第15話 初めてのF/アルストの人々
「……狩人とはなんだ?」
え、狩人知らないのかよ。
てっきり俺は常識だと思っていたので自信ありげに言ったのが馬鹿みたいじゃないか。
俺は少しだけ恥ずかしくなり、ほんの少し赤くなった顔で対魔ギルドと狩人について説明する。
「ま、簡単に言えば魔物に対する組合があって、魔物からの驚異から街や村を防衛を専門するのが守り人。逆に街の外で魔物を討伐するのが狩人だ。まぁ俺が拠点にしてる街では皆兼任でやってるけどな。そして俺が目指してるのは旅をしながら魔物を狩る渡りの狩人、放浪者だ」
「ほう……つまり狩人は俺の村に居た戦士と同じ訳か」
「同じ様な役割は有るわけか。てっきり俺はどんな街や村でも対魔ギルドはあると思ってたよ」
「……俺の村は強者が多かったからな。必要無かったのだろう。所でイズナは何故放浪者を目指す?」
「……まぁ俺にも目的があってバイアロス大陸を目指してるんだよ。それに仲間が居ないと俺は放浪者になれなくてな。正直ウィルが仲間になってくれると助かる」
俺の目的である母さんの事は伏せておく。
別に今全てを話す必要は無いだろう。
タマモにとやかく言われそうだしな。
「分かった。理に適っているし、命を助けて貰った礼だ。可能な限りでお前の力になろう」
「本当か! 初めての仲間だぜ! じゃあ飯食い終わったらアルストの街に向かおうぜ!」
こうしてパーティーを組む約束をした俺らはウィルの対魔ギルド登録しに早速対魔ギルドに向かうことにした。
そしてアルストに向かう道中で気になった事を聞く。
「ウィルって何か能力とか使えるのか? 見たところ身体強化とかか?」
「能力? ……あぁ【才】の事か。これは魔力による強化の範囲内だ。個人差があるからその能力に見える場合があるが俺のは違う。ただ肉体鍛えられているからより速く、より強くなっているだけだ」
【才】か。大陸によってニュアンスが違うのかな? それにしてもこの走る速さで能力ではないとは驚きだ。俺もムキムキになったら強くなれるのだろうか。ウィルみたいな筋肉目指して鍛練有るのみだな。
『……今何か良からぬ考えをしなかったか?』
はて? 何の事だろうか? 俺は悪巧みなんかしてないぞ。
筋肉こそパワー、これは男なら当たり前だろう。
「イズナ、待て。落とし穴がある」
「えっ、なんだってウィル? うわっ!」
魔の森を走っていると足元に直径と深さ共に1m程の穴有ったので俺はジャンプして穴を飛び越える。
危ないじゃないか。
昨日の大嵐で土が崩れたのか?
「怪我は無いか?」
「お、おう。何とかな。しかし何でここに落とし穴が?」
「何者かが掘ったのだろうか? ここにそんな習性がある魔物は居るのか?」
現場検証って奴だな。
実は狩人にもこの手の検証は重要だ。
正体不明の魔物の情報を割り出したりな。
ウィルは狩人向いてるかもな。
「確かヒュージボアが土を掘り返すけどここまで深くは掘らないと思うぞ。掘るとしたら超大物だな。体長が昔俺が倒したやつの二倍位有ったりしてな」
「しかしそんな大物なら周囲に足跡が無いのはおかしいな」
と言うか掘り返した土も見つからない。
陥没したっていうのが正解なんだろうか。
ここは一旦切り上げよう。
「まぁ魔物じゃないかもしれないだろ。とりあえず街に行こうぜ」
「そうだな。ここで時間を消費するのも少し勿体無い。先を急ごう」
俺らはそれから走り続け、魔物に出会うこと無くアルスト城壁の南門までたどり着いた。
お、今日は特に顔見知りの門番が努めている。
「ケヴィンお疲れ!」
「イズナ……お前また変なの持ってきたり、連れ込んだりして……お前の後ろにいるピッチピチの服を着た怪しい男は誰だよ……」
アルストで初めて出会った門番ケヴィン。
若くて真面目で良いやつだが、いつも俺が色々な魔物を担いで来る度に魔物の襲来と間違えるせっかちな奴だ。
「コイツはウィル。狩人志望だ。遭難していた所拾ったんだ」
「拾ったってお前……ペットみたいに言うなよ。そう言うことなら入って良いぞ。ようこそアルストへ……」
ケヴィンはお腹を押さえていた。
胃痛かな?若いのにかわいそうだな。
一体何が原因なんだろうな。
俺達は街を歩くと、会う人々は俺に話し掛けてくる。
「イズナちゃん、また面白いの持ってきたねぇ!」
「肉屋のおっちゃん! 今日は魔物じゃないから肉は卸さないぞ!」
「イズナ! そろそろ防具の一つでも買ってけよ!」
「鍛冶屋さん、当たらなければどうと言うこと無いぜ!」
「フン、イズナ。何だその男は」
「頑固ジジイまだ生きてたのか! 仲間だ!」
「ペチャパイ女! 勝負しろ!」
「………………」
「おい!無視すんなイズナ!」
「あ、俺? おいクソガキ大将、何度言ったら分かる? 俺は男の中の男だ。勝負して欲しければまずはお前が憧れている狩人になるんだなぁ。んー?」
「クソ! 覚えてやがれ!」
「おとといきやがれ!」
ガキ大将が走り去った後も色々な人から声を掛けられるので挨拶しながらギルドに向かう。
そうしているとウィルが何かを含むように喋りかけてくる。
「……イズナは街の皆と親しいのだな」
「ん? まぁ街の人が人柄良いからな。ウィルもすぐに仲良くなれるさ」
「……そうか」
何故か少し暗い顔をするウィル。
一体何を考えているのだろうか。
そんな事を考えていたら。対魔ギルドまでたどり着いた。
「ごくり。よし、入るぞ」
「いや、イズナ。何故お前が緊張する。ここには通いなれているのだろう?」
「すぐに分かるさ」
「……?」
ギルドの扉を開き中に入る。
よし、挨拶しよう。
「こんにち―――「イーズーナーちゃーん!!」――グハッ!」
俺が挨拶する前に正面から抱き付きと言う名のタックルを食らう。
普段の状態も身体強化で大人顔負けに力が強化されている体を押し倒すなんて。
日に日に強くなっていなかこの人?
「2日振りね!今日もサイドテールが可愛いわ!」
「は、離れてくれユリィさん」
毎度胸が当たってるんだよ。
嬉しいけど恥ずかしさが勝ってしまう。
「こら、イズナちゃん。呼び方はユリ姉でしょ」
俺が緊張していたのはこの人を警戒してだ。
俺の面の下の素顔を知り、色々と脅迫して髪型を変える、呼び名を強制させるなど色々好き勝手にして、日に日にボディタッチが激しくなる自由奔放美人名物ギルド受付嬢ユリィ=サディストリ。
その人が俺を押し倒し、頬擦りをしていた。




