第14話 アイアンハートのM/一つの提案
「俺の名はウィリアム=マクスウェル。遭難者だ」
「あぁ、見りゃ分かる」
「………………」
あ、思わず会話を終わらせてしまった。
だって服装が腰布1枚で浜辺に倒れてんだもん! そりゃ遭難者だって分かるよ!
これで遭難者じゃないならただの変態だよ!
マクスウェルの特徴を見てみると髪の毛は赤錆色で適当に切れ味の悪い物で切っているのか、そこまで伸びきって無いがボサボサ。
髭は殆ど伸びっぱなしで、瞳は切れ長で緑っぽい色をしている。
身長は座っていて分かり辛いが、180cm位は有りそうだな。
そして特徴は筋肉。
俺が理想とする良い筋肉の着き方だ。
体幹が適度に着いていて、所謂無駄の無い筋肉的な?
そして特徴的な金のバングルを右の二の腕に取り付けている。
そうして俺がじろじろ見ているとマクスウェルが話し掛けてくる。
「…………すまないがここは何処だ?」
「え? えーと確かアーネスト大陸の南西部の端っこの浜辺だったかな?」
俺はあまり地理には詳しく無い。
確か四大大陸と呼ばれる4つの大陸を地図で広げて見れば左下にある大陸だったかな?
左上がビトレイアル大陸、右下が俺が目的とするバイアロス大陸だ。右上は……何だっけ……?
「何……?そ んなとこに俺は流れてきたのか。しかし、大陸にこれたのは光明か……」
「マクスウェルは何処から来たんだ?」
「俺は……バイアロス大陸に近い所だ。所ですまないが……何か食べる物は無いか?」
グーとマクスウェルのお腹が鳴る。
それよりもバイアロス大陸に近い所か! 何かバイアロス大陸についての話が聞けそうだな!
「とりあえず俺の弁当食べなよ。そして俺の家で話を聞かせてくれよ」
「あぁ、何から何まですまない、助かる。……うむ、久しぶりに美味い手料理を食った気がする……」
「へへへ、そうだろ?」
結構自信作だからなその弁当は。
一瞬で弁当を食べ終わったマクスウェルが立ち上がる。
お、やっぱり身長が結構デカいな、筋肉もついてるし結構強そうだ。
歩いて移動しようとするとマクスウェルは走りながらでも構わないと言った。
履き物もしていないから辛いのでは? と聞き返すと問題無いと返ってきた。
軽く【疾風】を掛けて走っても問題無く着いてくる。
まさか、コイツも身体強化の使い手なのだろうか。
そして魔物に遭遇すること無く家に着く。
そういえ最近はあんまり見ないな。
「よし、ここが俺の家だ。まず風呂入ってくれ。その格好は流石に無しだ」
「む、有難い。ではこの本を置かせて貰おう」
腰布を前に広げて一冊の本を取り出す。
いや、何処にいれてんの? そうツッコミを入れたいが本人は至って真面目な顔だ。
と、とりあえずはつっこまない方向で行こう。
この家に置いてあった一番大きい着替えとタオルを渡し、風呂場に案内する。
「飯足んないだろ? 俺の分のついでに作っといてやるよ。じゃ、ごゆっくり」
俺はそう告げて風呂場を出る。
キッチンに向かってる途中でタマモが話し掛けてくる。
『随分親切ではないかイズナよ。素性も良く知れぬ男を家に上げるとはなぁ。お前、よもや自分が女ということを忘れたのか?』
「おいタマモ、俺は男だぞ。……そうだな男の勘って所かな。なんかあいつは悪い奴な気がしないよ。仮に悪いやつでも返り討ちにしてやるさ」
『はぁ、お前は痛い目に遭わないとわからいようだな……まぁ良い。いつも通り面は外さない・私の事は言わない・お前の正体を言わない。この三つさえ守ればとやかくは言わんさ』
「分かったよ。お前がバイアロス大陸について教えてくれれば良いのに」
『面に封印されてからは世の事はからっきしだからな。お前に間違った知識を与えてはかなわん』
「はいはい」
俺はキッチンに立ち、細かく切った塩漬けのベーコンと野菜を煮込み、胡椒で味を整えてスープを作った。
後は堅焼きのパンをストッカーから出し、リビングの机に並べる。本当はがっつり肉を食べたいが、マクスウェルの事を考えてなるべく胃に優しい物にした。
本当なら麦粥とかの方が良いが、俺が好きじゃないから止めた。
流石にそこまで気を遣うのは面倒だ。
「今上がった。服まですまない」
「うおっ、やっぱり服は小さいか。ま、まぁ良いか。飯を食いながら聞かせてくれよ。アンタの事とかさ」
風呂上がりで湯気がたつマクスウェルの服はこの家に置いてあった中で一番大きい物を選んだが、それでも小さい。
ピッチピチに張っていて、まるでピッチりとした肌着だ。
筋肉の形が良く分かる、ぷっ、面白。
『くくく……』
思わずタマモも笑っている。
「まずは礼を言わせて貰おうありがとう。……そういえば名を聞いて無いな」
「あ、自己紹介して無かったな。俺はイズナ。こう見えて立派な男だ」
「……? まぁ良い。そうかイズナと言うのか。俺の事はウィリアム……いや、ウィルと呼んでくれ」
何か間があったが俺は気にしない。
気にしないったら気にしない。
「そうだな俺が成人してからの話をしようか―――――」
俺はウィルから無人島での六年間の話を聞くと想像以上に壮絶だ。
ウィルはバイアロス大陸については詳しく知らないようだ。
そこには一度落胆したが、他の話は興味深い。
「えっ、じゃあウィルは18歳なのか。その見た目で?」
「この髭さえなければ年相応になると思う」
あー、髭のせいで老けて見えるのか。
剃刀がこの家には無いからなぁ。
クナイなら有るけど間違いなく肌がズタズタになると思う。
「六年間よく心が折れなかったな。俺は一人だけだったら気が狂いそうたぜ。ウィルは鉄の心臓の男だな」
「俺には交わした約束が有るからな。それを守るまでは死んでも死にきれん」
「その約束って何だ?」
「村の幼馴染との結婚の約束だ。俺と幼馴染は将来を共にする約束を小さい頃にしてな。このバングルは元々二つあり、もう一つは幼馴染が着けている。この誓いのバングルを見る度に約束を思いだして発狂を免れたのだ」
くーっ、いい話じゃん! 俺はウィルの話を聞き、感動する。
何かコイツの力になれないかな。
『人間にしては大したタマだな。面白い』
タマモも話を聞いて一目置いているようだ。
てか上から目線過ぎるだろ。
「……そこでイズナよ、聞きたいことがある」
「おう!何でも聞いてくれ!」
「俺は二つ成し遂げたい事がある。一つは村に帰ること。もう一つはこの手記を筆者の家族まで届けることだ。それにはどうしても貨幣がいる。何か手っ取り早く稼げる良い方法は無いか?」
そこで俺に衝撃が走る。
これは運命だな。
近い目的地、話を聞いた限り十分な実力そして銭無し。
条件は整ったと俺はニヤリと笑いウィルに告げる。
「一つ心当りあるぜ」
「……聞かせてくれ」
俺から出た考えを提案する。
「狩人になって俺と旅に出ないか?」




