第13話 Tの経過/遭難から始まる出会い
おっす、俺イズナ! 対魔ギルドに入ってからもう半年も経っちまった!
いやぁ……色々あったぜ本当に……街の防衛任務や哨戒任務に務めたり、ユリィさんにセクハラされたり、ギルドに来て初めての依頼が対魔ギルド引退した頑固偏屈オヤジの世話と言う便利屋紛いな事をさせられたり、ユリィさんにセクハラされたり、街の対魔ギルドに憧れるガキ大将に因縁つけられたり後はユリィさんにセクハラされたりなんか……
他にも色々あるが詳しく話すと長くなるから割愛するけど割と濃い半年だったな……
でもそのお陰で俺のランクが10から9に上がったんだ!
一つ上がっただけだと思うだろ? 何と見習いから一人前と認められ、ギルドカードと呼ばれる物が渡されるんだ!
これがあると身分証代わりになってアルスト以外の街に入れるようになる代物だ。
これで俺は旅に出られる! ……と思っていたんだが、ギルドマスターのガストさんに9ランク一人では渡りの狩人(旅をしながら狩人としての職務に当たる者)にはなれない。
二人以上のパーティーを組め、と言われたんだ……アルストには今外に出たい狩人は居ない。
つまりランクをもう一つ上げるしか今は旅に出る方法が無いって訳だ。
さて、どうしたもんかな…………
『おい、日記を見てどうした? 昨日嵐で行けなかった浜辺に修行をつけに行くのではないのか?』
タマモが話し掛けてくる。
朝ふと自分の日記が見たくなって読み返していたらタマモが痺れを切らしたようだ。
「いやぁ、この半年を急に振り返りたくなってな。すまなかった、行こう!」
と言うわけで魔の森のずっと西にある浜辺に来た。
何故浜辺に修行に来たかと言われると、ここには人も居ないし砂浜を蹴ったり殴ったりしても環境を破壊しないからだ。
初めて海を見たときはびびったなぁ。
滅茶苦茶広いし、水が全部しょっぱいし。
ここは人が全く居ないから凄く綺麗だ。
昨日の嵐もまるで嘘みたいだな。
『さて、今日は武器を使ってみようではないか』
「応!」
転移後の家の倉庫には母さんが昔使っていた数多くの武器が眠っていた。
二つほど紹介すると一つ目は一対で一本60cm程の長さの肉厚で湾曲した刀で、敵の武器を受けれる枝鉤が着いている兜断。
俺の力でデタラメに振るっても壊れない程丈夫な物だ。
これは今背中に二つ差しているが、動き難くなるから余り好きじゃない。
二つ目はクナイと呼ばれる菱形のナイフのような物だ。
これは切る、突く、投げるに適しているらしい。
ま、全部鍛冶屋のおっちゃんとタマモの受け売りだけどね。
「よっ!
ふっ!」
兜断を振るってみる。自分の拳と違い、どうも慣れない。
俺は武器は余り向いて無いのだろうか。
『お前の【鉄壁】を破られたらそのまま大怪我必至だからな。武器を使うことも覚えろ。これは必ず身を守ることに繋がるだろう』
タマモは俺の考えを読んだかの如くアドバイスしてくれる。
確かにそうだよな。
今迄俺の身体強化は破られたことが無いけど、それはアルスト周辺にとても危険な魔物が現れないからというだけの話だ。
体が暖まってきた所で次にクナイを投げてみる。
武器は魔力を込めて使用すると格段に殺傷力が上がる。
俺が目一杯魔力を込めてクナイを投げると何本か木を貫通させる事が出来る程の威力が出る程だ。
但し俺はコントロールが上手くないから狙った所に投げられないけどね……
「いやぁ物凄く久しぶりに鍛練した気がするなぁ」
『この半年は街に通いつめていたからな。まともに武器を振るうのも殆ど初めてだろう?』
「母さんが武器を持たせてくれなかったからな」
普通の女の子としての暮らして欲しい。
母さんはそう願って俺には包丁以外の刃物は持たせてくれなかった。
それに応えられて無い俺は少しだけ申し訳ない気分になる。
でも俺は男だから……前世のそんな記憶がある事は今度は母さんに伝えるんだ……
「腹減ったし弁当でも食うかなー。あそこの見晴らしの良さそうな岩の上ででも食うか」
『良いではないか。最悪周辺の魔物の警戒にもなるしな』
少し小高い岩の上迄ジャンプを繰り返し、辿り着く。
おっ、良いねこの景色だな。
上を見れば澄みきった青い空。
左を見れば緑豊かな魔の森。
右を見れば何処までも広がる海。
下の浜辺を見ると打ち上げられた腰布一枚の男。
うーん落ち着くなぁ……俺は空を仰ぎ、伸びをする。
「は?」
打ち上げられた男ォ!?
どうみても異常事態だろ!
魔の森という普通の人間には危険地帯を越えたこんなところに人がいるわけが無い。
俺は下の浜辺まで駆けて行き、男に近づく。
「おい、アンタ大丈夫か!」
「うっ……」
呼び掛けてみたら反応があると言うことはどうやら生きているようだ。
「ず……」
「何か欲しいのか!もう一回言ってくれ!」
男は何かを呟いてる。
しかし、声が小さくて聞き取れなかったので、俺はもう一度聞き直す。
「み……水……」
「ミミズか!魔の森に取ってくる!」
『戯けが……水だろう』
はっ、少しパニックになっていたみたいだ。
危うく魔の森に移動するところだった。
サンキュータマモ!
俺は男に水筒を手渡してやると乾いた砂が水を吸収するが如く飲み干す。
相当喉が渇いていたのだろう。
「アンタ、大丈夫か?」
男は尋常じゃない速度で顔色を戻して行く。
コイツ、タフだな。
「すまない、助かった。この礼は必ず返す。俺の名はウィリアム=マクスウェル。通りすがりの遭難者だ」
これが俺の一人目の仲間。ウィルとの出会いだった。
サクサク進めたいが故に半年経たせました。




