12歳になったら一緒に対魔ギルドに入りましょうか」


 夕食時、母さんが俺に提案をしてきた。


「対魔ギルドって?」

「悪い魔物を懲らしめたり街を守ったりする立派な仕事よ。お母さんはそこで遠征組として冒険しながら魔物を狩っていたわ。そこでお父さんとも出会ったのよ」


 どこか懐かしむような表情で語る母さん。


「なんで12歳なの?」

「ギルドの規則よ。成人として認められる12歳からじゃないと入れないのよ。だから後二年はお母さんが直々に修行をつけてあげるわ」

「本当に!?」


 母さんは一年前能力に目覚めた俺が修行をつけてほしいとお願いしても断られてしまったのだ。

 しかも使用禁止令まで出された。内緒で使ってたけど……。


「ええ、本当よ。一緒に冒険しましょうね」

「よっしゃー! ……あっ、言葉遣い」

「ふふ、それも鍛えてあげるわ」


 母さんは俺の女の子教育も本腰を入れるようだ。前途多難だなぁ……


「今日は早く寝ましょう? 明日から本格的に色々始めるわよ」


 明日から大変そうだが楽しみだ。ベッドの中でそんな事を考えていると気がついたら俺は眠っていた。




 突然俺は目覚める。嫌な夢でも見たのだろうか?体中が汗で濡れていて非常に不快だ。

 ふと気になって母さんが寝ているベッドを覗くが居ない。

 トイレだろうか? 嫌な予感がした俺はトイレの方まで母さんの姿を確認しに行った。しかしここにも居ない。

 その時外から物音が聞こえた気がした。

 少し離れた場所のようなので俺は家からこっそり抜け出し、物音がした方へと走る。


 岩の陰から覗くと、そこには二人の人が居た。

 一人は母さんだ。

 もう一人は誰だろうか? ローブをしていて体のシルエットがよく分からない。

 その時、雲の隙間から漏れる月の光が、二人を照らした。謎の人物は剣を持った鉄仮面をしていて何とも不気味な存在だ。


 母さんは何故かそいつの前で脇腹を抑え跪いていた。

 いや、良くみると母さんは傷だらけで更に脇腹から出血している。

 鉄仮面は敵だと咄嗟に判断したが、あの手刀で薪割りするような母さんがやられたのだから俺はもっと歯が立たないだろう。

 音を立てずに鉄仮面の裏に回った時に、鉄仮面は母さんに向けて剣を振り上げた。


「止めろこの野郎!」

「ッ!?」


 身体強化の能力を全力で使う意気込みで飛び蹴りをかました。鉄仮面は後ろからの攻撃に対応出来ず体を逆くの字にふっ飛ぶ。


「サクラ!逃げなさい!貴方じゃ敵わないわ!」


 サクラ?俺の事だろうか。どうして急に母さんは偽名を?


「フフフ……サクラ様ですか。良い名前ですねぇ」


 くぐもっていて更に男とも女ともとれる声が聞こえる。


 鉄仮面が何事もなく起き上がっていたのだ。

 魔物の首を簡単にへし折るような身体能力の蹴りを不意討ちで受けてピンピンしてやがる。


「貴方様は使えるでしょうねぇ」

「何者だお前」

「貴方を迎えに来たものです……よ!」


 鉄仮面が突然俺の前に現れ腹に強烈な一撃を貰った。

 呼吸のタイミングを読まれ、力が抜けていたときに食らったので身体強化しているとは言え呼吸が出来ない位痛いし苦しい。


「サクラ!」

「あがっ、う、おぇ」


 その場で俺は踞る。嗚咽すらうまく出せない。


「お母様の方は用済みですので消えて貰いますねぇ」

「サクラ! 私は良いから置いて逃げなさい!」

「や……めろ」


 鉄仮面はゆっくり母さんに近づいて行く。しかし俺はまだうまく呼吸が出来ない。能力も発動出来ないうえ、このままでは母さんが殺されてしまう。


「止め……てくれ」

「さようなら。娘さんは有効活用させて貰いますよ」

「止めろーっ!」


 鉄仮面は無情にも剣を振り下ろした。

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